38:Forever and Ever
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月日は流れ、季節は夏。
今まで足立に届いた手紙には、外で暮らす知り合いの著しい変化が書き綴られている。
森尾と姉川は結婚し、今では2児の父親と母親だ。
森尾がどこで働いているのか詳細は明記されていなかったが、順調らしい。
姉川は個展を開くほどのカメラマンとなり、世界の現状を写真を通して世の中に伝えている。
ファッションデザイナーの落合は多忙な暮らしをしている中、先日、数年の同棲生活を経て、羽浦と結婚したばかりだ。
入籍して間もなく2人の子どもがおなかに宿っていることが判明した。
めでたい話である。
異世界に関わった者達も、今はそれぞれ新しい生活を送っていた。
鹿田は知り合いの紹介で出会った人にバーの経営を任され、今では2つ年下の彼女もいる。
放火の前科があると彼女に知られているが、理解された上での交際らしい。
これはまた結婚する知り合いが増えるかもしれない。
都口は別れた旦那と和解し、暮らしはけっして裕福ではないが、今度は互いを友人として支え合いながら小さな田舎町で生活を送っている。
道草は出所後、フラワーショップを営み、月に1、2回の頻度で息子と面会していた。
夜戸の後ろ盾もあったのだろう。
今ではまともに向き合えるほど、親子の仲は改善されている。
都口とはすっかり仲のいい友人同士となり、時折会っては都内でショッピングなどを楽しんでいるらしい。
都口の元・旦那からは、都口の金銭感覚を心配して都口が買い過ぎないように陰でお目付け役を任されていた。
小栗原は親友と共に、いじめに悩む子ども達の相談役として活躍していた。
森尾は時折飲み会などに参加しているらしい。
小栗原は、森尾の酒癖が悪くてなんとかしてほしいと毒づいていた。
夜戸影久は稲羽市に事務所を移し、その町で陽苗と2人きりの生活を送りながら、稲羽市の町弁として健在している。
月子は、正式に夜戸家の養子として迎え入れられ、夜戸とは本当の姉妹として共に暮らしている。
ツクモも一緒だ。
神剣が消滅したことで身体の時間も動き出し、背も髪も伸びたようだ。
久遠は司法試験を獲得してから数年で海外に渡り、今では国際弁護士だ。
近い未来、夜戸と法廷で対決する日がくるかもしれない。
昌輝と二又に関しては、相変わらず行方知れずのままらしい。
だが、毎年欠かすことなく、夜戸日々樹の墓前には、ヒマワリの花束が供えられているそうだ。
「お兄さん」
手紙を読み返しながら歩いてる途中、不意に横から伸びた手に袖を引っ張られて立ち止まる。
「信号」
高校の制服を着た登校中の女子高生に注意された。
足立は「あ」とそこが車が往来する交差点であることに気付く。
信号は赤で、うっかり渡ってしまうところだった。
「ごめんごめん。ありがとね」
愛想よく笑ったつもりだが、少女の目は厳しいままだ。
「気を付けてください。赤は止まる。みど…青は進む、です」
勝気のある少女は何かを言いかけそうになって恥ずかしそうに目を伏せる。
仕草が夜戸と似ていたので、足立は笑いを堪えた。
横断歩道の先にある歩道から「みどりーっ」と少女を呼ぶ声が聞こえた。
同じ学校の友達のようだ。
少女を見かけて手を振っている。
少女も手を振り返した。
「それじゃあ」
信号は青緑に切り替わり、少女は小走りで友達の元へと行く。
小さく手を振り返した足立は、「ふーん…」と自分の頬に手を当てた。
(お兄さん…ね。まだそう見えるのか)
出所したばかりの足立は、駅へと向かう。
行き先は路線図を見て決めようと思った。
街路樹からは蝉の鳴き声が響き渡っている。
「暑…」
遠くの青空に入道雲が見え、照り付ける太陽の光に目を細めた。
暑さに耐え切れずに久しぶりに着たジャケットを脱いで脇に抱え、赤いネクタイを緩める。
シャツが汗で湿ってきた。
「天気はいいけど、何もこんな季節に放り出さなくたっていいじゃない…」
ぼやきながら歩き、目先に駅のホームを見つけた。近くには喫茶店もある。
先に立ち寄ってアイスコーヒーでも飲もうかと考えた時だ。
「足立!」
見覚えのある人物がロータリーに立っていた。
「げ!!」
堂島遼太郎だ。
足立の行動はお見通しなのか、張り込まれていたようだ。
「見つけたぞ」
ずっと待っていたのか、グレーのシャツが少しだけ汗で濡れている。
刑事の鑑だ。
堂島は腕を組んでタバコを咥えたまま、狼狽える足立の姿を見て口角を上げた。
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