32:Where to?
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「こっちが動けないと思って、現実世界からなんてやってくれるよねぇ」
足立はこぼしながら森尾と廊下を駆け、雑居房へと向かう。
1つの房に6人くらいが収容されている。
足立と森尾が姿を見せても誰も気にも留めない。
無気力な表情をしていた。
「全員様子がおかしいぜ…」
「刑務官がああなってるからね」
「なぁ…、ここってトコヨなのか…? 雰囲気が似てる…」
「どうだろ…。今のところシャドウとは遭遇してないし…」
どっちつかずな状況だ。
姉川ならはっきりさせてくれるかもしれない。
「捜査本部はどうなってるかな…」
捜査本部にいるはずの夜戸とツクモはこちらの現状を知っているのだろうか。
それならば、夜戸が慎ましく黙って待っているはずがない。
足立は夜戸の性格を思い返す。
「お前ら、刑務官に襲われたりしてねーよな」
「ちょっと、やめなって」
森尾が声をかけ、部屋のドアに触れた。
その際、違和感を覚える。
「……なぁ…、鍵が開いてる…」
ちゃんと閉じられていなかった。
足立と森尾ははっとドアの向こうの収容者達を見る。
先程まで興味がなさそうな顔をしていた収容者達の目が、縄張りに侵入された獣のようにギョロッとこちらに向けられた。
同時に、雑居房のドアが一斉に開かれる。
「おい…! まさか」
足立と森尾はすぐにドアから離れた。
奥から順番に収容者達が出てくる。
「ころ…す」
「いつまでここに…」
「家にぃ…帰るんだ…」
「ジャマ、ジャマ、ジャマ…」
さっきの刑務官たちと同じだ。
正気を失っている。
全員の殺意が足立と森尾に向けられた。
「こいつらもかよ!!」
一斉に収容者達が襲い掛かってきた。
「言わんこっちゃない!」
足立と森尾は踵を返して走り出す。
階段を駆け下り、1階へ足をつけた。
前方の廊下から刑務官たちが次々と駆けつけてくる。
味方でないのは明白だ。
誰もが武器を手にしている。
「めんどくさいねぇ、ほんと!」
目的はあくまで脱出だ。
前方を切り抜けなければ出入口から出るのは不可能だ。
ひとりひとり相手にしていたらキリがない上に、圧倒的な数で負けてしまう。
さらに後方からは収容者が押し寄せ、後戻りもできない状況だ。
「うらぁ!」
コブシで刑務官を殴り飛ばし、その後ろにいた2人の刑務官を巻き添えに転倒させる。
「本物のゾンビだったら、ゲームみたいに躊躇なく頭をブッ飛ばしてやるのにさぁ…。あ、森尾君はあのゲームやったことあるの?」
「……昔、親父がプレイしてるのを隣で見てたことあったけどよぉ…、つまんなくて見るのやめた!」
言葉を選ぶ間があった。
「怖かったんだ?」
「うっせー!! 違うわ!!」
ドアップのゾンビの顔に大泣きした記憶がよみがえり、襲い掛かる収容者に対し、殴る際に余分な力が入った。
「あ?」
コブシがめり込んだその顔に、覚えがある…ような気がした。
「ぐは…」と崩れ落ちる小太りな体に、森尾は首を傾げる。
「……どっかで見た事あったような?」
「前に、君に濡れ衣着せて鎮静室送りにした奴じゃなかったっけ?」
足立はぼんやりと覚えていた。
「全っ然見かけてなかったから顔忘れちまってた」
「君が怖がらせることするから…」
「その点に関しては反省してるって!」
言いながらも2人は攻撃してくる刑務官や収容者を退ける。
まだ出入口も見えてないのに息が上がってきた。
(まずいな…)
足立は内心で焦りを覚える。
本部の中で体力がダントツな森尾も疲労が見えてきた。
シャドウ相手なら手加減は必要ないのだが、複数の人間相手に気を遣いながら戦うことに馴れていない。
「うおおおおおお!!」
その時、消火器を持った人影が収容者の群れから飛び出した。
「鹿田!?」
森尾は声を上げる。鹿田は消火器を抱えたまま森尾の方へ突進した。
「やめろ、俺だ! 鹿田!!」
「っ!」
躊躇うコブシに目を留め、足立も森尾の元に駆け寄ろうとする。
「お前ら全員頭冷やせェ―――!!」
ブシュ―――ッ!
足立と森尾に背に向け、躍りかかろうとした数人の収容者と刑務官達に消火器のノズル向けて噴射した。
森尾は一瞬呆気にとられる。
「よかった! お前らは正気だよな!?」
噴射し続けながら鹿田は足立と森尾に振り返って声を上げた。
「鹿田…?」
ぽかんとしている森尾に鹿田はいつものように笑う。
「なははっ。安心したぜ」
「それはこっちのセリフだっつの! ビビらせんな!」
安堵のあまり足から崩れそうになった。
「助けてやったのに生意気言いやがって。ぼさっとしてねぇで逃げるぞ!」
鹿田はカラになった消火器を足下に捨て、足立と森尾と一緒に駈け出した。
「君が消火器持ってると違和感があるね」
元・放火犯だからだろう。
「んなことより、一体どうなってんだ。最近まで周りの連中が生き甲斐でも失ったみたいにずっと大人しいと思ってたら、生き生きとお前らを殺しにかかってるし…。まあどうせ、抱えてる面倒事のせいだろうけど」
「その通りなんだけど、相手がここまでやるとは思ってなかったから、僕らもまだ少し混乱気味なんだよ」
「今はここから脱出して仲間のもとに行きたいんだ。協力してくれ」
「なははっ! いいぜ、退屈してたところだ。何する?」
久々の刺激に気分を高揚させている鹿田に、足立は「そうだねぇ」と言った。
「まずはアシかな。車が必要だ」
徒歩で逃げ切れるとは思っていない。
「なら、駐車場か?」
森尾の言う通り、駐車場なら確かに車がたくさんあるだろう。
しかし、と足立は問題点を口にする。
「都合よくキーがささってると思えないけど」
「なら、地下はどうだ? ここの車があっただろ」
鹿田の提案に足立は頷く。
「護送車か。悪くない。…いや悪い事なんだけどさ」
地下駐車場には、収容者を裁判所や刑務所に送るための護送車が置かれている。
拘置所内のどこかにある職員の部屋ならば護送車の鍵はあるはずだ。
「あ、でも…」
決行しようとした矢先、問題点が浮かび上がった。
出入口は固く閉じられて外へ出ることはできず、地下へ向かう為には暗証番号がないとエレベーターも使用できない。
「万事休す!!」
出入口を前に頭を抱える森尾。
立ち止まっているヒマもないというのに。
「警察関係者だったなら、ここの暗証番号とか聞いてねえの?」
「あのね。僕は警察官だったけど刑務官じゃないの。知るわけないよ」
無茶を言い出した鹿田に足立は肩を竦める。
さてとどうしたものか、と天井を見上げた時だ。
「クソ! こうしてる間にも空達が同じ目に遭ったるかもしれないっつーのに!!」
バンッ!
「「!?」」
コブシを叩きつけたつもりだった。
明らかに硬い物をぶつけた音に、足立と鹿田は森尾を凝視する。
「ん?」
森尾は自分の手のひらから飛び出したものに目を見開いた。
赤い傷痕から、バールが半分以上出ている。
ここはトコヨなのか、どうやって大勢の人間が連れて来られたのか、外はどんな状態なのか、と様々な疑問が脳裏を駆け巡ったが、ヒビが刻まれた扉を見て、足立はあえて前向きな考えを選択した。
「出られるんじゃない?」
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