03:I won't let that happen
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「女一人、男一人、わけのわからん生き物一匹、目撃者増えてんじゃねーか…。火柱が増えたと思えばいっかぁ!!」
鹿田が両手にダーツを握りしめる。
「ぐずぐずしないで早く立って!」
「!」
危険を察した足立は、夜戸の左手首をつかんで引き上げ立ち上がらせる。
足立の手は熱く、どれだけ自身の身体が冷え切っていたのか自覚した。
8本のダーツが投げられるが、それらは夜戸たちの頭上を通過し、向こうの地面に突き刺さる。
「どこに投げて…」
ボッ!!
ツクモが馬鹿にしようとした時、先程のダーツが起爆して地面から火柱が噴き上がった。
逃げ道を塞ぐ炎の壁だ。
熱風がこちらに近づくなと唸り声を立てて威嚇しているようだ。
「逃げ道がない!」
ツクモは焦るが、足立は慌てる素振りを見せない。
ほくそ笑む鹿田に向き直った。
「なんとかしろっつったのはそっちでしょーが。“一旦逃げてじっくり作戦タイム”がなくなっただけ!」
「ここにいて」と夜戸の手を放し、腰に挟んだリボルバーに手をかける。
「一騎打ちなんてカッコいいのは苦手なんだよ?」
やれやれといった様子でリボルバーを構え、銃口を向けた。
「そこの女以上に、テメーは最っ高に情熱的に燃やし尽くしてやるよ!!」
鹿田は額のバンダナを引き千切るように乱暴に取り、晒された額にあったのは、大きくて鋭利な刃物で切られたような横一線の生々しい傷痕だ。
すっかり頭に血が上った鹿田に共鳴するかのように赤みを帯びている。
「!!」
鹿田の傷痕を見た瞬間、夜戸ははっと目を見開いた。
「何? あの真っ赤な傷…」
足立は警戒心を解かない。
禍々しい何かを感じたからだ。
「マサカヤマツミ!!」
「「!!」」
鹿田の呼び声に応え、鹿田の身体から抜き出た赤い巨大な影が姿を現した。
宙に浮かぶ首だけの巨人。
頭はボロきれの包帯で巻かれ、周りは白い髪が漏れ、顔は目と口しか見えない。
目と口は溶鉱炉の如くオレンジ色に光り、時折炎を排出している。
「“ペルソナ”!?」
足立は思わず口にした。
怪物を見上げるツクモは、「あわわわ」と大口を開けて大袈裟に震え、たまらず夜戸の胸に飛び込んだ。
ツクモを抱える夜戸は目が離せない。
「ボスっぽいのがきたねぇ」
「燃えろォ!!!」
鹿田が一喝マサカヤマツミが息を吸い込み、炎を吐き出す。
「マガツイザナギ!」
足立が叫ぶと、鹿田の時と同じように傍に何かが出現し、炎に向かって果敢に向かい、逆手に持つ、柄の長いナイフのような武器を振り上げた。
「!!」
細身の人型のペルソナだ。
鎧のような仮面を被り、長ランのような服装で、全体は赤黒く、毛細血管のような紋様が巡っている。
「よかった。僕のだけ出なかったらどうしようかと思ってたよ」
炎は分断され、夜戸とツクモを避けるように両脇を抜ける。
「うぜぇな…! 俺と似たような力、使ってんじゃねえよ!!」
鹿田は憎悪を込めて足立を睨み、勢いよく右腕を振るのを合図にマサカヤマツミをマガツイザナギに向けて突撃させる。
「!」
イノシシのように捨て身で突進してきたマサカヤマツミを武器で防ぎ、力任せの押し合いになる。
「ッ」
互いに、押し負けてなるものかと歯を食いしばった。
「ふ…っ」
鹿田が不気味に笑い、右手のものを投げつける。
「!?」
3本のダーツが足立の右太ももに突き刺さった。
がくん、と右足のバランスを崩しかけるが、踏み止まる。
自身のペルソナに力を使っているのか、夜戸の時のように燃えはしなかったが、すぐに引き抜いて捨てた。
「ぐっ」
集中力が削がれ、マガツイザナギが背後の雑居ビルに押し付けられる。
ペルソナが受けた痛みが足立の身体に伝わった。
「卑怯なことしてくれるじゃない…!」
ペルソナに集中しながら体勢を持ち直し、リボルバーの銃口を再び鹿田に向けた。
「まあ、こんなことしなくても俺の勝ちだけどな!」
「どういう…」
意味、と続けようとしたところで、背後から「うわ!?」とツクモの声が聞こえ、肩越しに振り向いた。
炎の中から、不気味な仮面をつけた黒い塊のバケモノが5体現れ、ツクモを抱えた夜戸を取り囲んだ。
夜戸はたじろぐが、後ろは炎の壁で逃げ場がない。
「シャドウ…! あんなもんまで味方につけてるのか…」
「銃を下ろせよ。俺の一声で、あの女はぬいぐるみと一緒に無惨に殺されちまうぜ?」
どうせ全員殺すくせに、と眉をひそめる足立は素直にリボルバーを下ろさない。
「下ろせ」
鹿田は声を低くして再度命令する。
「君さ、僕に人質が通用すると思ってんの? こう見えて殺人罪の被告人なんだよね。血が通ってるようにみえるのは僕のペルソナだけだよ」
小さく笑う足立はあくまで悠然とした口調で、時間稼ぎのように言葉を発しながら打開策に頭を巡らせた。
(ったく、即決の方法があるってのに、どうして回りくどいやり方を考え始めちゃうんだか…)
使役しているシャドウに命令を下す前に鹿田を撃ち殺す、という方法だ。
ヘタに刺激するより沈黙させた方が効率がいい。
しかし、足立は実行しない。
自分自身が決めたことだ。
ここが異世界だとわかってはいても、ルール違反になる。
「アダッチー!」
背中で2人の視線を感じる。
(撃って殺すわけにも、見殺すわけにもいかない…。さて…、あのガキならどうするか…)
癇に障ったが、かつて自身を打ち負かした相手の事を思い浮かべる。
どうする、という質問に、彼がなんと答えるか。
この状況を、いとも簡単に打開してくれるのか。
深く息を吸い込み、ため息をついた。
「……はぁ…。これしかないよね…」
「!?」
鹿田に背を向けた足立は、銃口をシャドウに向けて立て続けに発砲した。
トリガーを引いては素早くリボルバーのハンマーを起こし、すべて一撃で顔面を打ち抜き、シャドウたちは溶けるように消える。
リボルバーの銃弾をすべて使い切った。
夜戸は、足立の背後で嘲笑う鹿田を見る。
マサカヤマツミはマガツイザナギから離れ、足立の背中を狙い、大口を開けて炎を吐き出そうとしている。
「なははははははは!! バカがいたなぁ!!!」
鹿田が絶好のチャンスを逃さないことは予想できていたのだろう、足立は唇が薄く笑っている。
(どうして)
夜戸は自問自答する。
(どうして、あたしは助けられてるの?)
脳裏をよぎったのは、静かな、誰もいない図書室だ。
「う…ッく!」
「!?」
呻き声とともに両手を離されたツクモは、足下に着地し、何事かと夜戸を見上げた。
夜戸は息を荒げ、歯を食いしばって苦しげに唸り、両手で胸元をぎゅっと強く押さえつけている。
「うう…っ!」
まるで見えない鋭利なナイフに突き刺されたような、灼熱の痛みだ。
時間が止まったような感覚になった。
周囲の音が聞こえなくなり、代わりに頭痛とともに何者かの声が脳に響き渡る。
“痛むだろう。それが汝の罪の痛み…”
(誰…?)
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