34:I'm not a hero
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落合の新しいペルソナ―――『イハツツメ』。
頭には頭部を覆う、端にジッパーがついた大きな銀色のフードを被り、ネサクの時は隠れていた目元が見える。
真っ白の肌に黄色の両目と赤い唇をもち、首には長い赤色のスカーフを巻き、細身の胴体は、背中にフードと繋がる銀と赤色のマントをはためかせ、筋肉が浮き立つ上半身はネサクの時より包帯が何重にも巻かれてある。
下半身の細長い脚には銀のズボン、ヒールつきの赤いロングブーツを履いていて、腕は、肘から先が義手のような機械の両腕を持っていた。
新たな大鎌は、さらに大きくなり、両端には三日月形の刃がついてある。
「新しい…ペルソナ…」
羽浦の治療に集中している姉川も、美しい輝きを持ったペルソナに目を奪われた。
「華姉さん、サポートなら心配しないで。そのまま、羽浦さんの治療に集中して。あの人には絶対負けないから」
背を向けながら落合は言った。
「潰し甲斐があるペルソナね…。ボロボロのゴミにしてあげる!!」
シギヤマツミが2丁のサブマシンガンの銃口を向ける。
イハツツメと落合だけでなく、治療中の姉川と羽浦も巻き添えにする気だ。
イハツツメは両手で大鎌を握りしめ、大きく振りかぶった。
同時に容赦なく引き金が引かれ、けたたましい音を響かせながら何百発もの銃弾が飛んでくる。
しかし、イハツツメが大鎌を横に振るうと、斬撃は炎と化し、放たれたすべての銃弾が呑み込まれ、太陽のような真っ赤な灼熱の炎に溶かされた。
「なんて威力なの…」
姉川は思わずこぼす。
クラオカミで分析せずとも、その火力はネサクの比でないのは一目瞭然だ。
「く…っ」
思い通りにならず顔を歪め、久遠は鉤爪で落合に切りかかった。
落合は冷静にオノを振り、ひとつひとつの動きを目で追って鉤爪を弾き返す。
「連続殺人犯、傷害罪の暴力ヤロウ、冤罪で死んだ男の娘、クソ人形…。ロクでもない女のロクでもない下っ端のクズ共に、私が負けるはずない…! 男のクセに女の真似事してんじゃないわよ、カマ男!!」
罵りながら久遠は落合の顔面目掛けて回し蹴りをかけたが、落合は背を反らして避け、「事情も知らないくせに悪口ばっか。ボクはカワイイ服が着たいから着てるだけだよ」と息をつく。
「最初は、母さんのマネをして自分の苦痛を紛らわそうとしたんだ。実際に母さんの服を着て、メイクをしたら、感動したよ…。そして虚しくなった。どれだけマネをしたところで、ボクは母さんじゃない。でも、今の自分にできる新しい可能性と生き方に気付けた。アンタが嫌いな明菜姉さんも、みんな、ボクを受け入れてくれた」
男だと判明しても、捜査本部の面々は快く落合を受け入れた。
暴走しても止めてくれた。
「アンタだって、どれだけ顔を変えたところで、結局、昔の自分をなかったことにできてないし、それを認めようともしない。明菜姉さんに嫉妬してる時点で捨てきれてないんだよ。他人の傷を、過去に負った自分の傷と少しでも重ねるのが嫌だから、受け入れることも尊重することもできずに、目をそらして、罵って、さらに傷つけることしかしない。今の自分に酔って、醜いことを繰り返してるだけだ!!」
久遠の動きが止まる。
その背後に、ハチ型シャドウの群れが集まった。
ゆっくりと顔を上げた久遠の表情は、般若のように歪むほど憤慨している。
「アンタの顔は目障り…アンタの言葉は耳障り…。もう死んでくれるかしら。文字通り、顔面も身体もハチの巣にしてあげる!!」
ハチ型シャドウは、今度は久遠の下についた。
シギヤマツミと共に一斉に槍の先を向け、四方八方から攻撃を仕掛けてくる。
姉川は羽浦を守るように抱きしめた。
シギヤマツミも銃口を向けるが、落合は怯まない。
守りたいものが後ろにいるからだ。
(ボクも、自分が醜く思えるくらい他人に嫉妬したことはある。両親を失って、周囲の楽しげな家族が羨ましかった。嫌になるくらいムカついた。でも…、同じ苦しみを味わった兄さんに、何度も励まされた。みんなと過ごす内に、ボクと同じじゃないけど、みんなそれぞれ苦しみを抱えていることを知った。それでもみんな、いつだってボクを支えてくれた。ボクもみんなを支えたい。守りたい…!!)
後ろに跳んで距離をとる。
「燃やせ、イハツツメ!!」
イハツツメは一回転し、大鎌をブーメランの如く投げつけた。
両端に三日月形の刃がついているおかげで高速に回転し、大鎌は炎を纏いながら次々とシャドウ達を切り裂き、最後にシギヤマツミへと飛んだ。
「なんなの…。どうしてこうなるの…。あの女のせいだ…!! アンタ達、本当に気持ち悪い!!」
『気持ち悪いんだよ』
かつて自分が吐かれた言葉だ。
(あ…。同じ……)
ズバッ!!
シギヤマツミの体は腰から真っ二つに切り裂かれた。
「ボクのイハツツメの炎とアンタの嫉妬の炎…、どっちが熱いと思う?」
ドオン!!
2つに分かれたシギヤマツミの体は一気に燃え上がり、爆発した。
「きゃあああああ!!!」
久遠は爆風に吹っ飛び、堤防に背中を打ち付けて倒れた。
「うぅ…っ」
立ち上がろうとしても力は入らず、意識が朦朧とする。
敗北感と悔しさで胸が満たされ、コブシを握りしめた。
(また…、負けた…。あの女に…っ、あの女の味方に…ッ! どうして…!? どうし…て……)
『どうして秘書になったんだ?』
ふと、思い出したのは、影久の言葉だった。
入社して間もなく、デスクで資料を整理していた時に影久が尋ねてきた。
ほんの小さな興味だったのだろう。
『君は優秀だ。その気になれば、司法試験もすぐに受かって、弁護士としてやっていけたはずだ』
『優秀だなんて…』
それでも気にしてくれたのが嬉しくて、あの質問には、結局答えてなかった。
(先生…、私、結局、先生に何も話せませんでしたね…。私の言葉…、今でもあなたに届きますか? 先生の隣に並びたかったからです…って…)
「…ふっ…」
思わず、自嘲の笑みがこぼえれた。
(先生は鈍感だから、そう言っても、首を傾げるでしょうね…。それでも私は…言うべきだった…。そうすれば……)
傷付くことはあっても、何かが変わっていたかもしれない。
気を失う寸前、久遠の目の端から涙が流れた。
一旦戦いが終わり、落合はイハツツメを還して姉川と羽浦に近寄る。
「治療、終わったよ…」
不安げに羽浦の顔を窺うと、羽浦は、すぅ、すぅ、と穏やかな寝息を立てていた。
出血も止まり、落合は胸を撫で下ろして深い息をつく。
「よかった…」
「ふぅ…」
一息ついた姉川は、そのまま倒れかけた。
「華姉さん…!」
咄嗟に肩を支える落合に、疲労を滲ませた笑みを向ける。
「大丈夫…。ちょっと疲れた…」
「ありがとう…、姉さん」
感謝してもしきれない。
この場に姉川がいなければ、平静を保つことなどできなかっただろう。
それこそ怒りに身を任せて久遠に突っ込んでいたかもしれない。
「ここで! 衝撃の真実ー!」
「「!?」」
突然聞こえた声に2人は辺りを警戒した。
すると、何かが光っているのを見つける。
堤防の近くに転がっているブラウン管テレビの画面が点いていた。
「このテレビは…?」
落合は羽浦を背負い、姉川は落合の肩をつかんで支えてもらいながらテレビの前に移動した。
落合は横向けのテレビを正面に戻して置く。
テレビ画面に映っていたのは、楽しげに両腕を広げた二又と、座り込んで二又を見上げる夜戸の姿だ。
「明菜姉さん!」
「明菜…!」
まるで生中継だ。
夜戸の表情は、かけがえのない大切なものを失い、絶望しているかのように見えた。
落合と姉川は嫌な胸騒ぎを覚える。
「お兄さんの夜戸日々樹を殺したのは…」
重大発表の前みたいに少し溜めてから、二又は人差し指を立て、自分自身を指して告白する。
「実はぁ、オレなんだ~」
.To be continued