03:I won't let that happen
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女の声だ。
夜戸にとっては知っているはずの声だが、声の主が頭に浮かばない。
声の主は、早くここから出せと胸の内を激しく叩き、煽ってくる。
“汝の痛みは我の痛み…。我の痛みは汝の痛み…。汝、今こそ己が儘に解き放て…!! 我が名は…―――!!”
夜戸の胸元に刻まれてある、十字の傷痕が赤い光を帯びた。
解放を求め、痛みも一層増していく。
「うああああああああ!!!」
身体ごと引き裂かれそうな痛みに絶叫し、足立と鹿田がその様子に目を剥いて動きを止めた。
「まさか…」と足立は呟く。
「ペ…ル…ソ…ナ……!!」
絞り出すような声で夜戸が発した瞬間、形と成った何かが傷痕から生えるように出現し、右手でそれを躊躇いもなく握りしめて力任せに引き抜いた。
「はぁ…、はぁ…」
激痛から解放された夜戸の右手には、日本刀の柄、刀身は刃渡り20センチほどのサバイバルナイフの形をした武器を握りしめていた。
ブレードの部分は、稲妻が走ったような緑色の模様があった。
「なんでテメーがそんなもん出してんだァ!!?」
鹿田の獲物が夜戸に変更される。
「!!」
マサカヤマツミは足立の頭上を通過し、夜戸に向けて勢いよく炎の息を吐いた。
「ギャー!!」
接近する炎に、夜戸の近くにいたツクモが悲鳴を上げる。
夜戸は冷静だ。
近づく炎を見つめ、持っていたナイフを逆手持ちに変えて一気に振り上げた。
「「「!!」」」
夜戸以外の全員が目を剥いた。
炎の塊が木端微塵にされたかのように飛び散ったからだ。
細かい火花の雨が降る中、大きな人影が立っていた。
夜戸と同じ髪型だが髪色は銀、頭には子鹿のような2本の小さな角が生え、両目は穴のない黒い鉄の仮面で覆われ、首には同じく黒い鉄の首枷がかけられ、その仮面と首枷は、頬と唇を閉じ込めるように5本の黒い鎖で繋がっていた。
襟が立った、エメラルドグリーンのロングコート、閉められた胸元には深紅の太いラインが十字架のように縦横に伸びている。
ロングコートの腰下は開かれ、漆黒の両脚が露出し、膝は鎧のような膝当てがつけられ、ヒールのついた黒い足の爪先はピエロの靴のように曲折している。
右腕は顔と同じ鎖が巻かれ、長袖から見えた手は両脚と同様に黒く、右手には、日本刀の柄をもつ刀身の長い曲刀を握りしめていた。
「『イツ』…」
夜戸は呟くように名を呼んだ。
「う…っ」
イツの召喚で気力を持っていかれ、不意に身体を襲った脱力感に片膝をついた。
それをチャンスとばかりに鹿田は歪んだ笑みを浮かべる。
「潰れろォォ!!!」
はっと顔を上げた夜戸はイツに武器を構えさせた。
「なるほどね、炎を吐かせるにはチャージタイムが必要なのか」
「!!?」
「バレないとでも思った? ナメすぎ」
ドス!!
マサカヤマツミの後頭部を、背後から突進してきたマガツイザナギの刀身が貫いた。
「ぐあああああああ!!!」
急所を貫かれたマサカヤマツミは砕け散り、鹿田は頭を抱えてうずくまる。
「もっと…、もっともっともっと燃やしてやるんだ…!! 何が新しい家だ!? 楽しい生活だ!? 目ェキラキラさせやがって、みんなバカじゃねーか!!? いつかなくなっちまうんだよ、そんなもん!! 城だと思ってたもんが、燃えやすい豚小屋にしか見えなくなっちまうんだ!! だから俺は…!!」
ゴッ!!
勢いよく頭を上げた瞬間、いつの間にか目の前まで近づいた足立がリボルバーのグリップでその横っ面を殴った。
硬いグリップは一瞬で鹿田の意識を奪った。
「話は署で聞かせてもらおう。…なんてね」
足立は肩を竦め、リボルバーを腰にしまい、涙を浮かべて気絶している鹿田を見下ろす。
「要は…、世の中クソだと思ってやった…ってことだろ?」
「知ってるよ」と呟く足立の口元は、笑っていなかった。
「わかるよ」とは言わなかった。
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