02:I won't die yet
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「―――で、僕は何を協力すればいいの? 長ったらしい話は嫌いなんだ。急ぎの用なら手短に話しなよ」
「…この世界に、招かれざる人間が次々とやってきて、悪事を働きだしたさ。何かを合図にしたように…」
「悪事? へぇ。それを正義の味方の僕が止めればいいの? ま~ったくガラじゃないんだよねぇ」
「茶化して言ってるけど、他人事じゃないさ。ここで悪事を働けば、アンタのいる現実世界にもその影響が出る。最近だったら、やたらめったら建物を燃やす奴が現れた。そいつが気ままに建物を燃やせば、現実世界のその建物も燃えてしまうさ…。小火程度ならツクモが現実世界に影響が及ぶ前に止めてたけど、ここのところ、調子に乗られて消しても消してもキリないさ」
「影響が繋がる世界…。なるほど、僕が知ってる別世界とはまた次元が違うのか」
テレビの中の世界も、現実と似たような町があったが、いくら建物を壊そうがほとんど影響は出なかった。
ただし、その世界に現実の人間が迷い込んで命を落とせば、なかったことにはならない。
現実世界に戻ってくるのは亡骸だけだ。
実践した足立がよく知っている。
さらに、テレビの中の世界と現実世界を繋げて町ごと人間を消そうとしたことも思い出し、自嘲の笑みを浮かべた。
「アダッチー、これあげる」
「急にフレンドリーに来ないでよ。ビックリするから」
ツクモが腹の縫い目に無理やり手を突っ込み、ずるりと黒い塊を取り出した。
リボルバーだ。
「! これ…」
手渡され、グリップを握りしめた。
馴染みのある手触りだ。
「危険は、アダッチーの知ってる世界とそう変わらないさ。だから、護身用に持ってないと死ぬさ」
「準備よすぎて気持ち悪いな」
シリンダーを確認する。
銃弾は装填されていた。
装弾数は全部で5発。
警察が使用しているものと同じだ。
ツクモがジャンプして体を振れば、腹の縫い目からバラバラと弾丸が落ちた。
確かに5発だけでは心もとない。
しかしどういう構造をしているのか気になった。
「丸腰で行かせるわけないさ。そっちの武器の方が扱いやすいはず。あと、ここは空気が冷えてるから、ジャケットを着ることをオススメするさ」
「!」
独居房の鉄扉のすぐ横には、上部が小窓になった食器口がある。
その手前には、食事を受け取るためのステンレスの小さなカウンターテーブルがついてあり、足立のジャケットとネクタイが綺麗に畳まれた状態で置かれていた。
「…僕の服」
使い古された愛用の赤ネクタイは間違いなく自身のものだとわかる。
拘置所では自殺防止のために紐類の持ち込みは禁止されているので、面会や裁判など、人と会う時以外は外されて警察が預かっているはずだ。
「盗んできたの?」
「人聞き悪いさ。元々はアダッチーのものだし。出かける時くらいいいじゃないのさ」
「屁理屈だ…」
呟きながら、足立はネクタイを締めてジャケットを着た。
「スーツは男の戦闘服さ」
「君のそのネクタイも戦闘服のつもり?」
自身の首元を指さして尋ねると、ツクモはなぜかムッとして「これはオシャレさ」と言って拗ねたようにそっぽを向く。
「随分と時間を食った。時間が止まってるわけじゃないなら、朝までには戻らないと…。点呼あるし」
さすがに部屋に刑務官が入って来てたら、不在がバレて大騒ぎになるだろう。
「アダッチーがもたもたしてるからさ」
「……………」
(試し撃ちしていいかな…)
足立は腰に挟んだリボルバーに手を伸ばしかける。
「鍵は開いてる。行くさ!」
ツクモがやる気を見せると、本来なら閉められているはずの鉄の扉が重そうな音を立てて開いた。
「お、開いた」
拘置所の廊下は見えず、真っ暗闇だ。
室内とは思えない、風が流れ込んでくる。
きっと、この先は、拘置所の廊下でもないのだろう、と足立は思った。
「さてと、行きますか」
「……………」
「どうしたの?」
言い出しっぺのツクモが動かず、足立は首を傾げた。
呆けたツクモは扉の向こうを見つめたまま、口にする。
「ツクモ達の他に…、誰かいる…」
「え?」
もう一度、扉の向こうに視線を移す。
足立には、何も聞こえなければ気配も感じなかった。
だが、「他の誰か」というのが、ツクモの頭を悩ませているものでないことは言動でわかった。
「誰かって…」
迷っている暇はない。
ツクモより先に、一歩前へと踏み出した。
自分とはまた別の誰かが巻き込まているかもしれないのだ。
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