35:The world is not that bad
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クラヤマツミは消え、痛みが残る顔を右手で覆いながら、二又は亡霊でも見ているかのように、こちらにやってきた足立に驚愕を隠せずにいた。
「何で生きてんだ…!?」
確かに崖から落としたはずだ。
「大人しく地獄に落ちてればいいものを…!!」
「やり残したことがあるからね。きちんと成仏したいわけよ。…なんてね」
肩を竦めた足立は、二又の足下に何かを投げつけた。
それはカランカランと音を立てる。
1本は刃が折れ、もう1本は刃が削れた小型ナイフだ。
「それ返すよ。ごめんねぇ。ボロボロにしちゃった~」
足立はまったく悪びれずにヘラヘラと笑って言った。
足立の手は傷だらけで、スーツと肌には泥が付着していた。
二又は脳裏に光景を思い浮かべる。
足立は途中で体に突き刺さっていたナイフを引っこ抜いて、崖に突き刺して落下を止め、自力で這いあがってきたのだ。
マガツイザナギにつかまって夜戸は立ち上がり、足立に近づいた。
有刺鉄線で傷付いた両手と両腕では抱きしめたくてもできなかったけれど、その胸に額を当てる。
心臓の鼓動は聞こえ、シャツ越しの肌も温かい。
夜戸の頭に触れた足立は、「がんばったね」と撫でた。
恐怖と嫌悪で強張っていた夜戸の身体がほぐれていく。
「生きてて…よかった…っ」
涙声を漏らす夜戸の頬に触れると、足立の手が涙で濡れた。
生きていることに、これほど喜びの涙を流されるなんて。
「…声が、聞こえたんだ…」
足立は視線を上げ、黒い柱に磔にされた月子を見た。
決死の思いで崖から這い上がり、傷の痛みに耐えながら二又を追いかけようとした。
しかし、一本道のはずなのに、一向にたどり着くことができなかった。
がむしゃらに向かったところに、画面の点いたテレビを見つけ、夜戸と二又の戦いが公開されていた。
殺意を剥き出しに立ち向かう夜戸の姿を目にし、再び駈け出したところで、少女の声が聞こえた。
“透おにーちゃん…。こっちだよ…”
何台も転がっているテレビで状況を確認しながら声を頼りに進み、夜戸達がいる空間へと出て来れた。
「月子ちゃんが、ここに連れて来てくれた」
「月子が…」
夜戸も月子を見上げた。
気を失っているように見えるが、月子の意識は確かにあるのだ。
上を向いた夜戸の顔に、足立はメガネをかける。
「レンズ、割れてなくてよかったね」
「……あ…、ありが…」
「…っ」
「!」
礼を言おうとした直前、顔をしかめてわずかに前のめりになった足立に、はっとした夜戸は足立のジャケットを下からめくり上げた。
シャツの腹部が血に濡れている。
「足立さん、やっぱりケガを…!」
二又と足立の戦いの映像を思い出した夜戸は取り乱すが、足立は「落ち着いて」と手で制して笑みを見せた。
「正直けっこう痛いけど、見た目ほど深くないよ。普段、森尾君にしごかれて鍛えられてるから筋肉もついてるし」
「けど…っ」
「夜戸さんも腕、人の事言えないでしょ」
夜戸の両腕の袖から血が滴っていた。
今でもズキズキと痛み、まともにナイフを握れる手ではない。
足立の目は、今も殺気立ってこちらを睨む二又に向けられていた。
夜戸の肩にぽんと触れ、前へ出る。
「ここで待ってて」
そう言って二又へと歩み、距離を保って向き合った。
「わざわざ待っててくれたんだ?」
「別れの挨拶はしなかったんだなぁ。まあ、突然目の前で失った方が彼女も絶望しやすいか。それか、君を半殺しにして動けなくしたあとに、彼女と仕切り直すのも悪くねぇなぁ…」
十字架型のナイフを弄び、舌なめずりした二又は言う。
そして、再び堂島へと変身した。
「その人間の存在価値さえわかっていれば、無力化なんて容易い…」
ドン!
足立の放った銃弾が、二又の右耳をかすめた。
二又は目を見開いたまま固まる。
「存在価値…? 以前、僕の頭の中を覗いただけで、アンタが堂島さんの何を知ってるって言うのさ。猿まねにはもう惑わされないよ」
「……………」
「本当の自分自身で戦うのが怖い? 遊びじゃなくて、本気でかかってきな。僕は夜戸さんみたいに優しくないよ。僕ね、今、すっごく機嫌悪いから」
口元は笑っているが、眉をひそめている足立を見て、堂島の姿でも躊躇しないだろうと察した二又は、元の姿に戻る。
みるみると表情が険しくなり、苛立って自身の前髪をつかんで十字架型のナイフを振り上げた。
「ナメた口利きやがって…。望み通り、本気で相手してやるよ。もういっぺん死ねよ!!」
見守る夜戸は、唾を呑み込んだ。
先程の一対一の対決は、挑発の為に本気ではなかったのだ。
おぞましい空気が二又から湧いているのがわかる。
「オドヤマツミ!!」
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