37:See you
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
パァン!!
捜査本部へ続く扉を開けた瞬間、足立はクラッカーの破裂音に目を丸くした。
色とりどりの紙が吹き飛び、捜査本部の面々に迎えられる。
「「「「「誕生日おめでとうございまーす!!」」」」」
2月1日金曜日、午後0時。
今日は、足立透が生まれた日だ。
(しまった…)
カレンダーがなければ日付の感覚も失われる。
真夜中、ツクモに体当たりされたり髪を引っ張られたりして叩き起こされ、半ば強引に捜査本部へと誘われた理由が判明した。
時間に間に合ったことで、頭の上のツクモは満足そうに鼻を鳴らしている。
「……ありがとー」
棒読みした足立は、頭の上のツクモをつかんで軽い力で放り、席に座っている月子に投げ渡した。
そしてすぐに後戻りしようとしたが、即座に森尾と落合に捕まって引きずり出される。
「どこ行くんだよ、オッサン」
「そうだよもう29! 祝われても複雑なお年頃なの」
姉川は、「お年頃って」と腹を抱えて笑っている。
「まだ29だよ。透兄さんは見た目もまだまだお若いから大丈夫だって!」
「そのフォローがもう悲しいよっ」
「早退は禁止さー」
逃げたくても独居房で行きどまりなので、どちらにしても逃げ場はなかった。
観念した足立は自分の席に着く。
「なんで君達、僕の誕生日知ってるの? ……ちょっと、夜戸さん?」
「アタシデハーアーリマセーン」
「ロボット以上の棒読みに加えてさらにエセ外人っぽくなってる…」
隣の夜戸の顔を窺うと、メンテナンス済みのメガネのレンズの上から両手で目を覆っていた。
「まったくもー…、個人情報を人に教えちゃいけません」
「すみません…」
注意され、しゅんとする夜戸。
「誕生日くらいいいだろうが。今時、暗証番号に入れてるわけじゃあるまいし」
「そうさ~。どうしてそうつれないこと言うさー」
月子の膝から足立の頭に飛びのったツクモは、ぽこぽこと叩いた。
相変わらず痛くもかゆくもない。
「そうだぞ、このヤロー」
席を立った森尾も足立の背中を右のコブシで軽くぽこぽこと叩く。
「三十路前が何よー」
「透兄さーん」
「透おにーちゃーん」
「足立さーん」
姉川、落合、月子、夜戸も便乗して足立を取り囲んでぽこぽこと叩いた。
「増えるな増えるな」
さすがに増えられると少しばかり痛い。
「まあ…、誕生日とか…盛大に祝われたことなんて今までなかったし…、リアクションに困るけど、ちょっと新鮮…。でも、君らが勝手にやってることだから、感激して「ありがとう…」なーんて言わないよ」
カウンターの内側に回った姉川と落合は、用意していたご馳走を並べる。
「透兄さん、いっぱい食べて! お酒は出せなくて申し訳ないけどっ」
「ケーキもキャベツもウニもあるから!」
「涙目で渡してくるのやめて」
足立のひねくれた言い方にはもう気にも留めない態度だ。
思わず、「参ったな…。調子狂う…」と呟く。
頭を掻く足立を眺め、夜戸は小さく笑った。
(満更でもなさそうですね、って言ったら意地になるだろうから言わないでおこう)
「足立さんの言う通り、こっちも祝いたくて勝手にやってることですから」
「あと、ケーキ食べたい口実って言ったらそうなるしな?」
含み笑いしながら言う森尾の隣では、月子がフォークを片手にツクモと一緒に「ケーキ、ケーキ♪」と歌いながら楽しみを露わにしていた。
足立の手は、月子とツクモの頭を撫でる。
「正直でよろしい」
しばらくして、ロールキャベツやパスタ、スープ、からあげ、寿司などのご馳走が並べられた。ホールケーキもある。
ケーキは夜戸、姉川、落合、月子、ツクモの手作りで、数種類のフルーツがふんだんにのせられた生クリームケーキと、イチゴとブルーベリーがのせれられたチョコケーキの2種類だ。
生クリームケーキには「2」、チョコケーキには「9」のロウソクが立てられ、足立が火を吹き消し、人数分に切り分けて配られた。
「ツクモと月子ちゃんで生クリームを塗ったさっ」
ツクモは口の周りをクリームまみれにしながら自慢する。
「イチゴは月子が並べたの」
「綺麗に並べられたね、月子。足立さん、味はどうですか?」
「食べやすいよ。チョコだからもっと甘ったるいかと思ってたけど」
足立が食べやすいように調節してクリームを作ったのは夜戸だ。
「楽しかったね。女子力アップだよ」
「空君はそれ以上女子力上げてどうするの…」
「いただき」
「あっ!!」
いつの間にか森尾は席を立ち、食事のおかわりと見せかけてカウンターの内側からフォークを伸ばし、姉川の皿の上のイチゴを取った。
最後に食べるために皿の端に置いたものだったのに。
「ちょっと、あーちゃん!! 勝手に取らないでよ!」
勢いよく席を立った姉川は叱りつけた。
森尾は硬直し、森尾と姉川以外の全員が「あーちゃん?」と首を傾げる。
「こ、ここ、ここで「あーちゃん」言うな!!」
そう呼ばれるとは思っていなかった森尾は、耳まで真っ赤にさせ、狼狽えまじりに怒鳴り返した。
「あー…なるほど~。ふ~ん。そういうことなんだぁ、あーちゃん」
「やめろ!! てめぇにだけは一番にバレたくなかった!!」
呼び名だけで悟ってニヤつく足立に森尾はたまらず叫んだ。
まるわかりの反応だ。
夜戸も気付いた。
「え。付き合ってるの?」
「「え!!?」」
ツクモと月子が驚いた。
「付き合いたてだけどね。いつ打ち明けようか迷ってた」
姉川は恥ずかしそうに白状する。
捜査本部に全員が揃ってから言うつもりだった。
森尾のことは、下の名前である「嵐」から「あーちゃん」と呼んでいる。
「ボクは知ってたよー」
特に仰天することなくケーキを頬張る落合に、森尾は視線で姉川に尋ねるが、姉川も少し驚いた様子で「言ってない」と小さく首を振った。
付き合い始めたタイミングは、最後の戦いのあとだろう。
「やっぱり付き合いだしたら、名前呼びにしたいなぁって…」
「でも、お前、「あーちゃん」って…」
森尾と姉川は少し照れている。
「青春してるねぇ」
足立が呟いてイチゴを口に含んだ時だ。
「あ…。おねーちゃんと透おにーちゃんは呼び方変えないの?」
月子の発言にイチゴを思わず噴き出すところだった。
夜戸も目を点にしている。
「そうだよ、付き合ってるんでしょ?」
落合は「まだなの?」と怪訝な顔をした。
確かにどちらも「付き合おう」とは言ってないが、「付き合ってない」とは断言できず、関係はもう恋仲と同じだ。
「海で恋人繋ぎしてたの、見逃してないからね」
姉川は一枚の証拠写真を取り出す。
「いつ撮ったの!?」
夜戸は慌てて手を伸ばすが、姉川は闘牛騎士よりも華麗にひらりとかわした。
「そこのへんのカップルよりラブってるクセにお互い素直じゃないんだから。順番が色々おかしい」
他にもそれらしい写真を見せつけられる。
膝枕だけではない。
打ち上げの際にひっそりとした、足立の頬へのキスも撮られていた。
「こんなものまで…!! …………あとであたしも欲しい…」
「欲が勝っちゃった…」
こそっと姉川にお願いする声を聞いてしまった足立。
「大体…、付き合っててもなくても、僕ら、いい年なんだから…、ねぇ? あだ名とかは…」
「“アダッチー”いいさっ」
「夜戸さんがそれ言ったら、なんだろ…、違和感…」
それにはみんな同意した。
「そうですね…。まあ、普通に、「透さん」………と……か………」
口にして、凄く恥ずかしくなった。
頬杖をついていた足立は意地悪な笑みを浮かべる。
「え? なになに?「普通に」なんだって? 聞こえなかったよ。明菜さん」
「!!」
夜戸の顔から火が出た。
「それとも、明菜ちゃんがいい? 明菜? 明菜様ー。明菜お嬢様ー」
しかもわざと耳元で言ってくるからタチが悪い。
席を立って逃げるが、足立は追いかけて壁に追い込んだ。
外へ逃げようとしたが、奥にあったはずの扉は今はもうないのだ。
「あ、足立さん、やめ、やめてください…っ」
「え~。さっきなんて呼んでくれたの?」
席に座っている姉川達は呆れて眺めている。
「子どもさ」
「あんなに照れたおねーちゃん、見た事ない…」
「こっちが照れ臭いよ」
「ウチらもイチャイチャする?」
「俺にはまだハードルが高ぇ…」
さり気ない誘いに戸惑う森尾は首を横に振った。
「あはは。明菜姉さんが壁ドンされてる」
「壁ドン?」
ツクモには耳慣れない言葉だ。
月子も首を傾げる。
落合はどう説明したものかと考えながら席を立ち、森尾の手を引いて手前の扉に追い込んで実践してみた。
「透兄さんがやってるこう…壁に追い込むやつ」
「俺でやるんじゃねーよ。子どもに何教えてんだ」
「色んなバージョンがあるよー」
「俺でやるなって!」
その中に、相手を中心に両腕を伸ばして逃げ道を塞ぐバージョンもあった。
反応したのは夜戸だ。
「あ、それ昔、足立さんにやったことある」
「やられたことある。懐かしいねぇ」
森尾は「どんな状況でそうなった」と漏らし、落合も「逆じゃなくて?」と困惑を隠せない。
「ちょっと言わせてもらってもいい? やっぱりあんたら順番おかしいで!」
さすがに姉川はツッコまずにはいられなかった。
.