33:Don't take it out on me!
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繁華街の大通りを走る、夜戸達を乗せた小型護送車。
その後ろを、多くの乗用車が唸りながら追いかけている。
夜戸に頼んで助手席からハンドルを替わってもらい、足立はアクセルを調節して踏みながら、夜戸が捜査本部から持ち出した自身のネクタイとジャケットを着始めた。
「助手席からのハンドル操作って違法行為にはならないの?」
今や法律を気にしている状況ではないが、落合は単純に気になって夜戸に質問をぶつけた。
夜戸は右手でハンドルを握り、前から別の車が来ないか警戒しながら答える。
「まあ…、ぶっちゃけて言うとグレーゾーン。運転手が運転中に心臓発作などの緊急事態で運転不能になった場合、助手席側から運転を替わっても安全運転義務違反にはならない」
「そいつ、今、緊急事態か?」
未だに気分が悪そうな森尾がツッコんだ。
どう見ても着替えているようにしか見えない。
足立はネクタイを締め、ジャケットに袖を通す。
「身支度っていう緊急事態」
「出た」
しれっと出る、物は言いよう。
「悪ノリとか思いっきり蛇行しない限りは引っかかりません」
指先でメガネを上げる夜戸は、弁護士の顔つきだ。
「明菜、仕事モード入ってる」
「よし。やっぱりネクタイしてないと、気が引き締まらないねぇ。スーツもありがと」
「相変わらず、ネクタイ曲がってますけどね」
足立らしいのであえて直さない。
「それにしてもよくツクモ達の居場所がわかったさ」
「繁華街を探し回って、百貨店の外付け階段で姿が見えてね」
「映画みたいに百貨店に逃げ込んでるとは思わなかった」と足立は苦笑し、「で…」と本題に入る。
「月子ちゃんがどこにいるか見当ついてんの?」
運転を替わり、足立はバックミラーで姉川を見ながら尋ねた。
姉川は首を横に振る。
「全然」
「ちょっとぉ…」
目的地がはっきりしていなければどこへ向かっていいかもわからない。
今も追われているのだ。
「でも…」と姉川は続ける。
視線は宙を見つめ、頭の中では叩きこんだデータを思い返していた。
「クニウミ計画のメインは月子ちゃん。人柱だから、シンプルに、シャドウ達が集まってる方向に向かえば…」
「そうは言っても、シャドウなんてどこにもいねーよ」
拘置所の地区から繁華街の地区まで走行してきたが、シャドウの姿はなかった。
ツクモは「そうでもないさ」と声をかける。
「この地区の影響が少ないだけで、どこかにいるはずさ」
「そう。微かだけど、膨大な気配は感じるの」
「どこから?」
夜戸のその質問に、「えーと…」と答えづらそうなリアクションが返ってきた。
「華姉さん?」
隣から顔を覗かれ、姉川は前を向いたまま後ろを指さす。
「後ろから…」
「は!?」と森尾と落合が声を上げた。
同時に後ろに振り返る。
「逆走してるってこと!?」
リアガラスの向こうは、一般乗用車やトラックなどが激しいエンジン音を立てながら、運転手たちが血眼になってこちらを追っている。
車間距離は目測で5メートルだ。
戻るとして、あの中に突っ込むことだけは避けたい。
「うえ…」と苦い顔をした足立だったが、諦めてため息をついた。
「拘置所の方に逆戻りか…。めんどくさいけど、行くしかないよね」
その言葉にピクリと反応したのは森尾だ。
夜戸達と合流するまでに起きたトラウマを、再び経験するということだ。
真っ青な顔で、自身のシートベルトを両手で強く握りしめる。
命綱みたいな扱いだ。
「兄さん、何してんの」
「覚悟」
森尾の反応に、その場にいた全員が嫌な予感を覚えた。
森尾の身に何があった、と夜戸、落合、姉川はシートベルトの確認をする。
「シートベルト」
「「「「「してます」」」」」
足立に即答する5人。
ツクモは落合に強く抱きしめられている。
「じゃ、姉川さん、ナビよろしくね」
足立がハンドルの持ち方を変えた。
左手は上、右手は下へ。
「ちょっと待って、ホンマに何する気!?」
姉川が質問を投げた時、車体が大きく動いた。
突然のドリフトに姉川と落合とツクモが悲鳴を上げる。
小型護送車は、ビルとビルを挟む横道に入り、まっすぐに直進した。
幅はミニバンでギリギリだ。
足立はサイドミラーで後方を見る。
大型車は入って来れず、したがって小型の乗用車でも1台ずつ並んで追ってくるしかなかった。
フロントガラスの向こうには、十字路が見える。
「足立さん! ストップ! 右の角から来る!」
微弱な気配を察し、姉川は右を指さした。
「すぐ?」
「え。今から5秒、ご!?」
言い切る前に、ぐん、とスピードが上がり、座席に体が押しつけられる。
この為に速度にわずかな余裕を持たせていた。
真っ直ぐに突っ切ったあと、通過した右の道から乗用車が飛び出した。
少しでも遅く走っていたらぶつかっていただろう。
車体がバウンドする。
短い下り坂を飛んだからだ。
大通りに出るのはまだ早いと判断した足立は、小道を右折、左折と曲がり、途中で左のサイドミラーが電柱にかすって折れてしまう。
車体も、ビルの壁や角を何度も擦った。
「「イヤァァァァッッ!!」」
姉川とツクモは涙目で再び悲鳴を上げる。
ひとつ運転を誤っただけで大事故に繋がってしまう。
「犯人を追いかけるためにパトカーをかっ飛ばしてた時あったけど、逃走のカーチェイスも刺激的だねぇ」
久しぶりの運転に足立は楽しげだ。
「お…、降りたい」
元々、ジェットコースターなどの絶叫系マシンが苦手な森尾のメンタルは限界だ。
弱々しい兄の姿を見兼ね、落合は「透兄さん! もうちょっとスピード落として!」と言ったが、「振り切れたらね」とあっさり返された。
「ちょ、明菜姉さん!」
けっして上手いとは言い難い荒ぶる危険運転に、夜戸からも言ってもらうよう頼もうとしたが、
「緊急事態デス。アタシハナニモミテマセン」
夜戸はメガネごと両目を手のひらで覆っていた。
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