33:Don't take it out on me!
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月子が久遠に引っ張られて強引に連れて来られた場所は、キャンピングカーから10分も経たない距離にある崖だ。
少し体を傾けて下を覗くと、高さは5メートルほどで、飛び込み方に気を付ければ助かりそうだ。
テレビで見た、海水浴場の端にある同じような崖からダイビングしている若い海水浴客の姿を茫然とした頭で思い出した。
今、黒い海は荒れている。
久遠から逃げて飛び下りたとしても助かる見込みはない。
崖の縁には、二又がこちらに背を向けて立っていた。
久遠は「Y」と声をかける。
「連れて来たわ。まったく、自分で行きなさいよ」
口を尖らせ、月子をぞんざいに放った。
受け身もとれず、月子は「うっ」と倒れる。
「昌輝さんとはもう会わないことにしてるからなぁ」
海の向こうを眺めていた二又は振り返り、地面に倒れた月子を見下ろした。
「……………」
見上げて睨みつけてくる月子に、「ハッ」と嘲笑う。
「死にかけじゃねーかぁ。今、死なれても困るんだけどなぁ」
「いっ…」
しゃがんで月子の前髪を乱暴につかみ、上に引っ張った。
ポケットから取り出して月子の前に差し出したのは、シャドウが落とす破片が詰め込まれたビンだ。普通の人間から見れば、コンペイトウのビン詰に見えるだろう。
「破片は飽きるほどあるんだ。たんまり食えよ。どれくらいガマンを続けてんだぁ? メインディッシュにならねぇためかぁ? ムダなことを…。ブタの方が、自分が食べられるとも知らずに食欲旺盛で可愛げがあるっつーのに、てめぇはブタ以下か?」
「……………」
差し出される破片に、胸の傷痕の痛みに伴い食欲が疼くが、月子は唇を噛みしめて目を逸らした。
往生際の悪さに二又は舌を打ち、月子の髪から手を離さず、腕を組んでこちらを傍観している久遠に声をかける。
「Q、あいつらがこっちに来るみたいだから、あとは…わかるよな?」
久遠が腕を下ろした。
怪訝な眼差しを向けながら確認する。
「…好きにしていいの?」
「存分に本性晒して来い」
久遠の唇から「ふふ」と抑えきれない笑いが漏れ、手のひらで隠す。
それから踵を返し、ヒールの音を鳴らしながらどこかへと行った。
久遠の背中を見つめ、月子は噛みつくように言葉を投げる。
「おねーちゃんが死んじゃって困るのはあなたでしょ!?」
「確かにぃ、Q如きで殺されるようじゃ困るなぁ…。他の連中が死ぬのは困らねぇ。すべてを失った時、彼女はどんな目をしてくれるかなぁ…。これはオレから彼女への試練だ」
二又と目を合わせ、ぞっとした。
一瞬だったが、金色の瞳を中央に、白目の部分は真っ赤に染まっているように見えた。
まばたきしたあと、元の白色に戻っている。
「……あなたは…」
「オレはオレだ。オレはオレ自身が決めたことをやり遂げる」
左手で目を覆い、二又は自身に言い聞かせるように呟いた。
「おねーちゃんをどうする気…、ッ!」
二又の右手は月子の前髪から離れ、首をつかんで小さな体を持ち上げる。
月子は苦しさのあまり、二又の右手首をつかんでもがいた。
「おねーちゃんおねーちゃん、うるせぇなぁ。いつまで家族ごっこやってんだぁ? それならオレは「おにーちゃん」役でいいよなぁ? 本当にそうなっちまうんだからなぁ」
「ぅ…っ」
どういう意味なのか、問い詰めたくても喉を締められ言葉が出てこない。
「おねーちゃんの前で全員…ミナゴロシだ」
直後、海に黒い雷が落ちた。
すると、地面が大きく揺れ始め、海面が盛り上がり、海の向こうに繋がる地面の道が出現した。
ちょうど、二又が立っている崖から一直線に繋がる。
予定通りに作られたかのように、高さも一緒だ。
(道が…)
形成された道に月子は目を剥いて驚く。
暗闇のせいで道の先が見えない。
けれど、けっして希望へと続く道でないだろう。
「オレと彼女の、明るい未来の懸け橋だ」
二又は本気で言っていた。
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