04:What is the common sense?
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「は…っ」
胸を切られた夢を見た。
目が覚めた夜戸は、仰向けのまま大きく息を吸い込み、胸を押さえて鼓動の確認をする。
激しく脈打っていた。
生きている証だ。
部屋のクーラーは切れていて、残暑のせいか、夢のせいか、半袖半パンの寝間着はシーツとともに汗でしっとりしていた。
手探りでベッドのサイドテーブルに置いたメガネをつかみ、目にかける。
起き上がった拍子に頬の汗が首を伝って流れた。
「…お風呂…」
2012年9月3日月曜日、時刻は午前6時前、目覚まし時計より先に起きてしまった。
部屋のブラウンのカーテンを開け、朝日を招き入れる。
夏が残した暑さは、まだ終わりそうにない。
耳を澄ませば遠くで、蝉が最後の踏ん張りをみせるように合唱をしていた。
脱衣所に移動し、寝間着を脱いで洗濯機に放り込み、シャワーを浴びて汗を流したあと、ミラーキャビネットの前に立ちながらドライヤーで髪を乾かし始める。
ふと、鏡越しに胸の傷痕を見た。
きっと、銭湯に行けば周りの客にぎょっとされてしまうだろう。
先日の、あの現実とはかけ離れた一夜を思い出す。
確かにこの傷痕から、ナイフを抜き取ったのだ。
(皮肉…。あんまり人に見られたくなかった傷に…助けられた…)
「おねーちゃん、おはよー」
「おはよ、月子」
ふらりと眠そうに目を擦りながら脱衣所に入ってきたのは、年の離れた妹の月子だ。
「ごめん、起こした?」
「んーん」
眠そうに頭を横に振った。
本来なら、まだ起きる時間ではなかった。
夜戸の隣に立ち、顔を洗って歯磨きを始める。
「朝ごはん、待ってて」
「うん…」
まだ頭は起きていないようだ。
夜戸は仕事服に着替え、リビングにあるカウンターキッチンに移動して朝食を作り始める。
コーヒーメーカーで自身のコーヒーを作り、月子にはミルクたっぷりのカフェオレを淹れた。
リビングの2人掛けのテーブルに朝食を並べる。
皿には、ケチャップをつけたスクランブルエッグ、2本のソーセージ、数枚に千切ったレタスとプチトマト、バターをのせたトーストがのっていた。
基本的に、朝食の内容はそれほど変わらない。
「いただきまーす」
席に着いた月子と一緒に朝食を摂る。
その間、リビングのベランダ近くに設置されてあるテレビをつけた。
「…!」
“放火被害に遭った各建物付近に設置されていた監視カメラに、鹿田容疑者の犯行が映り、それが逮捕の決め手となりました”
ニュースは、鹿田の事を取り上げていた。
画面の右上に鹿田正一朗(25)と表示された、鹿田の写真が映っている。
どうして今まで監視カメラを調べなかったのか、警察は何をしていたのか、と疑問を投げかけている。
鹿田は昨日の朝方、車道で倒れているところを発見され、頭にケガを負っていたので病院に運ばれたそうだ。
監視カメラで決定的な証拠をつかんだ警察は、そのまま病院を訪れて鹿田を逮捕した。
あの世界で悪事を働いても、誰もわからなかった。
監視カメラに映るはずもない。
鹿田本人が言い放ったことだ。
すぐに思い浮かんだのは、ツクモのことだった。
『元の世界に戻ったさ。もうこの世界に来ることはないさ。いずれ、バレないと思ってたはずの悪事もバレる。…いずれわかるさ』
ツクモが鹿田の傷痕を消した後、鹿田は追い出されるようにあの世界から消えた。
「……このことか…」
鹿田の傷痕を消したことでツクモが何かしたのか、あの世界から追い出されることで元々起こる現象なのか。
「何がぁ?」
トーストを頬張りながら月子が夜戸の独り言に尋ねる。
「なんでもない」
そう言って夜戸も朝食の続きを始めた。
数十分後、残さず食べて皿洗いを終え、月子の登校準備を手伝う。
9月を迎え、小学生の夏休みも終わり、学校が始まる。
夜戸は少し反省する。
月子を連れてどこへも遊びにも行けなかったからだ。
月子の夏休み期間中、夜戸は仕事があるので一日中一緒にいるわけにはいかず、月子も理解しているのか、気にしていない様子で近くの図書館や公園に行っていた。
肩甲骨が隠れるほどの長めでウェーブのかかった黒髪をポニーテールにまとめ、本人が気に入っている赤い太めのリボンで蝶々結びをつくる。
上は黒いラインで星の柄が入ったTシャツ、下はピンクのホットパンツに着替え、背中には水色のリュックを背負った。
「いってきまーす」
夜戸は「いってらっしゃい」と見送り、月子の夕食を作って冷蔵庫に入れてから自身の部屋に戻って準備に入る。
ふと、ウォールハンガーに目を留めた。
そこには、足立から預かったジャケットとネクタイがかかってある。
アイロンもかけ済みだ。
(鹿田のこと、足立さんにも報告しないと…)
会える、と思うだけで、自然と夜戸の口元が緩んだ。
クローゼットから自分のジャケットを取り出す。
燃えて使い物にならなくなったものと同じジャケットだ。
『制服は自分の顔だと思え。実力ごと宣伝しろ』
(政治家じゃないんだから…)
父の言葉を思い出しながら袖を通した。
弁護士バッジをつけるのも忘れない。
そろそろ家を出ようとした時、テレビをつけっぱなしにしていたことに気付く。
“尚、監視カメラからも犯行の様子は映っておらず、展示されていた宝石は全て持ち去られた模様…”
「ん?」
別のニュースが流れていた。
このところ宝石店がほぼ毎日と言っていいほど狙われ、一夜にして宝石が全て何者かによって奪われたらしい。
監視カメラの映像が乱れ、直った時には、ガラス越しに展示されていた宝石がなくなっていた。
ガラスは割られていたのに、警報機は鳴らなかったようだ。
「………まさか…ね」
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