33:Don't take it out on me!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
刃の打ち合いは一層激しさを増す。
本格的に誰も手出しができない。
「夜戸さんがキレてる…」
「僕はもっと逆切れした彼女を知ってるよ」
「透兄さん何言ったの…」
「たぶん話したら怒られるから言わない」
後部座席でそんな会話をしている時も、金属音の雨が途切れることはなかった。
「手に入らなかいからってあたしに対して数々の嫌がらせ。やり方がブサイクなんですよ!! 大嫌いなのはお互い様!!」
「うるさいうるさいうるさい!! 先生はアンタのことすごく大切に構ってたのに知らない顔して! 羨ましい!! 私のことなんか単なる仕事仲間にしか思われてなかったわよ!!」
「嫌がらせに一生懸命で指くわえて一線越えなかったのはあなたでしょう!? あたしだっていい年なのにいつまでも過保護になられるとうんざりするわよ! いい加減子離れしてほしかったし、好きな人のことだって悪く言われたら腹立つに決まってるじゃない!」
(そんなお父さんに、僕は悪口どころか殺意まで向けらる始末だよ…)
足立は会話に耳を傾けながら思った。
そこへ姉川が「ねぇ」と声をかける。
「そろそろペルソナ本体を出せる範囲に入るよ」
本拠地からこちらに移動してきたと思われる久遠も知っているはずだ。
夜戸と久遠の動きが一度止まる。
どちらも息が上がっていた。
「あなたは…、親から貰った顔まで変えて何がしたかったの…?」
「……もうわかってるでしょう…? 先生と結ばれたかった…。それなのに…、アンタが邪魔…。邪魔、邪魔っ、邪魔!!」
トンネルを抜けると同時に、久遠は、夜戸の背後にシギヤマツミを召喚した。
2丁のサブマシンガンを構え、そのまま車ごと破壊するつもりだ。
夜戸は振り返らない。
「すぐそうやって人のせいにして…」
ズバッ!!
誰よりも早く反応したのは夜戸だった。
突風の如く、誰にも気づかれず召喚されていたイツがシギヤマツミの両腕を切り落とした。
「ぎ…ッ!!」
両腕に走る痛みに、久遠は顔を歪める。
「結ばれたかった…? だったら憎しみよりも優先するべきことがあったでしょ。あなたが新しいお母さんなんんて冗談じゃないけど」
「こっちのセリフよ! 先生を手に入れることが簡単に手にできたら苦労なんてしない!! アンタが死なない限り!!」
久遠は食い下がる。
大きく斜めに振るわれた鉤爪が、ナイフを宙へ弾き飛ばした。
丸腰になった夜戸に、姉川達は思わず口を開ける。
「金と時間の無駄遣いを「苦労」なんて言いませんよ」
夜戸は冷静に、至近距離に突き出された鉤爪に、わずかに体を逸らす。
刃は肩をかすめた。
「好きな人に振り向いてほしいはずなのに、あなたは何をしてました…? いい加減…っ」
一瞬の隙を狙って護送車から飛び、空を仰ぐ。
「あたしに八つ当たりしないで!!」
ゴンッ!!
勢いのついたヘッドバッドが、久遠の眉間に直撃する。
「~~ッぐ…」
衝撃に抗えず、久遠は気が遠くなるのを感じながら助手席に背中から倒れ、ぼやける頭の中は鼻から血が伝ったのを感じた。
ドア枠に足をつけた夜戸だったが、後ろによろけてしまう。
そのまま走行中のオープンカーから落ちそうになったが、
「はい、おつかれっ」
運転席側のドアを開けて身を乗りだした足立に伸ばされた両腕でキャッチされた。
そのまま夜戸の足が道路につく前に引っ張りこむ。
久遠の乗ったオープンカーは、シャドウの運転によって猛スピードで退散し、薄闇の向こうへ消えてしまった。
夜戸はぐらつく脳内で、運転はどうしたのか、と視線を泳がせると、森尾が後部座席から体を半分を乗り出してハンドルを握りしめていた。
偶然とはいえ、運転席と後部座席を遮断していた金網が、久遠に外されてよかったかもしれない。
「アクセルこんなもんさ?」
ツクモも運転席の下に潜り込んで足立の代わりにアクセルを踏んでいる。
「ありがとう…」
疲れを露わに足立達に感謝し、足立は夜戸を後ろ抱きしたまま苦笑いを返した。
「反論じゃなくて、ほとんど反撃だったよね」
「…………足立さん」
夜戸は足立を見上げる。
「好きです」
「知ってる」
にっこりと返され、「はぁ…」と夜戸の半開きの口から曇ったため息が漏れる。
「ちょっと、人に告白してため息って…」
困惑する足立に、姉川と落合は照れながら「あーあ」と肩を落とした。
そんな2人の反応に足立は「ええ?」と意外そうに漏らす。
「僕が悪いの?」
「お2人さーん、この体勢きっついんで早く替わってもらっていいかー?」
すぐ傍で森尾が不貞腐れている。
ハンドルにやる気が感じられない。
助手席に移動した夜戸も不貞腐れかけていた。
簡単に「苦労」と言い切った久遠に腹を立てる。
(あたしだって、このひねくれた人からたった2文字引き出そうとするだけで大変だってのに…)
もどかしい気持ちに横目で足立を軽く睨みながら、心の中で愚痴った。
車体はボロボロにされて風通しがよくなったが、走行に異常はない。
このまま止まらずに先へ進むことにした。
「クラオカミ」
姉川はクラオカミを召喚し、車上のクラオカミが水のイルカを放つ。
「あ…」
運転をかわって後部座席に戻った森尾は、落合側のドアガラスから、遠くの拘置所を見つけた。
「…なぁ」
戻ってきたのなら鹿田を助けに行かないか、と提案しようとした。
足立もそうくるだろうと構える。
「みんな…!」
姉川が鋭い声を放った。
周りを気にするがシャドウはいない。
だが、何かが起こっていることに気づく。
最初は、車に乗っているからだと車内にいた誰もが思ったが、地面と建物が揺れていた。
建物が倒れるほどではないが、大きな揺れだ。
「ゆ、揺れてる…?」
ツクモは不安になる。
ゴゴゴゴゴ、と地鳴りが続いた。
「地震…?」
落合はすぐ近くの鉄道高架に目をやり、こちらに倒れてこないだろうか、と心配する。
「…ッッう…!」
突然、夜戸が胸を押さえて苦しみ出した。
「夜戸さん!?」
「明菜!!」
「明菜ちゃん!」
呼びかけに応える余裕はない。
夜戸は胸に灼熱を覚え、右手で胸を、左手でシートベルトをつかんでもがく。
「痛…っ! うう…ッ」
埋めれたナイフが胸の内で暴れ回って今にも突き破りそうだ。
この先で、誰かが呼んでいる気がした。
「みんな…っ、気を…つけ…」
ただならぬ気配に警戒を呼び掛けた時、たくさんの黒い影が飛び出してきた。
黒い塊に、小さな金色の眼が光る。
「シャドウ!!」
夜戸たちを乗せた車は、道を真っ黒に染めるほどのたくさんのシャドウ達に取り囲まれてしまう。
誰が合図したわけでもない。
全員が一斉に声をそろえた。
「ペルソナ!」
立ち止まることは考えない。
『カバネ』の本拠地はすぐそこまで近づいていた。
.To be continued