37:See you
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3月19日火曜日、午前7時。
足立は、ようやく、といった思いの中、天井を見上げながら振り返る。
数日前に捜査本部に立ち寄った最後の日も、コーヒーを飲みながら何気ないひと時を過ごし、「またね」と言ってみんなを見送ったあとは、夜戸と2人きりになって残りの一夜をじっくりと過ごし、朝を迎えた。
『いつかまた、今度は現実の世界で、君のコーヒーが飲みたいな』
『ずっと、待ってます…』
『一生、君のところへ行けないかもしれないよ?』
『それでも、あたしだけは、待ち続けますよ』
小さな淡いピンク色が窓から入ってきた。
足立は半身を起こし、視線で追いかけた。
ひらひらと室内を舞い、やがて手を伸ばした足立のてのひらに落ちる。
見ると、桜の花びらだ。
「咲いたか…」
裁判所へ護送される間、咲き誇る桜は見られるだろうか。
天気もいい。
春風も入ってきて髪をもてあそんでいく。
番号が呼ばれ、独居房の鍵が開けられた。
「出ろ」
数人の刑務官に出迎えられる。
逃走防止の為に両手首には手錠がかけられた。
独居房を出た足立は、向かい側の独居房に目をやる。
連れ出される前に食器口を覗いたが、森尾は寝ているのか姿は確認できなかった。
「進みなさい」
「はいはい、と」
刑務官に促され、廊下を数歩歩いた時だ。
「足立ぃ――――っっ!!」
突然、大声が上がった。
全員の足が止まる。
刑務官、そして他の収容者も何事かと騒いだ。
階の違う雑居房まで聞こえるほどの大声だ。
収容者達がざわつく中、鹿田は「あいつ…」と苦笑せずにはいられなかった。
「がんばれよ―――っっ!!」
食器口から右腕を伸ばし、懸命に振っている。
やめなさい、静かにしろ、と怒鳴りながら他の刑務官が足立から離れた。
(あーあ、何やってんだか…)
呆れ果てて深くため息をついた足立は、狼狽える刑務官たちに目をやり、一瞬の隙を狙って踵を返す。
「あ! おい!」
刑務官を振り切り、他の刑務官たちの間を通り抜けて森尾の独居房まで走り寄った。
パンッ!
そして、足立の手は森尾の手に当てられ、軽快な音が廊下に反響する。
「バーカッ」
「やかましいっ!」
互いの顔は見えなかったが、悪態をつき合う2人の口元は笑っていた。
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