31:I'm gonna go on
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『あなたは偉大な祭司様の子どもよ』
そばかすの女が、誇らしげに頭を撫でてきた。
鼻を刺激するのは安物の香水だ。
手のひらの肌は荒れ、爪は割れていて日々の苦労を物語っている。
それでも魅力的に見せるために化粧を厚く塗りたくっていた。
内側の凶暴性はその下に隠されている。
『すべてを導くの。お母さんはとても誇らしいわ』
今までに見た事がない笑顔だ。
母親の目が血走っていても、血色が悪くても、それが二又が初めて見た笑顔だったのだ。
二又は目を覚ます。
タクシーの後部座席に座ったまま、短時間眠っていたようだ。
メーターは6000円を切っていた。
「呑気でいいわね。器を手に入れた余裕なのかしら」
隣に座る久遠が嫌味を口にする。
「目覚め最悪ぅ…」
手の甲で目を擦りながら二又は不機嫌な声を漏らした。
窓の景色からは真っ暗な海が見える。
一定の距離に置かれた街灯の明かりが眩しい。
海岸沿いを走り、タクシーは町に向かっていた。
この場所もトコヨエリアになったばかりだ。
着実に拡大している。
カーナビに表示された時間を確認すれば、午後20時を回っていた。
「祭司様」
目覚めを待っていたタクシーの運転手が声をかけた。
用件はわかっている。
ルームミラー越しに視線を合わせた。
「あいつらが町から出た様子は?」
「稲羽市から戻ってきてからは、エリアを出ようとはしてません。カミウミ様(夜戸明菜)の姿は見当たりませんが、町から逃亡した形跡もありません」
「たぶんアジト(本部)に残ったんだろうなぁ。カクリヨに侵入されたってのに慌てて現実に来ないところを見ると、冷静な判断というべきか…」
現実世界を歩き回ってくれていた方が都合がよかったが、すべて思い通りにはならないものだ。
「どうするの」
切れ長の目がこちらを睨んでいる。
手を加えたくなるほどきつい性格だ。
可愛げがなくてため息が出る。
「どうするものもなにもぉ…、捜せ、死ぬ気で」
寝起きとは思えないほどの鋭く刺さる眼差しとドスの利いた声に空気が張りつめ、久遠の体が凍りついた。
二又はニヤリと笑みを浮かべる。
「あの女の性格上、妹や他の奴らを置いて海外逃亡なんてしないだろぉ。残っててくれた方がいい。どっちにしても探すのクソめんどくせぇけどな」
「じゃあ…」
言いかけたところで二又は手を伸ばして遮った。
「Q、ガマンさせて悪かったなぁ…。お前の好きなことをさせてやるよ…」
「……つまり?」
尋ねる久遠の瞳に期待が宿る。
「ククク…。あの女の絶望ヅラを拝ませてやる」
よほど待ちわびていたのだろう。
久遠は嬉々として表情を歪ませた。
二又の目には、かつての母親の笑顔と重なって映った。
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