02:I won't die yet
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手を触れずに建物や街路樹を発火させる、なんて非現実的なことが目の前で起こった。
肌に浴びる熱風が、頬を伝う汗の冷たさが、噎せかえるような焦げ臭さが、現実だと感じさせる。
辺りが赤く眩しく照らされる中、夜戸は男から目を逸らさず、逃げる機会を窺った。
「そこを動くなよ? 直接、一瞬で灰にしてやる」
「……………」
男はどんどん距離を縮めてくる。
興奮が抑えきれず、目をぎらつかせ、ポケットから両手を出した。
攻撃してくる瞬間、肩にかけたカバンを持ち直した夜戸は弾かれるように走り出す。
「!」
怯えて身動きができないものだと思っていた男は、驚いた表情を浮かべて思わず仰け反った。
夜戸はその隙に男の脇を走り抜ける。
「待て!!」
すぐさま振り返った男が夜戸の肩に手を伸ばした。
指先が触れる直前、逃走体勢だった夜戸の動きが変わる。
「!?」
「ふッ!」
一度足を止めて素早く男の手首をつかんで引き、自身より重く大きな体を背負い投げた。
「ぐあっ!!」
綺麗な弧を描くような一本背負いで地面に背中を打ち付ける男。
気絶までには至らず、男が脳の揺れに苦しんでいる間に、夜戸は背を向けて逃げ走った。
「ま…っ、待てコラァァァァァ!!!」
男はブチ切れ、倒れたまま夜戸の背中を睨み、怒号を上げる。
夜戸は振り返らずにひたすら走った。
「クソアマがぁぁぁぁ!!」
罵声を背中で受けながら、夜戸はふと思い出す。
(あの人………)
男の顔に、見覚えがあった。
だが、今は逃げる事だけに集中しなければ足が鈍ると思った。
(今は、逃げないと…っ、次につかまったら、殺される…!)
走っても、走っても、誰もいない。
それどころか、野良猫一匹見当たらなかった。
車も通らない。
周りの建物の照明も消えていて、助けを求めることもできない。
世界に、自分一人と、自分を殺そうと追いかけてくる男しかいない、悪夢の内容みたいだ。
どこにも逃げられる場所なんてないのでは、と絶望がせり上がってくる。
『諦め』を握りつぶすようにカバンの取っ手をつかんだ。
肩にのる重みは、カバンに入った大切な資料のものだ。
「まだ、死ねない…」
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