00-2:Who do you mean?
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5月1日火曜日。
通い慣れた足取りで図書室を訪れた。
相変わらず、図書室なのに騒がしい。
会話に耳を傾ければ、昨日のドラマとか、休日に何を買ったとか、ゴールデンウィークは何をするか、どこへ行くかとか…。
5月末の中間テストの「ちゅ」の字も出てこない。ここが進学校だと忘れてないだろうか。
あたしの日常に合わせて言うなら、テレビはニュースのみ、プライベートのお出かけは一切許されず、ゴールデンウィークも部屋に缶詰め。
知らない世界の会話の中を抜け、奥の机に移動した。
「………来てない…」
いつもの席に、足立先輩はいなかった。
それでも、いつもの手前右端の席に着き、勉強道具を広げた。
テストが末だからといって、手は抜かない。抜けなかった。
中間テストの結果を学年上位におさめなければ、許されない。
苦手分野は数学。
苦手な公式は予習で何度も勉強した。
テスト範囲になるであろう公式と睨めっこする。
答えはわかっているが、途中の公式で鉛筆が止まった。
担当の数学教師の教え方も悪い。
それははっきりと言えた。
だらだらとそれらしいことを言い連ねて、肝心の部分を強調しない。
国語をやってるわけじゃないんだから簡潔にまとめてほしかった。
関係のない公式の話まで混ぜてくる。
指摘したかったが、目の敵にされたくなかった。
うまく学生生活を乗りこなさなければ。
ここの公式はなんだったか。
いつもより集中できない。
周りの雑音がジャマだ。
耳が勝手に集音してしまう。
いっそ鼓膜を取ってしまいたい。
目の前の公式は、本当にテスト範囲に必要な部分か。
違っていたら勉強する時間がもったいない。
あの人ならどうする。
あの人なら。
考えなきゃ、考えなきゃ、考えなきゃ、考えなきゃ、考えなきゃ…。
「わからないの?」
上から降ってきた声に、はっとした。
色んな、ぐちゃぐちゃな気持ちを自暴自棄で混ぜ込んでる時に腕をつかまれて止められたみたいだった。
顔を横に向けて見上げると、勉強道具を両手に抱えた先輩が立っていた。
「先輩…」
先輩が横からあたしの教科書とノートを覗き込んでくる。
「わからないの?」
2度目の言葉だったが、1度目と違って鼻で笑われた。
顔には出せなかったが、頭に重石が落下する気持ちって、このことだろうか。
「……先輩…、わかるんですか?」
「3年生だよ、僕」
知ってます。
「なんのために勉強してるのさ」
呆れたような口調だ。
肩を竦めて自身の席に移動しようとしたが、あたしは手首をつかんで止める。
「教えてください」
「忙しい」
手を振り解かれた。
しかし、あたしは席を立って再びつかんで食い下がる。
「復習だと思って…」
「先生の話、聞かないからでしょ…」
自業自得、と続けられそうになったので遮った。
「あの先生の説明じゃわかりにくいんです」
「……担当は?」
「来嶋先生」
「あー…」
先輩の目がぐるりと動いた。
同感できる心当たりがあったようだ。
「まあ、僕なら…、あの先生よりか上手く教えてあげられるかもね」
再びあたしの手を振りほどいた先輩は、そう言いながら自分の席に行ってしまった。
やっぱり自力で解くしかないか、と席に戻ろうとした時、「何してんの」と声がかかる。
「え」
「教えてあげる僕が移動しないといけないの?」
コン、コン、と鉛筆の後ろで机を叩いたあと、目の前の席に向けた。
あたしは立ち上がり、勉強道具をスライドさせながら机の手前左端に移動して着席する。
「よろしくお願いします」
無愛想さは自覚していたので、感謝を込めて頭をぺこりと下げた。
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