00-2:Who do you mean?
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桜はいつの間にか全部散っていた。
ピンクの景色が緑に戻っている。
秋になるまでは、この景色が続くのだろう。
桜だ、紅葉だ、ってみんな嬉々として口にするけど、緑の葉もいいものだと思う。
4月18日水曜日、昼休みの時間、あたしは図書室に訪れた。
入口からこっそりと中を窺い、彼を見つけた。
お気に入りの場所なのか、1つの机に6席中、奥の左端の席―――同じ席に座っている。
ノートを開き、参考書を見ながら勉強中だ。
怪しい行動が変に目立つ前に、あたしは図書室に足を踏み入れ、他の生徒達にぶつからないように奥へと移動する。
「…足立先輩」
「!」
あたしは先輩の隣に立ち、声をかけた。
躊躇いはなかった。
先輩は鉛筆を止めてこちらを見る。
「こんにちは」
この前はできなかった挨拶だ。
怪訝な表情を浮かべた先輩だったが、すぐに、あ、と思い出した顔になった。
それから露骨に眉をひそめられる。
「この間は、本を取ってくださったのに、失礼な事を言ってすみませんでした」
遅れてしまったが、あたしはあの時のことを謝った。
頭も下げる。
無視されるかと思ってたけど、「別に。気にしてない」と冷たく返された。
顔を上げると、ノートに視線を戻して鉛筆を動かしていた。
「…何で僕のこと知ってるの?」
鉛筆を走らせながら尋ねられる。
「え?」
「僕の名前」
「…ああ…、ノートです。この席見たら、先輩の名前が書かれたノートが置かれてたので…、見てしまいました。名前だけ」
「ふーん」
そう言いながら、先輩はさりげない仕草で筆箱を動かし、下にあった別のノートの名前の部分を隠した。
覚えられたくなかったのだろう。
悪いことをしてしまった。
「本、取っていただいてありがとうございました」
もう一度頭を下げた。
「言っとくけど、もう取らないから。たまたまだったし」
先輩はやはりこちらを見ずに突き放すように言った。
あの時は先輩の目的の本がたまたまあたしの近くにあっただけだ。
今度は脚立に頼ろう。
「はい。次はちゃんと脚立を使います」
そう言ってあたしは、同じ机の手前の右端の席に座り、勉強道具を置いた。
先輩は再び鉛筆を止めてこちらを見る。
わずかに目を丸くしていた。
あたしは何かしたつもりはないが、何かに驚いた様子だ。
「あ…、勉強のジャマはしません。あたしもそのクチなので」
持ってきた参考書と教科書を見せる。
「…そこに座るの?」
嫌がっている様子ではない。
単純な疑問で聞かれたのはわかった。
「なんとなく…。…他に静かな席がないんです…。絶対ジャマはしないので、ここでよければ相席してもいいですか?」
目の前に座るわけでも、隣に座るわけでもないが、承諾してくれるか心配した。
拒否をされれば、静かに勉強する場所がなくなってしまう。
「……好きにしなよ。僕の席じゃないし」
先輩は小さく言って、勉強に戻る。
「はい…」
あたしはまた「ありがとうございます」と礼を言って、自身のノートを開いて筆箱から鉛筆を取り出した。
視線をわずかに上げて先輩を見る。
こちらのことなど気にせずに勉強に専念していた。
科目を英語に移したのか、英和辞典を開き、ズレそうになったメガネを指先で押し上げている。
仕草の一つ一つに気を留めてしまう。
ずっと窓から窺っていた姿が、今、あたしの左斜めにいることを実感した。
不思議と鼓動が早くなる。
窓から窺っていた時は、こんな緊張した気持ちにはならなかった。
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