31:I'm gonna go on
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1月26日土曜日、午後14時。
タクシーが繁華街の鉄道高架下に停車する。降りたのは二又ひとりだ。
ケータイで時間を確認した。
至って順調だ。
高架下から覗く曇天は、昼下がりと思えないほどほの暗い。
ほとんど夕闇だ。
二又はひとりでくつくつと笑った。
カラスが「ギャー」と鳴き、二又の視界を横切る。
他の仲間達も続いて飛び去った。
別のタクシーが近づいてくる。
手を挙げなくても細い歩道に寄り、二又の目の前に停車した。
自動で後部座席のドアが開かれる。
「祭司様…」
運転席から声が聞こえた。
報告がある様子だ。
「最近静かだけどよぉ、あいつら何やって…」
ゴッ!
鈍い音と同時に視界がぐらついた。
殴られた、と理解した時にはアスファルトの地面に転がっていた。
「…!?」
「痛ったぁぁ…っ!」
後部座席から下りたのは、姉川だった。
人を渾身の力で殴ったのは初めてで、予想以上のコブシから伝わった衝撃に痛がる。
「アンタだけはグーで殴っときたかった!」
コブシを擦り、目尻に涙を浮かべながら二又を鋭い眼差しで見下ろした。
「ッ…んで…」
なぜ居場所がわかったのか、と言いたいようだ。
半身を起こした二又は左頬の痛みに唸り、袖で口端の血を拭う。
「明菜と足立さんが穴を見つけてくれた。アンタが、他の車に乗り換えながら移動してたって。こういう高架下や、トンネル、路地といったカメラがない場所を選んでね。トコヨじゃ見つからないはずよ」
移動手段は、探知型の姉川に見つからない為に、二又の息がかかった信徒に協力させ、バスやタクシー、一般の乗用車を使用していた。
監視カメラで数日ぶりに二又を発見した姉川は、下りる場所と次に乗り継ぐであろうタクシーを特定し、力尽くでタクシーをジャックして二又の前に現れた。
「手間がかかる上に、せこい!」
指をさしてはっきり吐き捨ててやると、二又は「…ッハハ」と乾いた笑いを出しながら立ち上がる。
「誰に口利いてんだ、他人の揚げ足とってメシ食ってるクソカメラマンがぁ…。オレを見つけたくらいで浮かれてんじゃねえよぉ…」
二又の周りの空気が殺気立つ。
白目の部分が血走った鈍い金色の瞳に睨まれ、姉川は一瞬怯んだ。
片手のクロスボウを向けるが、二又は拳銃やナイフを隠し持っているため油断できない。
「夜戸明菜はどこだぁ? 隠してんじゃねえよ…」
「は? そっくり返すわアホが。寝言言う前に月子ちゃん返せや!」
「ヒャハハッ! あの人形を返すだけじゃなんの解決にもならねーぞ。わかってんだろぉ? オレか、夜戸明菜か、人形を殺せば一時的に終焉は食い止められる。一時的になぁ。それとも巫子全員ミナゴロシコースにすんのかぁ? 神剣を全部バラバラに隠しちまえば、てめぇが寿命で死ぬまでは安心だろうなぁ」
「黙れ」
怒りに声を震わせ、引き金にかけた指を理性で抑える。
「ウチらはそんなん誰も望んでへん。アンタと一緒にすな!!」
「だから不合格なんだよぉ、お前らは」
素早い動きで小型ナイフが投げられた。
同時に姉川もクロスボウを撃つ。
「きゃ!」
小型ナイフが、両腕を顔の前にクロスした防御態勢の姉川に当たる前に、落合が飛び出して姉川を押し倒した。
的を失った小型ナイフがタクシーのドアに突き刺さる。
運転手は「ひぃ!」と悲鳴を上げ、その場から逃げ去った。
クロスボウの矢は、二又から大きく外れ、地面に落ちる。
「空君!」
「ごめん、おとなしく待機できなくて!」
挟み撃ちの予定だったが、尋常ではない空気に思わず体が飛び出してしまった。
二又は背を向けて逃げ走る。
急いで起き上がった姉川と落合も追いかけた。
「逃がすかボケェー!!」
頭に血がのぼった姉川は全力で走り、落合もそれに続いた。
絶対に背中は見失うわけにはいかない。
この先は駅だ。
その前に捕まえて乗り物の使用も許さず、トコヨへ逃げてもすぐにクラオカミで捉えて追い詰めるつもりだ。
「絶対…、月子ちゃんと、明菜を、解放させる…!!」
現実に帰す、と強い決意を抱く姉川は、二又を追いながらクロスボウの矢を装填し、目はしっかり逃げる二又の背中を睨んでいた。
2人分の足音を背後に聞きながら、すぐそこまで追い詰められているはずの二又は、不気味に嘲笑っていた。
曇天はゴロゴロと雷鳴し、雨を喚んでいる。
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