32:Where to?
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「この人達、どうなったさ?」
姉川と落合が一度落ち着きを取り戻した。
ツクモは前足でツンツンと傍に倒れている男をつつく。
外傷はなく、気を失っていた。
「人…」
夜戸は呟き、自らが倒した人間達を見回す。
「みんな、二又に操られてたんだと思う…。明菜姉さん、どうやってこの人たちを?」
「あたしは、ただ、欲望を切り離しただけ」
見せつけたのは、黒いナイフだ。
姉川は「あ」とそれを指さす。
「人間の欲望を刈り取るナイフね」
夜戸は本来の能力である黒いナイフを消し、もう一度辺りを見回した。
「あたしの目には、この人たちが真っ黒なシャドウにしか映らなかった」
人間の形をした真っ黒な影が、姉川達を追い回して殺そうとしているように見えたのだ。
姉川と落合は、欲望に塗れた人間ほど真っ黒に見える、と言った夜戸の話を思い出す。
夜戸は、違和感を覚えていた。
「切り離した瞬間に気絶するなんて…。あまりにも膨大な負の欲望…。それも完全に支配されていた」
今までなら、夜戸の手で負の欲望を切り離された人間は、一抹の喪失感を味わうだけで平然とし、切り離された欲望は、監視カメラから異世界に移動していた。
今はそれが見受けられない。
「!?」
眉をひそめていると、異変が起きた。
思わず一歩下がる。
倒れた人間の体から黒い影が次々と飛び出し、上空へと飛び、水滴が水たまりに落ちるように、暗雲の一部と成った。
姉川達にも見えていた。
「……ウツシヨと、トコヨと、そしてカクリヨが融合しようとしているさ」
上空を見上げたツクモがそう言った。
「え…」
「現実世界と異世界が一つになろうとしてるってことさ」
「これが……」
昌輝のデータに記載されていた通りだ。
世界の終わりが始まろうとしている。
クニウミ計画の最終段階がすぐそこまで近づいているのだ。
「…明菜、町を丸ごと巻き込むほどの大規模な事件よ…。このままだと…」
姉川が不安げに言おうとしていることは理解できる。
夜戸は頷いた。
その表情に躊躇いも迷いもない。
「…あたしは逃げないよ。運命と向き合って、止める」
「簡単に言うけど…」
そう言うものの、夜戸が簡単に言っているようにも見えなかった。
夜戸は姉川の両手を柔らかくつかみ、目と目を合わせる。
「お願い。月子を早く迎えに行ってあげたいの。華ちゃんも、空君も、ツクモも、力を貸してほしい」
姉川はついに黙り込み、視線を足下に落とす。
「そんなこと言われたら…、「ダメ」とか言えないじゃない…」
「…まぁ…、じっとしてても世界が終わるなら、月子ちゃんを取り戻して、二又の奴に何十発かかまして、足掻きまくってからでもいいんじゃない? ひょっとしたらどうにかなるかもしれないし、データだって、「終焉を止めるのは絶対無理」なんて書いてなかったわけだし」
落合は後ろに手を組み、楽観的に考えて口にした。
ツクモも「そうさっ」と飛び跳ねる。
「ツクモ達のやり方で完全勝利! なんてカッコもつくさ~」
「……はぁ…。そうね。後ろ向きに考えても仕方ないか。そうよ…。もう…、仕方ないよね」
小さなため息をついた姉川は、苦笑した。
「下に行こう。長居もしていられない」
落合が促し、4人は階段を駆け下りる。
下から大勢の人間にのぼってこられてはたまったものではない。
フェンスの扉をよじ登り、地面に着地する。
「こっち…、ぎゃあ!」
着地した途端に、ツクモに接近した通行人の中年サラリーマンが手持ちのハサミを振り下ろした。
「社長なんてぇ地獄に落ちろおお!!」
ガッ!
夜戸の回し蹴りが側頭部に炸裂し、サラリーマンがよろけて地面に倒れる際に黒いナイフで欲望を切り離す。
「正当防衛デス」
「過剰防衛じゃないかなぁ…」
気絶した通行人を見下ろしながら落合が気の毒そうに言った。
蹴りが入った部分には大きなコブが膨らんでいる。
「来るよ!」
百貨店から客たちがわらわらと出てきて夜戸たちを追いかけてくる。
近くにいた通行人たちも混ざってきた。
さすがに数が多すぎて夜戸ひとりでは対処しきれない。
四方八方から取り囲まれて躍りかかられてしまえば一巻の終わりだ。
「ツクモ! 捜査本部に繋げられない?」
走りながら夜戸は提案してみた。
ツクモの能力を借りて一度避難したいところだが、
「それが…っ、さっきからやってるのに、ジャミングがかかってるみたいに繋がってくれないさー!」
先程から実践しているツクモが嘆いていた。
捜査本部から出る事はできたが、入る事が不可能になった様子だ。
「唯一の安全地帯なのにね」
落合はいつもの憩いの席が恋しくなった。
夜戸達は細道から大通りに飛び出す。
「!!」
その時、一台の車が目の前で急停車した。
先頭を走っていた夜戸は立ち止まって即座に警戒し、手を横に伸ばしてツクモ達にストップをかける。
黒いナイフを出現させようとしたところで、車の助手席側の窓が下りた。
「お待たせ」
「足立さん!?」
運転席には足立が乗っていた。
「アダッチー!」
「透兄さん! 待ってたよ~!」
待ちわびたあまり落合は再び目を潤ませる。
「森尾君は!?」
近づいた姉川は開けられた窓から身を乗り出す。
助手席に森尾は乗っていない。
足立は「後ろ」と親指を向けた。
「よかった、2人とも無事で…」
歓喜しながら落合は後部座席を開ける。
白目を剥いた蒼白顔の森尾がシートに座っていた。
ぐったりとしていてすでに魂が抜けそうである。
「無事とちゃう!」と姉川。
「死にかけてる!」と落合。
「何があったさ!?」とツクモ。
森尾は「うぅ…」と呻き声しか返せない。
気持ち悪くて吐きそうだった。
「あはは…。脱出したのはよかったんだけど、そのあとも追い回されてさぁ」
足立は笑っているが、足立が来た方向に振り向くと、車の群れが走り屋並みに物凄い勢いでこちらに迫ってきていた。
平気でスピード違反を犯している。
「まだ振り切れてない状態」
「はよ言えッ!!」
のんびりしている時間はない。
夜戸達も大勢の人間から逃げている最中だ。
挟み撃ちにされる前に、落合はツクモを抱いて後部座席に乗り込み、姉川も続いた。
後部座席はいっぱいになり、夜戸は後部座席のドアを閉めてから助手席に乗り込む。
「夜戸さん、やっぱり来ちゃったんだ?」
「いけませんか? 言っておきますけど、なんと言われようとあたしは…」
言い返す準備は出来ている。
構える夜戸に対し、足立は「はははっ」と笑った。
「こんな状況で大人しくしてる方が君らしくないよ。ここまで来たんだから、気の済むまでやろうじゃない。みんなも付き合う気満々みたいだし」
夜戸は一瞬呆気にとられた。
足立は呆れているでもバカにしているでもなく、少し安心しているように見えた。
「さて…」と足立はハンドルを握る。
「お客さん、どちらまで?」
逃げるか、進むか。
夜戸達の行き先は決まっていた。
.To be continued