36:Me too
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
マガツノサカホコは、頭部からは2本の刃の角が生え、赤と黒の双眸がこちらを睨み、漆黒の巨躯には赤い逆十字が刻まれていた。
下半身は黒い柱に埋まったままだ。
トライデントを振り上げ、足立と夜戸へ勢いよく下ろす。
「マガツイザナギ!」
夜戸を支えながら、足立はマガツイザナギを召喚し、振るい上げた矛でトライデントを受け止め防御した。
圧し掛かる衝撃と強い力に足立の全身の骨が軋むようだ。
「ぐッ…」
「あ…!!」
夜戸は目を見開いて青ざめ、血を吐き出す足立に大きく動揺した。
無理もない。
休むことなく立て続けの戦いに足立の身体は呼吸が弾むほど疲労しきっている上に、けっして軽いとは言い難いケガを負っている。
長期戦になれば長くはもたないのは足立自身も理解していた。
「ケホッ…、ちょっと頑張りすぎたな…」
なんでもないといったふうに装って手の甲で口を拭い、マガツイザナギはトライデントを弾き返した。
「滅べ」
マガツノサカホコがトライデントの矛先を差し向けると、夜戸と足立に向かって黒い稲光が放たれる。
マガツイザナギは2人の前に立ち、稲光から身を挺して守った。
足立は身体にかかる負荷に耐え、大きく跳躍したマガツイザナギは、マガツノサカホコの懐に突っ込んで矛を振るい上げ、雷撃を浴びせる。
「効かぬ!!」
マガツノサカホコはトライデントを勢いよく両手で振り、マガツイザナギを雷撃ごと薙ぎ払って地面に叩きつけた。
「ッ!!」
威力に圧されて足立が片膝をつき、夜戸も片膝をついてその肩を支える。
「足立さん!」
不意に寒気を覚えた。
トライデントが横に振られ、夜戸は咄嗟に足立の腕を引っ張り、共に地面に伏せて回避する。
空振りしたことで風圧が頭上を通過し、飛ばされそうな体を抑えた。
「死ねぇ!!」
余裕を一切与えてくれない。
トライデントが足立と夜戸目掛けて振り下ろされる。
夜戸は胸に手を当ててナイフを取り出そうとしたが、傷まみれの右手の感覚がマヒして強くつかむことができなかった。
「ダメ…ッ!」
避けられない、と判断した夜戸は庇うように足立を抱きしめ、ぎゅっと目をつぶる。
ズン、と地面に衝撃が走った。
「…え?」
トライデントは2人のすぐ目の前に突き刺さっている。まるでわざと外されたみたいだ。
「くッ…、おのれ…!!」
憎々しげに唸り声を上げるマガツノサカホコの手は、何かに押さえつけられているかのように震えている。
「器の…分際で…!!」
夜戸は強い意志を感じ取り、制御している存在に気が付いた。
“おねーちゃんは殺させない。みんな…守る…!!”
黒い柱の内側から、月子がマガツノサカホコの力を抑えつけ、守ってくれている。
「月子…!!」
マガツノサカホコは咆哮を上げ、月子の抑えを振り切ってトライデントを地面から引き抜いた。
「消してやる!! お前の意識ももう間もなく、闇となって消えゆくのだ…!!」
“おねー…ちゃ…”
気配が薄くなっている。
「月子ー!!」
(あたしは、守られてばかりだ…)
ゆっくりと立ち上がり、もう一度、胸の傷痕に手を当てた。
この傷だらけの手ではナイフをまともに握ることはできないだろう。
それでも、大切な人達を守る力が欲しかった。
外ではみんなが今も戦っているのが伝わってくる。
“明菜ちゃん! アダッチー! ツクモは信じてるさ!”
“明菜、みんな待ってるからね…!”
“大丈夫だ。夜戸さんの傍には足立もいる! 負けるはずがねぇだろ!”
“離れてるけど、ボクらもついてるからね! 明菜姉さん、透兄さん…”
(みんな……)
同じく立ち上がった足立の手が、夜戸の右手の甲に重なる。
「!」
「僕の手も傷だらけだ。でも、君に貸せないほどじゃない」
疲労が滲み出た笑みだったが、足立と目を合わせて小さな笑みを返した夜戸は、マガツノサカホコを見上げて同時に言い放つ。
「「ペルソナ!!」」
黒い十字傷が白光に包まれ、夜戸と足立の手は傷痕から突き出た柄をつかむ。
夜戸の胸が熱い想いで高鳴った。
足立だけではない、今まで出会った人達の手も一緒に重なっているかに見えた。
痛みを恐れず、力いっぱい引き抜く。
初めてペルソナを召喚した時の、身が引き裂かれるような痛みはない。
刃の部分は、ナイフのような短刀ではなく、日本刀が持つ長い刃として形を成した。
刀身には稲妻が走ったような赤と緑の模様が刻まれていた。
頭の中に声が響き渡る。
“汝の痛みは皆の痛み…。皆の痛みは汝の痛み…。汝、今こそ己が儘に解き放て…!! 我が名は…―――!!”
「イツノオバシリノカミ!」
冷たい闇を打ち払う、温かな光に包まれた。
.