34:I'm not a hero
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夜戸と足立は砂浜を走った。
体力温存のため、少し速い小走り程度だ。
砂浜のところどころには、こちらに来るときに何度も見かけたブラウン管テレビがいくつも不規則に転がっていた。
夜戸は足を速めながら肩越しに振り返る。
堤防に遮られて見えないが、乗ってきた車が未だに炎上しているのか、落合と姉川がいる場所は赤く光り、黒煙が上がっていた。
金属音がぶつかり合う音も微かに聞こえる。
「!」
何かにつまづいた。
前のめりになったところで、横から咄嗟に伸ばされた足立の腕にすくい上げられる。
「あっぶないな」
先程の地震の影響か、砂浜がところどころ地割れしていた。
夜戸はそれにけつまずいてしまったのだ。
割れた地面の間に海水が流れ込んでいる。
堤防沿いを走っているが、海が荒れているせいで小波がすぐ傍まで近づいた。
夜戸は荒波に目をやり、体勢を戻す。
「すみません…」
置いてきたみんなのことが気がかりだ。
後ろ髪を引かれる夜戸の表情を見て足立も察している。
「後ろ振り返ってないで、足下気を付けて」
「…はい」
「みんな、自分で選んだんだ。迷いはなかった。君もわかってるだろ。なのに、夜戸さんがあれでよかったのかこれでよかったのかって狼狽えてどうするのさ」
「……………」
足立の言うことはもっともだ。
返事は返さなかったが、メガネのズレを直した夜戸は、前に向き直る。
少し進んだところで、夜戸と足立は足を止めた。
地震のせいで横倒しになったキャンピングカーを発見したからだ。
「ここにも車が…」
他に乗用車は見つからない。
人もいない。
「う…っ」
しかし、キャンピングカーから男の呻き声が聞こえた。
通過しようとした夜戸は、「え」と振り返る。
「誰かいるね」
夜戸は横倒しのキャンピングカーにのぼり、砕けたドアガラスから中に下りた。
細身なのでガラスに引っかからず通り抜け、内側から鍵を開けてドアをスライドさせ、足立も招く。
倒れた衝撃で中はめちゃめちゃだ。
「叔父さん!」
見つけたのは、両手首は手錠、両足首は結束バンドで縛られた昌輝だった。
ソファーベッドの下敷きになり、身動きが取れない状態だ。
額からは血が流れていた。
「明菜…」
苦しげに声を漏らす昌輝に、夜戸はテーブルをどけて近づき、片膝をつく。
「どうしてここに…。待ってて」
事情は助け出してからだ。
「助けてほしかったら動かないでくれる?」
足立はそう言ってマガツイザナギを召喚した。
夜戸はナイフで昌輝の手錠の鎖を断ち切り、イツを召喚してマガツイザナギとともにキャンピングカーを起こす。
ソファーベッドを2人掛かりで起こして昌輝を救出したあと、夜戸は昌輝の足首の結束バンドも切った。
解放されたが座り込んだままの昌輝は、足立と夜戸に、二又の手によって連れて来られたことを説明する。
つい数時間前まで月子がここに軟禁されていたことも話した。
「事情は、月子が連れて来られてから大体把握している…。本来なら、明菜は行くべきではないのだろうが、安全な場所はもうないみたいだな…」
月子が再び移動された時点で、クニウミ計画が終盤まできていることは理解できた。
「私も追いたいところだが…。ぐ…っ」
壁を支えに立ち上がろうとすると、全身に鈍痛が走った。
立ち上がる前に片膝をつき、荒い息を吐き出す。
夜戸はついてこようとする昌輝の肩にそっと触れて落ち着かせた。
「ムリしないで休んで。月子は、あたし達が迎えに行くから」
今まで夜戸からは聞いたことがない、ほっとする優しい声だ。
表情も、かつての日々樹と重なる。
「明菜…」
「?」
二又の告げた真実を思い出し、躊躇い、「いや…」と首を横に振った。
「………私が言えたことはないかもしれない。だが、気を付けてくれ」
夜戸は頷き、キャンピングカーを下りる。
足立もその後ろに続こうとした。
「足立君…だったな」
足立は足を止めて振り返る。
「この先に待ち受ける真実は、きっと彼女を苦しめる…。彼女は自分を見失うかもしれない。だから…、闇にとらわれないよう、明菜を…守ってやってくれ…」
少し黙った足立は肩を落とし、苛立ちを込めてため息をついた。
「…ほんっとみんな、勝手な事言ってくれるよねぇ。色んなもの背負わされるほど、僕の背中は広くないってのにさ。……ガキじゃないんだ。誰かに言われなくても僕は…、僕のやりたいようにやるだけだよ」
そっけなく言い返した足立は、外から「足立さん?」と声をかけられ、「今行くよ」と返してキャンピングカーを降りる。
「……日々樹も、大人に育っていたら、ああいう生意気な言い分を返してくれたかな…」
呟いた昌輝の口元は、寂しげに弧を描いていた。
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