03:I won't let that happen
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「……………」
足立の視線が夜戸の胸元に移った。
焦げて胸元が空いたシャツ。
そこから見える、意外とくっきりとした谷間に十字の赤い傷痕が際立ち、視線の角度を変えれば胸の下着が見えそうだ。
夜戸が着ていたジャケットは、半分以上が焦げてしまい、使い物にならない。
足立は自身のジャケットを脱ぎ、夜戸に羽織った。
「足立さん?」
首を傾げる夜戸に構わず、足立は自身のネクタイも外して夜戸の襟首に巻いた。
「これ、預かっといて。どうせそのカッコじゃ帰りにくいでしょ。……ダメだ、他人だとうまく結べないや」
ネクタイを上手に結べず、途中で諦めた。
「いいんですか?」と聞きながら、夜戸はネクタイを結んでみる。
いつも曲がっていた足立とは違って丁寧だ。
空いた胸元が隠れる。
「あげるわけじゃないからね? 特にネクタイ。大事なものだから」
「はい…。預かりますね。…ありがとうございます」
ジャケットのサイズは少し大きい。
手が袖で隠れてしまいそうだ。
「……誰に貰ったものなんですか?」
ネクタイの端を持って足立に尋ねる。
「稲羽署にいた頃、お世話になった上司に。昔、自分が使ってたものらしい」
「そうですか。それなら大事にお預かりしますね」
「それなら?」
「ところであのバクさんどこ行ったんですか?」
「あ」
忘れてた、と足立は辺りを見回す。
ツクモがいなければ元の世界への帰り方がわからない。
ツクモは近くにいた。
倒れている鹿田の傷痕に鼻を押し当てている。
「何してんの?」
足立と夜戸はツクモに近づいた。
「ムシャムシャ…」
「「!?」」
傷痕から引きずり出すように取り出したのは、直径15センチほどの赤いダーツだ。
戦いの最中に投げていたダーツより長く、最初から炎を纏っていたが、それをツクモは「あち、あち」とおでんのように食べていた。
「ゴクン」
喉を鳴らして呑みこんだ時、鹿田の傷痕が目を閉じるように塞がった。
「これでこの人、悪い事できないはずさ」
鹿田の身体にノイズがかかったように歪み、やがてテレビ画面の砂嵐の音とともに消えた。
「!? あの人は…?」
夜戸は前屈みになり、鹿田が倒れていた場所に触れてみるが、跡形もなくなっている。
「元の世界に戻ったさ。もうこの世界に来ることはないさ。バレないと思ってたはずの悪事もバレる。…いずれわかるさ」
ツクモが夜戸に振り返ってそう言った。
「あ、死んでないから安心するさっ」
はっとして安心させるように付け加える。
「はいはい、わかったから。お仕事終わったんだから、そろそろ帰してくれる?」
足立は、ぽーん、とサッカーボールのようにツクモを蹴った。
「イタッ! ちょっとヒドいさ! 帰さないさ!?」
「そうなったら風穴空けちゃうよ?」
リボルバーを取り出す足立にツクモは「わかったわかった!!」と焦りを見せる。
「あの、あたしは…」
「明菜ちゃん、ケータイ出してっ」
言われるままに、夜戸はケータイを取り出して開けた。
アンテナは相変わらず圏外のままだ。
「電話帳に変わった宛先ない?」
「…『ウツシヨ』?」
表示はできるが、電話番号の部分は空白だ。
「戻りたい場所でかけると、その場所に戻れるさ。道は元に戻ってるし、シャドウに襲われる心配はないさ」
「……………」
「……送ってく?」
「いえ…、大丈夫です」
足立に遠慮して、首を横に振った。
足立も食い下がらず、「あ、そう」と引く。
ふと、見上げると、空が白んできた。
「ヤッバ。僕、戻らないと」
被告人の朝は早い。
部屋に訪れた刑務官に不在がバレては面倒だ。
「うひゃっ」
足立はツクモの頭をつかみ、脇に抱えて夜戸に背を向ける。
「じゃあ夜戸さん、また面会室で」
「はい。足立さんもお気をつけて」
挨拶をして、適当に建物のビルに入った足立を見届けた夜戸。
胸に左手を当て、空を見上げる。
「……なんとなく…、見られたくなかったな…」
ネクタイに触れると、鼓動がわずかに早くなった。
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