37:See you
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ここが拘置所の運動場だということを忘れさせるような、晴れ渡る晴天だ。
窮屈さを感じさせず、温かい風が吹いている。
「……………」
森尾は金網に背をもたせかけながら、ほとんど消えかけている右手の傷痕を見つめていた。
明日には治りそうな、紙で浅く切ったみたいな傷痕だ。
「ペルソナはもう使えないのか?」
隣に座った鹿田に聞かれた。
森尾は傷痕を眺めながら「ああ」と答える。
「バールも出せなくなっちまった」
面会室で会った姉川の話によると、姉川、落合、ツクモ、そして傷痕をつけた張本人である夜戸の傷痕も塞がりつつあるそうだ。
夢のような半年を過ごした痕跡が消えてなくなるというのは、記憶が残されている限り、どうしても切なさを覚えずにはいられない。
できるなら、ずっと残しておきたいと願っていた。
「そっか…」
鹿田は、傷痕が存在していた額の部分を指でなぞる。
最後の戦いのあと、拘置所に戻された鹿田達は一足先にツクモによって再び傷痕を塞いでもらっていた。
『俺は見てのとおり目立つところにあるからな。刑務官に見つかったらめんどくさいだろ。なははっ』
『私達の出番はここまで。一緒に暴れられて楽しかったよ』
『ぼくらは助っ人だからね。打ち上げは馴染みのメンバーでした方がいいでしょ。でも、誘ってくれてありがとう』
『べ、弁護士さん…、現実では引き続き、よろしくお願いします』
羽浦も赤い傷痕を塞がれ、病院へと運ばれた。
今はすっかり調子も良くなり、落合に付き添ってもらって駅ホーム連続磔事件の主犯として警察へ出頭したのだった。
「足立は?」
「夜戸さんと接見中。…ったく、こんな時に…。……いや…、こんな時だからこそ…か」
小さなため息をついて頭を垂れる森尾に、鹿田は苦笑しながら肩を叩いた。
「拗ねるなよ。あいつもそうだが、俺らも、もうすぐ忙しくなるぜ。お前だって数日後に控えてんだろ?」
「ああ。…けど、夜戸さんがいれば大丈夫だ。勇気をもらえる。俺達も、あの世界に関わった他の連中も、めげずに頑張れるってもんだろ」
「なははっ。そうだな。信じられる人だ…。どんな罰を受けることになっても…、開き直りとかじゃなくて、今度こそ…真っ直ぐに胸を張って償っていきたいと思わせてくれる。足立だって、何も言わねえけど…、そう思ってるんじゃねーか?」
森尾は肯定を含めた笑みを返し、視界いっぱいの青空を見上げた。
「明日も晴れるといいな…」
「……もっと、わぁわぁ泣いてもいいんだぜ?」
「……花粉症…だっての…ッ」
鼻をすすり、袖で目元を拭う。
「いつもの「やかましい」ってセリフはどうしたよ。なははっ。もう、春だからな。俺も、目がかゆくてたまんねーよ…」
鹿田も手の甲で目を拭った。
現在、3月18日月曜日、午後13時。
足立の裁判前日だ。
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