03:I won't let that happen
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足立は足下に落ちていたメガネを拾い、半身を起こした夜戸に渡す。
胸元の焦げたシャツを押さえながら、夢でも見ているのかといった面持ちで、夜戸は足立を見上げて凝視していた。
足立が妨害してくれたおかげで、鹿田が離れたことによって胸元の火は叩いただけで消えてくれた。
「あ…、足立…さん…、どうして…」
足立は拘置所に収監されていて、ここにいるのはありえない事だ。
本人かどうか疑うのも当然だ。
当の足立は、呆けた顔の夜戸を見て、少し驚いた表情を浮かべている。
「ああ、メガネかけなくても僕ってわかるんだ? 思ったより視力はあるじゃない。そんなことより驚いたよ。僕の他に一般人がいるって聞いてたけど、まさか夜戸さんだったなんてさ」
「『一般人』なんて、よく言えたさ」
呆れた口調で傍に現れたのは、ツクモだ。
最初は犬と思ってしまった夜戸は、普通の犬の毛色ではない物体をまじまじと観察する。
「…ゾウ?」
「ちがう! 早くメガネかけるさっ」
促された夜戸はメガネをかける。
「アリクイ?」
よく見てから、小首を傾げた。
ツクモは全力で体ごと首を横に振る。
「ちがーう! ツクモはツクモだけど、バクさんと似てるさ!」
「バクでもゾウでもアリクイでもキャベツでもいいじゃないの」
足立が面倒臭そうに言った。
「百歩譲ってもキャベツは絶対嫌さ! っていうか、アダッチーがキャベツ食べたいだけじゃないのさ!?」
「そんな見事なキャベツ色されてちゃあねぇ…」
「目に優しい黄緑色なだけさ!」
ムキになって足立の右脚をぽこぽこと太鼓のように前足で打つ。
足立は痛くもかゆくもない様子だ。
「はは、脚のむくみに効きそう」と鼻で笑っている。
「足立さん!」
「うわっ」
先に気付いた夜戸が声を上げ、足立はすぐ目の前まで飛んできたものに気付いて咄嗟に顔をそらして避けた。
的を失って地面に刺さるのは、3本のダーツだ。
「急に現れて邪魔しやがって…! 呑気にくっちゃべってんじゃねえぞ!! ガキの放課後か!? ああ!?」
立ち上がった鹿田は鼻息荒く足立を睨みつけていた。
ダーツを投げた右手は伸ばされたままだ。
左手は足立に蹴られた腹を押さえている。
足立は、鹿田の敵意剥き出しに光る鈍い金色の目を見た。
「あれは……」
「おっと、誰かの“影”やニセモノじゃないさ。欲望に呑まれた本人自身さ」
ツクモは、あくまでここは、足立の知っている世界とは少し違っていることを説明する。
足立の知っている異世界は、テレビの中に迷い込んだ人間の前には、自分が認めたくない抑圧した感情を曝け出したもう一人の自分が現れる。
もし、その自身の存在を受け入れず拒絶すれば、凶暴化して姿をシャドウというバケモノに変え、本人に襲いかかる。
辺りを見回すが、自分達の他には誰もいない。
ツクモの『欲望に呑まれた本人自身』を反芻する。
「耳が痛い響きだねぇ…」
かつての自分自身を思い出した。
口元に自嘲を浮かべ、眉は不愉快そうにひそめている。
「救えるの? それってさ」
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