37:See you
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接見室では、夜戸と足立がアクリル板越を挟んで向き合っていた。
出廷する裁判について一通り話したあと、夜戸は腕時計で時間を確認する。
「今日は運動の時間、お休みにしたんですね。森尾君と話さなかったんですか?」
前もって、足立に指定された時間に接見の時間を入れてもらった。
「昨日の運動時間は、何か言いたげで泣きそうだったし、今日で爆発するかなって思って避難したんだ。本当に森尾君って、泣き虫というか、暑苦しいというか…。あ、これ、本人に言ったら怒られちゃうから内緒ね」
「森尾君らしいですね。…いい友達じゃないですか」
「友達…ね。まあ、知り合いどころじゃなくなったよね…。普通に出会ってたら友達なんてありえない人種だし」
足立の態度は相変わらずだが、否定的ではなかった。
「夜戸さん、明日はよろしくね」
「はい。このあと、堂島さんが来るらしいですね」
堂島とは連絡を取り合っていた。
面会に来るのも聞いている。
足立にも数日前に手紙が届いていた。
「そ。堂島さんだって忙しいのに、わざわざ予定空けて会いに来てくれるんだもんなぁ…。喝入れられそ…」
早くも気合を入れて臨まなければならない通過点らしい。
「…では、あたしはこれで…」
やるべき打ち合わせは終わった。
次に足立に会うのは、明日の法廷になる。
「あ。夜戸さん」
「?」
最後に、と足立に伝言を頼まれた。
その後、接見室をあとにした夜戸は、
「堂島さん」
「ああ…、夜戸さん…」
堂島と拘置所の出入口で会って会釈し、一言二言会話してから背中を見送った。
本来はそのまま真っ直ぐ帰るところなのだが、わざと駐車場の方へ遠回りする。
「…本当にいた」
拘置所のパーキングに駐車された堂島の車を見つけ、その傍らには、高校生くらいの青年が佇んでいた。
雰囲気は大人びていて、背もすらりと高く、グレーの髪色、前髪は眉を隠し、癖を知らない丸みのある髪型で、整った顔立ちをしている。
「こんにちは」
夜戸は落ち着いた歩調で近づき、青年に声をかけた。
青年は警戒することなく「こんにちは」と愛想よく返す。
「あなた、堂島さんの甥っ子さん?」
「はい…。あの、あなたはもしかして…」
夜戸のジャケットには見覚えがあった。
胸に付けた弁護士バッジにも目を留める。
「足立さんの担当弁護士の、夜戸といいます」
「やっぱり…」
夜戸は、こちらが言いたい気分であった。
やっぱり、というのは夜戸のセリフでもあり、足立のセリフでもある。
「…足立さんからあなたへ伝言をあずかってます」
何の用だろうか、と不思議そうな表情をしている青年に用件を言った。
「足立さんから? 俺に?」
青年は目を丸くする。
夜戸は少し咳払いし、足立の口から聞いた伝言を一言一句間違えず身振り手振りを含めて伝え始めた。
「僕の予想が外れててほしかったけど、やっぱり来ちゃったんだ? 堂島さんに似てお節介な君のことだから、どーせ、堂島さんについてきたのはいいけど、挙句に遠慮してどこかで待ってんだろ? 君がいると、せっかくの裁判前日なのに僕が面会拒否すると思ってさぁ。ははは。その気遣いも相変わらずウザいよ」
口調や笑い方だけでなく、ひとつひとつの仕草や顔つきも似ている。
青年にとっては、足立本人を前にしているかのようだ。
「進学か就職で忙しいのに、僕に構ってる場合じゃないでしょ。世の中大変なんだから、今のうちに心した方がいいよ。こっちは10も下のクソガキに心配されたくなんかないんだよ。バーカ。……だそうです」
我ながら似ているな、と自負して夜戸は苦笑をこぼした。
「…あの人らしいな」
傍から聞けば気を悪くするだろう言葉も、足立と言う人間を理解しているのか、青年は嬉しそうだ。
「伝言、ありがとうございます」と丁寧に一礼までしてくれた。
「足立さんを、お願いします」
そう言ってたと足立が知ったら、それこそ機嫌が悪くなりそうだ。
「それはもう、堂島さんから言われました。どんな結果になっても、あの人は後悔なんてしないと思う。だからといって、ただ判決を待ってるだけじゃない。あたしも、彼も、心して裁判に臨むつもり。…だから、信じて」
「はい。信じています」
眩しいくらい、真っ直ぐな返事だ。
そのまま踵を返そうとした夜戸だったが、思い留まり、いつかもしどこかで会えたら、と心の引き出しにしまっていた言葉を取り出す。
「あたしからもお礼を言わせて。彼を霧の奥から引き戻してくれて、ありがとう」
おかげで、再び会えることができたのだから。
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