35:The world is not that bad
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『オドヤマツミ』―――二又の背後に出現したのは、マガツイザナギとほぼ同じ高さの人型の、クラヤマツミとは違う別のペルソナだ。
黒い頭部の目元は有刺鉄線で巻かれ、鋭い右目を光らせている。
魔女のような白い鷲鼻を持ち、こめかみまで裂けた口元はギザギザの形をしていて紫色の舌を見せた。
ボディは、聖職者のような、色鮮やかなステンドグラスの服装を身に纏い、胸には大きな黒の逆十字をかけている。
袖からは骨の両手が見えていてクラヤマツミより不可解で不気味な容姿だ。
「マガツイザナギ!」
足立はマガツイザナギを自身の傍らに召喚した。
二又はガリガリと音が鳴るほど頭を掻きむしり、苛立ちを露わに足立を睨む。
「忌々しい野郎だな…。いい気分だったのが台無しだ。死んで報いろ。オレを気持ち良くさせてくれよぉ!!」
オドヤマツミの姿が闇に消えた。
どこから攻撃を仕掛けてくるのか予測ができない。
夜戸はテレビで見せられた光景を思い返す。
闇からの攻撃に成す術もなく、マガツイザナギが一方的に打ちのめされた映像だ。
一歩も引かない足立の背中を見つめる。
不安で胸が押しつぶされそうだったが、一瞬でも目を逸らすことはしなかった。
(足立さんなら……)
心の片隅に、確かな安心感があった。
けれど、その気持ちの名は口にしない。
足立が苦手だと知っているからだ。
マガツイザナギの右肩が背後から刃で浅く切り付けられた。
オドヤマツミの姿は見えない。
挑発している様子だ。
「泣き叫びたくなるくらい、じっくり、じわじわと痛めつけてやるよぉ!!」
今度は左膝に打撃を受けた。
わずかにバランスを崩しかけたが、足立は踏み止まり、目で何かを探していた。
その間も、マガツイザナギの体は弄ぶように何度も傷つけられる。
切り付けられ、打ち込まれ、いたぶられた。
「飽きてきたなァ。そろそろ、フィニッシュがいいかぁ!?」
「……僕に対して使った、『暗中模索』の意味…知ってる?」
足立がそう言った途端、マガツイザナギが、前を向いたまま矛を後ろに振り、襲い掛かった一太刀をついに受け止める。
足立と夜戸はオドヤマツミの姿と手にした武器を視認した。
持っていたのは、大鎌だ。
夜戸ははっと息を呑む。
「あれは…、ネサクの……!」
落合のペルソナであるネサクが持っているものと似ている。
「!? まぐれかぁ!?」
面食らいつつ、二又は次の攻撃を仕掛ける。
オドヤマツミは再び背後の闇に身を潜めた。
足立はポケットに片手を入れ、冷静に話を続ける。
「暗中模索…。言葉通りなら、暗闇の中を手探りで探すことなんだ。でも、状況が不明でもあれこれ試してるって姿勢を表してるから、前向きな言葉として使われてるんだよね。どうせ挑発的に使うなら、似てるようだけど、考えも定まらなくて見込みもないって意味で使う、『五里霧中』じゃないと。霧の方が闇より見えないって滑稽な表現だよねぇ」
すぐさま振り返ったマガツイザナギは、矛を掲げ、雷撃を落とす。
オドヤマツミは、今度はイハサクの戦槌を手に攻撃しようとしていたが、その前に雷撃を食らった。
「ぅグッ!」
身体が電流が走る痛みに襲われ、二又は反撃された事実に焦りを覚える。
イハサクの戦槌を目にし、夜戸はオドヤマツミの攻撃の謎を見破った。
(他のペルソナの武器を扱ってる…! だから、マガツイザナギへの攻撃が毎回違ってた…!)
おそらく、イツの曲刀も使用されただろう。
もう1つ、解けない謎がある。
オドヤマツミが一体どこから仕掛けているかだ。
「まあ、こんなクソな世の中だけど、何も見えない霧の中だろうと立ち向かってく青臭い奴らもいるけどね」
何かを思い出したのだろう、足立は呆れるようなため息をついた。
マガツイザナギは矛を振り上げ、勢いをつけて地面に突き刺す。
「ぐああああッ!!」
二又は悲鳴を上げ、夜戸は地面の異変に気付いた。
沼の底から這い出るように、オドヤマツミが右肩に矛が突き刺さった状態で地面から出現する。
「暗闇は完全じゃない。影が丸見えだよ。さすが、不意打ちがお好きなようで」
オドヤマツミは、闇から闇へ、影から影へと移動していた。
マガツイザナギの矛を握りしめ、無理やり引っこ抜いて下がる。
「種は明かした。謝って月子ちゃんを返すなら今のうちだよ」
足立は静かにそう言って銃口を向けた。
二又は「てめぇもよぉ…」と声を震わせる。
「世界を壊したがってたクセに!! 同じだったクセに!! てめぇは!! オレと!!」
3本の小型ナイフを投げつけてきた。
足立はリボルバーを振るい、跳ねのける。
「だからこそ、アンタに壊されるのだけはムカつくんだよ…!!」
リボルバーを構えるその姿が、二又の目には、果敢に立ち向かってきた日々樹と重なって見えた。
「クソガキィ…!! てめぇ…何様だぁあああああ!!!」
(…………ああ……、そうだ………)
怒りに我を忘れかけた時、ふと、二又は思い出す。
(それは…俺も………)
ズキッ、と刃物で貫かれるような痛みが、二又と夜戸の胸を襲った。
「…っ!?」
積み上げられた、すべてのテレビの画面が切り替わる。
“あなたは祭司様の子どもよ”
ノイズの画面から女の声が聞こえた。
“この子はきっと、皆の希望になるわ。祭司様と私の子どもだもの。さあ、祭司様に…いいえ、お父様にご挨拶なさい”
躊躇いがちに「お父様」と子どもの声が聞こえる。
“楽士”
今度は男の声だ。
“新しいオモチャだ”
“一緒に遊びなさい”
画面には、木造の格子に隔たれた十畳の部屋が映った。
そこには2人の少年がいた。
薄暗くてどちらも顔は見えづらいが、同じ年頃だろう。
“楽士、今日は何して遊ぶ?”
“楽士君、今日は何して遊ぶ?”
“楽ちゃん、今日は何して遊ぶ?”
“兄ちゃん、今日は何して遊ぶ?”
1つ1つ場面が切り替わるが、言い出しているのは、全部ひとりの少年の声だ。
背が伸びて声変わりしても、毎回呼び名が違うのが奇妙だ。
ままごとをしている様子でもない。
「見るな…っ」
二又は呟いた。
何かに怯えるように頭を抱えている。
「見るんじゃねぇよ…っ!!」
「!!」
オドヤマツミが夜戸の背後に出現し、その手にイツの曲刀を握りしめ、振り下ろした。
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