38:Forever and Ever
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坂道を上がってきたのは、腰まで伸びた栗色の長い髪は風に揺れ、顔には馴染み深いメガネをかけた、見た目は20代半ばくらいの、すっかり大人びた女性となった夜戸だ。
白い麦わら帽子を被り、白のブラウスと青緑色のスカートを着ていた。
手には黄色のキャリーケースがある。
足立はメガネに目を留める。
ずっと掛け続けてくれていたようだ。
足立がいつ出所するのか知らなかった夜戸は、動揺が隠せずにいた。
不意に脳裏をよぎったのは、昨日稲羽市を訪れた際に会った堂島のことだ。
『明日、大事な人を連れていきますから、できれば私服で例のカフェで待っていてください。詳しい話はその時に』
(堂島さん…!!!)
聞いてないです、と叫びたくなった。
足立が帰って来るのなら、もう少しオシャレをしておけばよかったと思った。
「え…、いつ…出所して……。あ! その手紙…」
夜戸が足立の手の中にある手紙の存在に気付いた。
クローゼットの奥に隠してあったものなのに、なぜ足立の手に渡っているのか。
わけもわからず顔を紅潮させて慌てたように一歩踏み出すと、足立は足早に夜戸に接近して少し背が伸びた体を抱きしめた。
帽子は地面に落ち、突然のことに夜戸は硬直する。
「つかまえた」
「あ…、足立さん…」
互いに、少しだけ、汗の匂いがした。
嫌な匂いではない。
「僕も、同じだよ」
「え…?」
「手紙…。僕も、ずっと出しそびれてた。あとで、見せるから、勝手に見たのは許して。はは…。恥ずかしいけどね…」
足立の背中に回された夜戸の両腕が、足立を強く抱きしめる。
幾度となく夢に見たが、夢ではない。
「おかりなさい…」
この日ために、心の箱に大切にしまっておいた言葉だ。
「ただいま…。待たせたね…」
髪を撫でる。
指どおりがいいのは変わらない。
「ずっと…、ずっとずっと待ってました…」
こぼれる涙が、足立のシャツに染み込んだ。
「ねぇ、聞かせて。君は今でも、僕で…、俺でいいの?」
「今も昔も、あなただけです」
何度だって言うつもりだ。
「バカだね…。僕を選んだら、幸せになれないかもしれないよ?」
「あたしは、誰もが羨む幸せが欲しいわけじゃありません。あなたが欲しい。足立さん、あなたが好きです」
言葉だけじゃ足りないが、わかってもらうまで足立の耳から身体に詰め込むつもりだ。
「明菜さん、綺麗になったね」
突然名前で呼ばれ、息が止まりそうだった。
足立の両手が、夜戸の両手首を軽い力でつかまえる。
「人間の寿命は大体80年くらいだ。僕は半分くらい使って、もういいおじさんになっちゃったし、殺人の前科がある。苦労だって絶対にかけると思う。それでもいいなら、僕の残り全部の人生を受け取ってくれないかな?」
夜戸は、両手の位置をずらし、足立の手と重ねた。
「…はい…。喜んで。代わりに、あたしのもの、全部丸ごと受け取ってください。いっぱい話しましょう。そして、いっぱい生きましょう。これからを、2人で」
足立は夜戸のメガネを外し、夜戸は開いた目で足立と視線を合わせる。
それから、どちらからともなく唇を重ね合わせた。
離れがたい感触だ。
磁石のように引き合い、再び抱きしめて互いの心音を押しつけ合い、夏の暑さを忘れさせた。
「また、名前で呼んで」
「透さん…、大好きです」
「……しばらくは言えないかもしれないよ。よく聞いて」
そう言って足立は夜戸の耳元に口を寄せる。
「…………――――」
耳元に囁かれた言葉に、夜戸は驚いた顔をしたあと、
「あたしも」
傍らに咲き誇るヒマワリに負けない笑顔を浮かべた。
手を繋いだ2人は、そのまま喫茶店の中へと入り、「おかえり」という温かい言葉に迎えられる。
「久しぶりに、君のコーヒーが飲みたいな」
「はい。おかわりもありますからね」
遠慮はいらない。
これから先も、ずっと―――…。
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