02:I won't die yet
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「僕は行かないよ」
「なんでさ!?」
ツクモの要件を聞かず布団に入り直して背を向ける足立に、ツクモは声を上げた。
「めんどくちゃい」
「ちょっとちょっとちょっと!」
きっぱりと言い切る足立の背中を前足を使って揺するが、足立はカメのように布団と言う名の甲羅に深く潜ってしまう。
ツクモは諦めずに器用に前足で布団の端をつかんでひっぺ返そうとするが、足立もぬいぐるみ相手に引き剥がされてなるものかと両手でつかんで対抗した。
「僕はもうこの手の現実味のない事件に関わらないって決めてんの。面倒くさいのはたくさん。君は知らないかもしれないけど、起訴前だってすっごく大変だったんだ。足立透の世にも奇妙な冒険は終わったの」
「最後の、色々混ざって気になるけど、そう言わないでほしいさっ。ツクモを助けてほしいさ~!」
ツクモは懇願しながら背中をぽこぽこと叩いてくる。
「やらないって言ってるし。別に僕じゃなくてもいいでしょ。他人の世話焼くの大好きなガキを紹介してやるから帰ってよー」
「この地区で頼れるのはアンタしかいないから言ってんのさ! ツクモはわけあって動き回ることができないのさ!」
諦める様子をみせずに手を止めて背中に縋りつくツクモに、足立は内心で舌を打って苛立ち混じりに言い返す。
「いい加減静かにしてよ。そろそろ刑務官が来るんだから、いつ持ち込まれたかもわからない人形相手におしゃべりしてたら、今度こそ精神病院送りだよ。本当に行きかけたことあるんだからさ~」
「……心配ないさ。今、ここには、ツクモとアンタしかいない」
「? どういう…」
布団から顔を出すと、耳元で、ザザッ、とテレビの砂嵐のような音が聞こえてはっとする。
廊下から漏れていた照明はいつの間にか消え、窓から差しこむ月明かりだけが部屋を照らしていた。
「いつの間に…」
空気ががらりと変わり、懐かしい感覚を覚える。
承諾もなく巻き込まれたと確信してからようやく半身を起こし、ツクモを軽く睨みつけた。
「ここは、アンタの知ってるテレビの中の世界とは、ちょっと勝手が違うさ」
してやったり、と言いたげにツクモは落ち着きを取り戻していた。
あっさりと断られた時の狼狽ぶりはどこへやら。
「僕、どうやって連れて来られたの? 困るんだよねェ…。脱獄と勘違いされたらまたややこしくなる」
苛立ち混じりに後頭部を掻く。
足立が知っている『向こう側』の世界は、テレビの画面の中に入ることで訪れることができる、危険を伴う世界だ。
自身が現在生活を強いられている独居房にテレビはない。
どうやって強制的に連れて来られたかは、ツクモにしかわからない。
「心配ないさ。監視モニターには、アンタが布団で丸まって寝てる状態で映ってる。消えたことには気付かないはずさ。ツクモとのやりとりも、監視カメラには映ってない…。そもそもツクモは、そんなものには映らない」
足立は天井の一角にある監視カメラを見上げた。
ツクモの発言から、監視カメラを利用してここに連れて来られたのではないか、と推察する。
「テレビとは違う入り方…か。とんだ裏ルートだね」
「不服そうな顔してるさ。だから、心配ないって。手伝ってもらうんだから、アンタの罪が余計に重くなるような事態は避けるさ」
「ここまで強引に連れて来てよく言うよ」
胡坐をかいて膝に肘をのせ、頬杖をついて口を尖らせた。
「ツクモにぬかりはないさ。事件解決したら、ちゃんと元の世界に戻してあげるさ」
「上から目線なのもムカつく」
「いたっ!」
額を打たれたお返し、とツクモの額をデコピンしてやると、ツクモの体はでんぐり返りのようにコロコロと壁際まで転がった。
本物のぬいぐるみのような感触だったが、どうやら痛みはあるらしい。
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