31:I'm gonna go on
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右も左も見えない闇の中、夜戸は彷徨っていた。
「みんな…、どこ行ったの…?」
声を上げて名前を呼んでみる。
返事は返ってこない。
自身の声だけが反響した。
“おねーちゃん…”
「月子…!?」
目の前にぽつんと現れたのは、月子だ。
悲しげな顔をしていた。
夜戸は手を差し出す。
「帰ろう…」
月子は首を横に振った。
「どうして」と戸惑う夜戸に、月子は夜戸の後方を指さす。
指先を追いかけて振り返った夜戸は、視界に飛び込んできた光景に愕然とした。
足立、ツクモ、森尾、姉川、落合の5人が倒れていたからだ。
言葉を失っていると、5人の体が沼のような闇の中に沈んでいく。
「ダメ…!! みんな…!!」
走り出し、手を伸ばした。
しかし、間に合わず、姿がなくなってしまった。
膝をつき、沈んだ場所に手を突っ込もうとしたが、床みたいに冷たく硬い。
“おねーちゃ…”
はっと振り返ると、月子の体が闇の中に消えようとしていた。
「月子!!」
走り、両腕を広げた。
“いっしょにいてくれて、ありがとう…。逃げて……”
月子は寂しげに微笑む。
夜戸は抱きしめようとしたが、間に合わなかった。
宙を抱きしめ、絶望に包まれる。
「あたしはまだ…、あなたに感謝してない…っ。月子…、あなたがいたからあたしは…ひとりじゃなかった…。月子…」
足立達が倒れていた方向に振り返る。
誰もいない。
「足立さん…、ツクモ…、森尾君…、華ちゃん…、空君…っ。みんな…ッ」
一筋の涙がこめかみを伝い、目を覚ます。
捜査本部の2階のベッドで眠っていた。
手の甲で涙をぬぐい、起き上がる。
夢は鮮明にまぶたの裏に焼き付いていた。
1階へ下りると、テーブルや床を飛び移りながらそわそわと落ち着かないツクモを見つける。
「…何かあったの?」
「あ! 明菜ちゃん! その…っ」
報告したいことがある様子だが、夜戸に言っていいものかと言い淀んだ。
「……言って」
真剣な顔で促され、ツクモは白状する。
「……みんなと連絡が取れないさ…。アダッチーとモリモリはこの時間帯は仕方ないけど、ハナっちとソラちゃんは……。しかもトコヨの様子が急におかしくなったさ。雨が降り始めて…」
「雨?」
現実世界で雨が降っていても、トコヨで雨が降ることは今までなかった。
「文字通り、嫌な雨さ…。シャドウ達も活発になってて…、トコヨ中が感じたことのない気配でいっぱいで…。ウツシヨ? トコヨ? カクリヨ? ウツシヨってどんな場所だったっけ…。あれ? ごちゃごちゃになってきたさ…」
混乱してきたツクモに夜戸は「落ち着いて…」と背中を優しく撫でる。
「……………」
視線を手前の扉に向けた。
胸の傷痕がじくじくと痛み、疼く。
隠れたところで時間は止まらない。
逃げたところで暴走は止まらない。
立ち上がり、ウォーハンガーにかけた自身のジャケットをつかみ、袖を通しながら扉へと向かう。
「ど、どこ行くさ?」
「……………」
襟を正し、無言で扉に近づいてドアノブに手を伸ばした。
ツクモは「ダメさ!!」と怒鳴り、夜戸の前に飛び出して右脚に抱き着き、行く手を阻む。
「言ったじゃない! 明菜ちゃんは狙われてる身だって!」
「わかってる…。わかってるよ…」
それでも夜戸は伸ばした手を下ろさない。
「でも、聞いて。みんなが危険に遭ってるかもしれないのに、いつまでも指を咥えて待つなんてしたくないの。ツクモだってそうでしょう?」
「それは…ツクモだって…」
ツクモは悔しげにうつむいた。
気持ちは同じだ。
今すぐにでも全員の安否を確認しに行きたい。
「お願い…開けて」
「明菜ちゃん…」
「逃げ続けてても何も変わらない…!」
「…………ツクモも……」
懇願する夜戸に対し、ツクモは顔を上げて言葉を続ける。
「ツクモも行くさ! ひとりでお留守番なんてしたくない!」
決まりだ。
夜戸は「そうだ」と呟いて一度踵を返し、ウォーハンガーにかけた足立のジャケットをつかみとった。
ポケットにはリボルバーも入ってある。
扉の前に戻り、ドアノブをつかんだ。
ツクモが肩にぴょんと飛びのる。
気合の入った顔つきだ。
「行こう」
.To be continued