32:Where to?
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繁華街を駆けまわる姉川と落合は狭い路地に逃げ込んで身を潜め、大量の足音が通り過ぎるのを待った。
降り出した雨を気にしている余裕もない。
「華姉さん…」
姉川は座り込み、「ちょっと…休憩させて…」と息を弾ませている。
同じく息が上がっている落合も、座り込みたい気持ちをぐっと堪え、見張りに徹した。
(…駅も抑えられてた。この町で確実にボクらの息の根を止める気か。一般人を使って…っ)
沸々と湧き上がる憤りにコブシを握りしめる。
この町の駅に駆け寄ったものの、改札はすべて封鎖され、見張りもいたため、急いで別の道を走ったところだ。
(僕ら2人に対して、今、この町にいる人全員が敵…。リンチどころの話じゃないよ、こんなの)
関係のない一般人をできるだけ傷つけたくない。
殺すなんてもってのほかだ。
ポケットからケータイを取り出した。
捜査本部に行くことができず、避難も出来ないこの状況をどう打破するか。
頭上に浮かんだのは兄の顔だ。
「兄さん…」
親指が動く。アドレス帳には森尾の番号があった。
微かな希望を抱き、ピ、と通話ボタンを押して耳に当てた。コール音が鳴っている。
「え」と呟いた時、相手が電話に出た。
「空からだ! もしもしぃ!?」
「兄さん!?」
「そっちから掛けてきたのに驚くなよ!」
わずかに力が抜けて体がよろめき、ビルの壁に背中をつけた。
姉川に「出たの!?」と驚かれる。
「この時間帯で兄さんが電話に出れるって、よっぽどのことが起きたんだね! 何かあった!?」
「空こそ、一大事だから連絡してきたんだろ!? 追われでもしてるのか!?」
「大正解! 兄さんとこは!?」
「大きな声じゃ言えねえが、プリズンをブレイク中だ!」
ケータイを耳に当てて走りながら、森尾は背後を振り返った。
刑務官と収容者達に無感情の表情で追いかけられている。
左右を走るのは足立と鹿田だ。
森尾の手には、先程入手した大量の鍵が握られている。
ペルソナ(バール)を使ってドアの破壊と金庫の破壊をしたことはあえて伏せた。
「刑務官共がいきなり襲ってきやがって、足立と必死に逃走中だ! 姉川も一緒か!? お前ら今どこにいる!?」
「よかった、透兄さんも一緒なんだね! 僕らがいるのは繁華街のある町! 華姉さんも一緒だけど、はぁ、はぁ…」
息の荒い落合に、森尾は心配して「大丈夫か!」と声をかけた。
疲れた体でまくし立ててしまい、落合は一度咳き込んでから続ける。
「ごめん、二又を取り逃がした! 透兄さんと明菜姉さんの言う通り、あいつ他の車両に乗り換えながら移動してたんだ! 裏をかいて捕まえたんだけど、直後に町の人たちが襲ってきて…」
「やっぱりあいつが原因かよ! クソ二又が! 本気で俺らを殺す気か! 空、姉川とそこで待ってろ! 車で迎えに行くから!」
「兄さ…、無事に…ッ」
声は遠く、ノイズがかかり、やがてプツッと通話が切れた。
「空!? おい!」
呼びかけてみるが返答はない。
掛け直してもノイズの音が聞こえるだけだ。
「今は逃げることに集中しなって! そろそろ出番だよ!」
「すぐそこまで来てるぞ! 鍵は絶対落とすなよ!」
「あ゛ーっ!! やかましいやかましい! わかってるっつーの!!」
ケータイをポケットに突っ込み、廊下の奥に見えたエレベーターを睨みつける。
「ペルソナ!」
手のひらからバールを取り出し、エレベーターの扉の隙間にバールの先端を引っかけ、無理やりこじ開けた。
「バールの正しい使い方」と足立は思わず呟く。
「イワツヅノオが出せたらもっと早かったんだけどな!」
武器を出現させることは可能だったが、イワツヅノオを召喚することができなかった。
足立も同じだ。
「確証はないけど、ウツシヨとトコヨが入り混じってる世界かもね。ペルソナが安定しないのはそのせいじゃないかな」
その2つの世界だけでなく、内にはカクリヨも入っているのだろう。
ならば、二又のカクリヨへの侵入も頷ける。
「エレベーターがねぇ!」
扉の向こうを覗いた鹿田は声を上げた。
エレベーターは下にある。
「どっちにしろ、パスワード付きで俺らには扱えねえから、これでいいんだ、よ!」
森尾は迷わず先陣を切って扉を抜け、エレベーターのワイヤーをつかんで下へ伝っておりる。
「ムチャクチャだな!」
鹿田は呆れたが、足立は「おりたおりた」と背中を押して促し、鹿田とともに森尾に続いた。
エレベーターの上におりた森尾は、バールを使ってエレベーターの天井を破壊し、そこから中に入って地下駐車場へと続く扉を同じ手口でこじあける。
地下駐車場にはまだ誰もいない様子だ。
「護送車発見! ミニバンとワンボックスがあるのか」
「バス型もあるな」
駐車場の端に何台も並んだ護送車が停車していた。
「大きすぎても運転しづらいから、ミニバンがいいな。小型護送車にしよう」
「あの一番端のがいいんじゃねーか?」
鹿田が指さしたのは小柄な白のミニバンだ。
足立は「いいね」と言って近づく。
「まずい…!」
鹿田はエレベーターから次々と出て来た刑務官たちに目を向けた。
森尾は足立に鍵を押しつける。
「足立! とりあえず鍵を突っ込みまくれ! 当たりはあるだろ! 俺らが足止めしとくから!」
頷いた足立は「鹿田君」と呼んで振り返らせ、持っていた警棒を投げ渡した。
「あげる。僕には向いてないや」
「俺だってこんなの使ったことねーよ」
文句を言いながら森尾とともに応戦する。
足立は運転席に回り込み、急いでひとつひとつ鍵穴にさしていく。
森尾と鹿田は背中合わせになり、どんどん増えていく敵を相手にした。
「ムカつく刑務官を殴る機会がほしかったんだ」
鹿田は警棒で刑務官の警棒を弾き、空いた手でコブシを握りしめて殴りつける。
「んなこと言ってたら、刑期延びるぞ!」
しゃがんだ森尾は右脚を突き出し、足払いをかけて収容者を転倒させた。
「車を手に入れたらどこに行くつもりだ? ゾンビ映画みたいにデパートにでも駆け込むか?」
「繁華街だ。弟と仲間が待ってる!」
「隣町か。迎えに行ったらどうする? そのまま逃走するか?」
「バカ言うな。ブッ飛ばしてぇ相手がいるんだ。俺らにケンカ売った後悔させてやるよ!」
鹿田の肩を押しのけた森尾は、右足を勢いよく振り上げ、鹿田の背後に迫っていた収容者のアゴを蹴り飛ばした。
「なはは…。うじゃうじゃと湧き上がりやがって…。!」
バキッ!
「ぐ!」
「鹿田!」
横から、刑務官の警棒が森尾に振り下ろされた時、咄嗟に間に入った鹿田の背中に勢いよく叩きこまれた。
ぐらつく鹿田の体を支え、森尾はバールで刑務官の警棒を弾き飛ばす。
エンジン音が聞こえた。
はっと顔を上げると、こちらにミニバンが走ってくる。
運転席には足立が乗っていた。
ハンドルを巧みに切り、車体を横に向ける。
「乗って!」
助手席の窓が開かれ、足立が言い放った。
森尾は鹿田に肩を貸しながら半ば引きずるように駆け、後部座席のドアを開ける。
刑務官たちは手の届くところまで接近していた。
先に鹿田を乗せようとした時だ。
鹿田に力強く胸倉をつかまれ、後部座席に放り込まれた。
「!? 鹿…っ」
バンッ、とドアが閉められる。
「早く行け!! 狙いはお前らだ!! 俺もあとで…」
鹿田はすぐそこまで来ていた刑務官たちに体当たりし、ドミノ倒しのように大半を転ばせた。
「おい…!」
森尾がドアを開ける前に、鹿田と目が合った足立は、車を発進させた。
「鹿田ぁ――――っ!!」
森尾の虚しい叫び声が車内に反響する。
森尾は足立に詰め寄ろうとしたが、運転席と後部座席を遮断している金網に邪魔をされた。
「戻れ足立! 戻れって!!」
「舌噛みたくないなら黙ってろ!!」
指をかけてガシャガシャと金網を鳴らしながら怒鳴り散らす森尾に、足立は大声を出して黙らせる。
車はスロープを通り、地下から地上へ出た。
「奴らは今も僕達を追ってる。元々、鹿田君のことは標的に入ってないんだ。鹿田君への一撃も君を狙ったものだ。戻ったら確実に巻き込んじゃう」
「……っ」
金網から離れた森尾は、力なく後部座席のシートに身を預けた。
「落合君たちのところに行こう」
「……ああ」
いつもの口調に戻った足立に、素直に森尾は頷く。
「シートベルト」と足立は小さく促したが、森尾は窓の外を眺めたまましばらく茫然としていた。
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