31:I'm gonna go on
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1月24日木曜日、午後15時。
「ボクに休む気があってもなくても、学級閉鎖だったよ。さすがに休む生徒が多すぎたみたい。教師まで休むんだから相当だよ」
「…風邪の大流行ってわけじゃないのね?」
「……そうだね…。…そんなカンジじゃなかった」
姉川と落合は、拘置所近くのカフェのテーブル席で、更新したばかりの地図を広げて見下ろしていた。
赤いペンで囲まれているのはトコヨエリアだ。
今時、地図を広げる女性客は見かけないため、コーヒーを置いた際に店員に物珍しげに見られた。
落合はコーヒーの礼を言って愛想笑いでかわす。
「トコヨエリアは大きく分けて4つ。駅分けしていくと、東から、明菜の自宅や事務所や住宅街の多い地区、繁華街と百貨店がある地区、足立さんと森尾君がいる拘置所がある地区、そして主に海水浴の穴場になってる海辺地区」
「ついに明菜姉さんのマンションまで及んじゃったか…。避難してもらって正解だね」
昌輝の手によって監視カメラが少ないとはいえ、カバネが堂々と侵入できるエリアになってしまった。
神経質になっている夜戸の前では口にしない。
「昌輝って人から何か連絡は?」
「何も。連絡取り合う中ではないけど、隠れ蓑から出て行ったみたい。…でも、片付けはされてなかった」
何度か確認を取りに行ったが、借家を去ったとは言い難く、これからまた戻ってくるような気配さえあった。
嫌な予感が浮上する。
目を逸らすことはできず、昌輝に非常事態が発生したという考えは捨てなかった。
嫌いな人種ではあるが、死んでほしいと思うほど憎くはない。
彼が託してくれたから、必要なデータも入手できたのだから。
「確認なんだけど、具体的に、二又が最後に現れたのはどの地点?」
「ここ」と姉川は地図上の一点を指さす。
「…カメラ越しで、この近くのバスに乗り込んだ姿は捉えた。追いかけて乗り込もうとしたけど、すでに二又はバスにいなかった。こっちはキツネにつままれた気分よ。どこで取り逃がしたのかしら」
当時の記憶をたどりながら、地図を睨みつける。
何度か見直してみたがさっぱりだ。
青いペンを使用し、二又のルートをたどる。
取り押さえるために次のバス停に回り込んだつもりだった。
二又が乗り込んだバスは、駅前だ。
次のバス停は郵便局が近い交差点だった。
間隔は10分もかからない。
バスのドアが開いた時には姉川も到着していたので郵便局の前で下りた形跡はなかった。
駅前に乗り、角を曲がって大通りを真っ直ぐ走り、鉄道高架下を潜り抜けてさらに真っ直ぐというシンプルな道のりだ。
他に二又を取り逃がした失態を思い返す。
移動手段はどうやらバスやタクシーを使用している。
追いかけた直後にはまんまと逃げられ、遊ばれた気分になって腹を立てたことが何度もあった。
乗車中の車を移した監視カメラからトコヨに逃げたのだろうか。
だとするなら、すれ違いが上手過ぎる。
目撃は、行動人数が限られている昼間に多かった。
過去のルートも記すが、悔しさが湧き上がるだけだ。
(不毛な追いかけっこ)
「も、もう出よっか…」
苦渋に満ちた姉川の表情に、落合は見兼ねて声をかけた。
「……そうね。続きは捜査会議で」
コートを手に取り、2人は立ち上がる。
「……………」
会計を済ませて店を出た矢先、姉川の顔色が悪くなった。
「華姉さん? 体調悪いんじゃ…」
落合が顔を窺うと、姉川は自身の体を抱きしめるような体勢になる。
わずかに震えていた。
「過敏になってるのかしら…。シャドウの気配を至るところに感じるの…」
「え…」
ここは現実世界だ。
落合は辺りを見回すが、異形の存在はどこにも見当たらない。
しかし、昼間だというのに、薄暗さのせいで不気味に感じた。
物陰や建物の隙間から出てくるのではないかと警戒した。
人や物の影から這い出るシャドウをイメージしただけで背筋が寒くなる。
過敏になっているのは落合も同じだ。
町は騒然としていると報道されたのに、目の前を通過する通行人たちが目的もなく歩いているようにも見える。
「そ、捜査本部に戻ろ…。普通じゃないよ…」
姉川の手をつかみ、優しく引いた。
「……そうね…」
捜査本部の方が居心地がいい。
強がらず、体調を整えておかなければもしもの時に何もできないと判断した。
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