33:Don't take it out on me!
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昌輝と月子はキャンピングカーの中に閉じ込められていた。
白のソファーベッドが向き合い、中央には小さな丸テーブルがある。
監禁しておくためにわざわざ用意されたものだろう。
昌輝と月子は両手に手錠をかけられ、両足首は結束バンドで固定されていた。
二又の信徒が運んできた食事は自分で食べることはできるが、トイレは足の結束バンドを外され、銃を突き付けられながら、キャンピングカーが停車しているすぐ脇の茂みで用を足さなければならない。
見張りの目からは逃れることができず、二又とは喫茶店で捕まってから会っていない。
本当にこのままクニウミ計画が遂行されるまで閉じ込めておくつもりだ。
昌輝は向かい側で黙り込んで座っている月子を見据える。
連れて来られて数日が経過するが、会話は少なかった。
それでも、長らく独りきりが当たり前になっていた昌輝にとっては、誰かがいることへの安心感を確かに感じていた。
いつぶりだろうか、と考えて頭の中に人物を浮かべ、目を細めて振り払う。
「昌輝…」
「!」
唐突に話しかけられ、少し驚いた。
月子が自分から話しかけるのは珍しかった。
汗が滲み出ている疲労を浮かべた顔を眺め、言葉を待つ。
「月子ね…、本当の親とか知らないまま…、周りの大人たちの言う通りに動いてきた…。ずっと…、小さな部屋に閉じ込められて…、じっとして…、何か言おうとしたら…マネをしようとしたら…すごく怒られた…」
欲望教にいた頃の記憶がよみがえる。
気が付けば、周りから神像のように崇められ、与えられる欠片を貪り、そしてまた誰かに喜ばれた。
両手を合わせて拝まれ、頭を下げられる。
なぜ誰もがそうしていたのかはわからなかった。
頼んでもないのに。
なぜ、なぜ、なぜ、なぜ…。
『お前はそんなこと気にするな!!』
怒声を放った男は、鬼のような顔をしていた。
疑問を持つことは諦めた。
言葉を出すのも諦めた。
『ここから出るんだ』
手を引いて連れ出したのは昌輝だった。
自由を手にした感覚はなかった。
役割に変わりはなかったからだ。
だが、日々樹に出会えた。
「昌輝…、死んじゃったけど…日々樹に会えてよかったと思ってる…。おねーちゃんと…みんなと会えてよかったって…。……あの時…、連れ出してくれて…ありがとう…」
微笑む月子に、昌輝ははっと目を見開いた。
月子が心の底から笑ったのを、直に見るのは初めてだ。
「……っ、すまない…。月子…、私は…」
これ以上、直視することができない。
うつむき、足下を見つめた。
「はぁ…」
大きな吐息をついたと思えば、どさ、と倒れた音に顔を上げる。
月子は、苦しげに胸を押さえながら横たわっていた。
「月子!!」
誰か来てくれ、と叫ぼうとした時だ。
キャンピングカーのドアがスライドして開かれ、久遠が入ってくる。
「時間ね」
苦しげな月子を冷たい目で見下ろし、久遠は「起きなさい」と手を引っ張り、ソファーベッドから引きずりおろす。
「おい!」
昌輝は険しい顔で立ち上がるが、突き出された足に腹を蹴られ、ソファーベッドに倒れ込む。
「ぐ…ぅ」
「傍観者は最後まで席は立たないでください」
嘲笑した久遠は、鉤爪の切っ先を昌輝の顔に突き付けた。
唸る昌輝を横目に、そのまま鉤爪を、月子の両足首を縛る結束バンドに引っかけて断ち切る。
「立って」
月子の細い腕をつかみ、強引に立たせて外へ連れ出そうとした。
「ま…、待て…」
腹を抱えてソファーベッドに横たわったまま、昌輝は右手を伸ばす。
久遠が自ら訪れたということは、現段階から計画に月子が必要になったと勘付いた。
「さよならくらい言ってあげたら?」
久遠は鼻につく笑みを浮かべ、ドアを閉める。
(月子…、明菜…)
昌輝は、宙を掻いた手を、強く握りしめた。
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