05:Shape of heart
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案の定、次の日、問題の現場が朝のニュースに取り上げられていた。
宝石はすべて盗まれた挙句、ビルが爆破された、と。
犯人はウツシヨに戻って日常に紛れ込み、次の機会を窺うだろう。
もしかしたら、街ですれ違う人間の誰かかもしれない。
9月7日金曜日、午後22時。
足立は、ツクモにやかましく迎えに来られる前に捜査本部にやってきた。
「!」
気配がしてテーブル席のソファーを見ると、夜戸が横になって静かな寝息を立てて眠っていた。
寝顔は幼く、外されたメガネはテーブルの上に置かれてある。
ジャケットは、足立のジャケットと一緒にウォールハンガーにかけられていた。
足立は声をかけず、手前から3番目のカウンターチェアに腰掛ける。
「そりゃそうか…。普段の日常は社会人だもんねぇ…」
日中は弁護士の仕事に追われているというのに、こうして夜中に捜査本部にやってきているのだ。
顔に疲れは浮かばず、弱音も吐かなかったが、身体は人並みに疲労していた。
「学生の時と違って、いつも『責任』が付きまとうからね…」
「アダッチー…」
夜戸に目をやっている間に、ツクモはカウンターの内側からテーブルに飛びのった。
いつものように調子に乗って悪態をついてくるかと思っていたが、声には張りもなく、見るからに落ち込んでいる様子だ。
「…元気なくない?」
「……………」
指摘されたツクモはうつむく。
心なしか、表情が曇っているようにも見えた。
「…ツクモが…、ちゃんと犯人の居所をキャッチできないから…、2人を振り回して戦ってもらって疲れさせてるだけになってるさ…」
(やっぱ、そのことで落ち込んでいるのか…。まさか、今、僕の励ましの言葉とか期待してるの? このキャベツ色は)
足立は小さなため息をつき、頭を掻いた。
「こんなツギハギだらけの身体だけど、いつもなら痛みは感じない…。なのに、最近は、傷付いた2人を見ると、身体のどこかが痛むのさ…。ツクモは、どこかおかしくなったさ…。病気だってしたことないのに…」
足立が思っている以上にツクモは自分自身を思い詰めていた。
生まれて初めてだと言うような、どこか戸惑っている反応だ。
「やめてよ、らしくないな。調子狂うじゃない…。それに元々、おかしな生き物なのは突っ込ませてもらうよ」
「そんな…」
「反省だって、したってしょうがないでしょ。どうするかを考えないと」
ツクモの両脇をつかんで隣の席に下ろし、カウンターに置いていた地図を広げる。
「さすがにあちらさんも僕達に気付いてるって。それでも犯行を続行させるってことは、よっぽど宝石に執着があるか、僕達をおちょくってるか…。ま、理由はともあれ、シャドウの数も増えてる気がするし、根気入れないと、ペルソナ使いがたった2人だけじゃ、そろそろ限界かな…」
「シャドウの数が増えたのは、それほど欲望が肥大している証拠さ…。もう、思い立ってもウツシヨ(日常)にしばらく身を潜めようなんて理性は残ってない…」
ボールペンで、被害にあった店を辿りながら次のターゲットとなりそうな店を探していたが、ツクモの話を聞いて足立は苦笑した。
「うまくいきすぎて、完全に味をしめちゃったねぇ。後戻りも、歯止めも利かなくなってるってことか」
そこで「あ」と何かを思い出した。
「……昔、別の刑事から聞いた、スリ常習犯の話…。そのスリ、お金持ちなのに、3年間バレずに、ずっと他人の財布を盗み続けてたんだ。ようやく逮捕したんだけど、反省して刑期を迎えて出所しても、何度も捕まってんの」
「…なんでさ? スリを楽しんでいたとか?」
「ほとんど無意識。出所後も、嫌な事があった時とか、小銭が欲しい、こいつならやれるかも、今度はバレないかもしれない、って思っただけで犯行に及んだってさ…。スッた記憶は本人になくて、何度かつかまった挙句、泣きじゃくりながら…なんて言ったと思う?「刑事さん、この手を切ってください」だ。ドラマかよ、って当時は思ったよ」
「……自分の力を驕った結果…、自分の力に振り回されたってことさ?」
胴体ごと首を傾げるツクモ。
頬杖をつき、懐かしげに目を細めて話していた足立は、視線をツクモに戻す。
「……そ。特別な才能を手に入れて破滅した人間の話…。今回は…、才能を食べて消してくれる君がいるだけ、まだ救えるんじゃないの?」
「捕まっても、振り回される心配なんてないし」と続け、ツクモの額に人差し指で触れた。
「救う…」
響きが良かったのだろう、感動した面持ちでツクモは反芻する。
「僕が言うと、なんだか笑っちゃうでしょ? ははっ」
足立は自嘲するように笑った。
「なら、早く捕まえてあげないと」
「「!」」
足立とツクモが背後から聞こえた声に同時に振り返る。
「夜戸さん…」
いつの間に目を覚ましたのか、夜戸は身を起こしてメガネをかけていた。
「すみません、仮眠をとってました…」
そう言って立ち上がり、テーブルの下に置いていたカバンから1枚のA4サイズの紙を取り出し、カウンターへと移動してテーブルに置いた。
『秋の大宝飾店開催』
「百貨店のサイトからコピーしてきました。連続窃盗事件が起こる前から宣伝されてます。念のために、確認してみましたが、展示会は変更なく開催される予定です」
9月12日の水曜日から開催される予定だ。様々なデザイナー・ブランドジュエリーが展示販売される予定らしい。
記載されているのはその一部だろう、ダイヤのネックレス、ルビーとサファイヤの指輪、真珠の髪飾りなどがあった。
「エサ発見伝」
口角を上げた足立は思わず口にする。
「百貨店の位置は、被害に遭ったお店から離れていますが…、ここ。ツクモ、範囲は?」
夜戸が地図に指先を置き、昨夜訪れた繁華街から百貨店まで辿る。
2.5~3キロほど離れていた。
地図にのって、指された場所を見てツクモは答える。
「ギリギリ、侵入できる範囲内さ」
「1つでも買い取られる前に、開催準備が整った前日の夜に忍び込むだろうね。百貨店側も、世間が騒いでるのに、展示会まで狙ってくるとは思わなかったのかな?」
開催側の不用心さに、足立は馬鹿にするようにせせら笑った。
「でも、これなら先回りできますね」
日取りは決まり、さっきまで落ち込んでいたツクモも「今度こそやるさ~」と地図の上で飛び跳ねていた。
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