05:Shape of heart
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9月11日火曜日、午後21時半。
夜戸は仕事を終えて電車に乗って目的の駅で降り、持っていた仕事用のカバンは、駅のコインロッカーに預け、犯行が行われるだろう7階建ての百貨店の付近に来ていた。
百貨店は閉店時間を迎えても、何人か警備員が百貨店の出入口に立っていた。見回りもいる。
(一応、窃盗犯を警戒してる…)
トコヨで事が行われれば意味がないのに。
夜戸は自販機で冷たい缶コーヒーを買い、とっくに閉店時間を迎えていた銀行の壁に背をもたせかけていた。
百貨店はすぐ目の前にあり、出入口の警備員と目が合ったが、スーツと容姿のおかげか怪しまれることはなかった。
缶コーヒーを飲んで一休みしているていを装い、自分以外の一般人が他にいないか辺りを見回す。
腕を組んだデート中のカップル、犬を散歩させるジャージを着た若い女、少しでも早く到着する電車を逃すものかと走るサラリーマン…。
行き来している通行人はたくさんいる。
途中まではカウントしていたが、同じ人間が戻ってきたりしたので諦めた。
遠くでパトカーや消防車のサイレンはなく、騒ぎは起きていないようだが、内心は時間を急かしていた。
腕時計で時間を確認する。
長針は午後22時を過ぎていた。
銀行の壁に監視カメラが設置されてあるのを視界の端で捉えた。
この位置なら自身の姿は映っているはずだ。
ポケットのケータイが震える。
ツクモからだ。
着信ボタンを押して耳に当てる。
「明菜ちゃん、侵入をキャッチしたさ。アダッチーとツクモも行くから、なるべく大きな戦闘は避けてほしいさ!」
「…わかった」
小声で返し、通話を切る。
次にかける連絡先は、トコヨだ。
テレビの砂嵐の音が聞こえ、辺りの人の気配が消える。
百貨店の前にいた警備員の姿もなくなっていた。
コーヒーを飲み切って空き缶を自販機の横にあるダストボックスに捨て、百貨店に向かって駈け出す。
静寂に包まれた中、自身の足音だけが辺りに響き渡った。
「!」
警備員が出入りしていたドアの鍵は開いていた。
そこから中へ侵入し、百貨店の1階フロアに出る。
婦人雑貨やブティックが並ぶフロアだ。
照明はすべて落とされているが、夜戸の視界は、月明かりの下のように映っていた。
「住居侵入罪…を犯してるはずなのに、罪悪感はそれほどないな…。この世界は、なんとなく…罪の意識を薄めるのかな…」
張りつめた空気の中、小さく呟きながら、フロアの中央にあるエスカレーターへと向かう。
下見は事前に行っていた。
ショップとエスカレーターの配置も覚えている。
エスカレーターは止まり、ただの狭い階段となっていた。
手すりに触れながら上へとのぼっていく。
催会場は7階だ。
急がず、焦らず、耳を澄まし、不審な動きがないか警戒しながら向かっていく。
7階フロアに到着し、より一層忍び足になりながら、展示会の中へと入った。
ガラスケースに展示されてある宝石のアクセサリーは無事だ。誰かがいる気配もない。
シャドウにも出くわさなかったので、安堵の息をつく。
「まさか、今日来ないなんてこと…ないよね?」
“―――――”
「?」
近くで微かな声が聞こえた気がした。
「!」
見下ろすと、すぐ目の前のガラスケースに、テレビの砂嵐のようなものが映った。
わずかに音が聞こえ、身を乗り出して耳を近づける。
“今日は…、…記念…だよ…。受け取っ…くれ。…っ、今度は…、ルビーの…ックレスに……”
男性の声だ。
“嬉しい…。あなた……愛………”
今度は女性の声だ。
映像は乱れながらもその光景を映す。
男性が女性の首にネックレスをつけ、2人は幸せそうに笑い合っていた。
「!!」
映像が切れたと思えば、背後から何かが迫ったのが影として映った。
ガシャン!
咄嗟に右横へ倒れ込むように避けた。
的を失った何かは、夜戸が見下ろしていたガラスケースを砕き、破片と宝石を散乱させる。
「!?」
透明色の、大きな蛇を思わせるほどの触手だ。
それはゆっくりと動き、散乱させた宝石だけを触手の中に取り込み、蛇行しながら後ろに下がる。
「私の宝石に気安く触れるんじゃないよ」
遠くから鋭い声がかけられた。
目を離さず立ち上がった夜戸は、人影と、その背後に構える大きな何かと対面する。
人影の瞳は、鹿田と同じく金色に光っている。
「…あなたが、犯人でしたか」
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