36:Me too
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足立は夜戸を抱きかかえ、冷たい海から陸地に向かい進み続ける。
泳ぐなんて久しぶりで、落下した後にひとりの人間を抱えて泳ぐのは酷だったが、ようやく足がついて海面が太腿まで浸かるほど浅くなったところまで来ることができた。
ふと、空を見上げる。
雨が止んだ雲に出来た切れ目から、淡い光が差し込んでいた。
「夜明けだよ、夜戸さん」
足立は横に抱きかかえた夜戸に声をかけ、目先にある砂浜を見た。
森尾達はいない。
でも、一度陸地に上がろうとは思った。
「こっちとは別の砂浜みたいだ。…みんな、待ってるだろうね」
先程から夜戸は返事をしない。
瞳を開けず、身体を足立に預けたままだ。
立ち止まった足立は一度振り返り、色彩を取り戻していく世界を眺める。
「ほら、起きなよ。夜明けの海とか、どーせ、君はちゃんと見た事ないでしょ。メガネ落としちゃったけど…、あ、そもそもダテだったね…」
見ないのは惜しまれる景色だ。
足立は少し体を揺すった。
夜戸は起きない。
「せめて…、息くらいしろって…」
夜戸の呼吸は止まっていた。
心臓の音も聞こえない。
身体は冷たく、安らかに眠っているようだ。
「……やっぱり世界って残酷だよね。命がけで救ったのに、散々振り回されてこんな終わり方ってさ…。嫌になるよね…。おとぎ話みたいに、ハッピーエンドってわけにはいかないのかな…。運命に足掻いて、誰かの為に駆け回った君にも、その資格はあるのに…。世の中ほんと…」
言いかけたところで、目を伏せ、自嘲する。
「……言い訳か。それは…僕の役割だ」
『思い通りにいかないことはガキみたいに喚き散らして、誰かに手を差し伸べること、差し伸べられることを恐れてるんだ』
二又に言い放った言葉を思い出した。
「二又の奴に偉そうに言える立場じゃなかったよ…。僕も同じだ…。君はずっと、僕に手を伸ばしていたのに…」
『先輩』
「君はバカだよ」
『足立先輩』
「簡単に答えたら、ウソ臭くなるとか思わないの?」
『足立さん』
「世の中広いってのに、君の幸せって、それでいいの?」
『好きです』
「俺でいいのかよ」
答えは、知っていた。
『足立さん、好きです』
「―――」
耳元に囁いた足立は、夜戸の冷たくなった唇にキスを落とした。
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