30:When You die, I'm by your side
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1月20日金曜日、午後16時。
下校時間を迎えた落合は、正門から出て住宅街に挟まれた緩やかな下り坂をおりていく。
カラオケに行こうとクラスメイトたちから誘われたが断った。
「ムリのない学生生活を送ってね」と夜戸に言われたが、様子が気になって授業中でもそわそわしてしまう。
頭上を見上げ、陰鬱な曇り空を睨みつける。
夜を迎える手前のように暗い。
冬の夕方など関係なしに、朝からずっとこの明るさだ。
学生の何人かが体調不良で休んでいたのが目立った。
インフルエンザでもないので、学校もどうしたものかと手をこまねいているらしい。
「さて、と」
ケータイを取り出してメールを確認する。
夜戸と姉川は同行しているようだ。
いつもの格好に着替え、合流してから捜査本部に行こうかと考える。
ここもトコヨのエリアの中だ。
監視カメラさえ見つければ出入りすることはできる。
学校近くの踏切が見えて来た。
カンカンカン、と警告音を鳴らし、黄色と黒の踏切が下りて立ち止まる。
他の学生も同じように止まっていた。
「!」
向かい側から、こちらをじっと見つめる視線を感じた。
はっとする。
羽浦ういだ。
感情の読めない顔で落合を見つめ、背を向けて走り出す。
「羽う」
声は、目の前を物凄いスピードで走り抜ける電車の音にかき消された。
踏切が上がる。
同時に走り出した。
羽浦が角を曲がったのが見えた。
深追いはだめ、と自分に言い聞かせながら追う。
持っていたケータイに目をやった。
夜戸達に報告するべきか。
姉川が受けた奇襲の事もある。
ケータイ内の電話帳を開いて夜戸にかけた。
姉川も一緒なら、「仲間を呼ぶ」という選択は間違ってないはずだ。
その頃、月子とツクモは、カクリヨの自室にいた。
着替えをしに来ただけなのに、かれこれ1時間ほど何かを探し回っている。
ベッドの下をのぞいたり、クローゼットの引き出しを開けてみたり、リュックの中を漁ったり…。
「月子ちゃん、どこに置いたさ? 本部に戻る?」
ツクモも協力して、毛布やシーツの中を潜って探すが、月子の探し物は見つからない。
「う~~ん。こっちに来てから解いたのは間違いないんだけど…」
月子はぺたんと床に座りながら記憶をたどる。
カクリヨにあるとは言い切れた。
「もう別の色でいいんじゃないさ?」
「えー。月子はあのリボンがいいの」
いつも髪につけている、月子の愛用のリボンだ。
髪をとかすために一度解いたのだが、どこに置いたのかわからない。
脱衣所も浴室も、さっき捜し終わったところだ。
「着替えを捜査本部に持ち込んで、そこの脱衣所で着替えればよかったのに…」
「あそこの着替えるとこ、せまくて月子の全身が見えないの。もうちょっと大きな鏡にしてよー」
「ツクモ流、こだわりのリフォームさっ」
「クレームは受け付けないさ」とぴょんっと跳ねて言い返す。
「大体、なくしたくない大事な物は、丁寧に扱うさ」
説教され、月子は「うう…」と唸り、口を尖らせる。
「大事にしてるもん…。ツクモだって、この前お皿わってた」
「あ、あれは、ふ、不可抗力っていって…、わざとじゃないさ」
痛い所を突かれて言いよどむ。
カウンターテーブルに飛びのった際、着地点に皿が置かれていたことに気づかず踏んづけ、滑ってしまった。
「それを言ったら月子だってわざとじゃ…」
揚げ足の取り合いの最中、
「何してるの?」
声をかけられ、振り返ると、部屋のドアの前に夜戸が立っていた。
「おねーちゃん」と目を見開き、月子は立ち上がる。
「あ、明菜ちゃん! 月子ちゃんがお気に入りのリボンをなくしたって言ってたから捜索中さ」
しょうがないさ、とツクモはため息をついた。
「どんなリボン?」
夜戸は月子に尋ねる。
月子は戸惑った表情を浮かべ、視線をうろうろさせながら答えた。
「……え…と…、青のリボン…」
「…月子ちゃん?」
月子の様子が変だ。ツクモは月子を見上げ、首をかしげる。
「おねーちゃんから貰った…」
月子の小声を拾い、夜戸は「ああ、あれね」と相槌を打った。
「どのあたりでなくしたの? あたしも探してあげる」
近づいてきた夜戸が小さな頭に手を伸ばす。
月子は前かがみになってツクモを抱き上げ、夜戸の横を足早に通過した。
「つ、月子、お風呂場さがしてくる!」
廊下を走り、リビングへと向かう。
「ど…、どうしたさ? 君が捜してるのは…」
浴室は散々捜したはずだ。
指摘しようと見上げ、「あ」となる。
月子の顔が強張っていた。
さすがにツクモもただごとではないと察する。
「おねーちゃんじゃない…」
「え?」
「お気に入りのリボン、って言っただけで、赤のリボンだってわかってくれるはずなのに…」
『どんなリボン?』
確かに夜戸はそう質問した。
その質問自体がおかしかった。
「お捜し物はこれ?」
「「!!」」
リビングで待ち受けていた人物に足を止める。
「リビングのテーブルの下に落ちてあるのを見つけたの。かわいらしいわね…。お人形さんにピッタリ」
赤いリボンの端を両手でつまみ、不気味な笑みを浮かべた。
「久遠…!」
ツクモは月子の腕を抜け出し、月子を守る為に前に出た。
露骨に久遠を警戒する。
だが、月子はツクモの横を走り抜け、久遠の持つ赤いリボンに手を伸ばした。
「返して…!」
バチンッ!
「うっ!」
容赦のない平手を頬に受け、尻もちをついた。
「何するさ!」
ツクモは駆け寄り、久遠を睨みつける。
「私…、子どもってキライなの」
口元は冷笑を浮かべ、両目は嫌悪を表していた。
「こんなもの、別にいらないし」
つままれたリボンが久遠の足下に落とされる。
「気付いてんじゃねえよぉ、面白くねーなぁ」
その時、夜戸の姿を借りた者は、変身を解きながら廊下を渡ってきた。
「二又!」
「姉妹揃って勘のいい…。本当にかわいげがねぇ…。だが、それを屈服させるのがイイんだけどなぁ」
口元を歪ませ、逆十字のピアスが光る舌を出す。
「どうしてここに…! ここは、おねーちゃんの世界よ。一度も来たことがないうえに許しも与えてもらってもないあなた達が入れるはずがない!」
月子は二又と久遠を交互に睨みながら声を上げた。
「アホかよ」と二又は嘲笑する。
「簡単な話ぃ…。関係なくなった。それだけ。お前らに安全な場所なんてねーんだよ。プライベートも丸見えだぁ。Q、そこの用無しのクソぬい、ゴミにしろ」
「言われなくても。フフ、あの女、どんな顔するかしら」
一度叩きのめされてから、夜戸に対し、内に渦巻く恨みを増大させている。
大事な妹を奪われ、大事なぬいぐるみをバラバラにされた時の夜戸の絶望を考えるだけでも久遠を興奮させた。
「ペルソナ!」
ツクモの体に甲冑が纏う。
「ヒハヤ…」
ガシャアンッ!
リビングのベランダの窓が割れた。
突き破って侵入してきたのは、すでに召喚されたシギヤマツミだ。
2丁のサブマシンガンをツクモに向ける。
「な…っ」
ヒハヤビが間に合わない。
ダダダッ!!
「わああっ!!」
耳をつんざく音と共に、弾丸が数十発撃たれた。
運良く甲冑に当たり、ツクモは床をバウンドして転がる。
床は瞬く間に、粉々に砕けたガラスが散らばり、銃痕で穴だらけになってしまった。
「ツクモ!」
「き、来ちゃダメさ!」
構わず、月子はツクモに駆け寄り、抱きついた。
「だいじょうぶ…。月子は殺されない…。……今は…っ」
利用価値があるなら生かしておくはずだ。
現に、シギヤマツミは攻撃をやめている。
「死なないのが不思議ってくらいの痛みは与えてあげられるわよ」
久遠が嘲笑混じりに脅してきた。
月子は恐怖で大量の冷や汗をかいたが、ツクモを離す気はない。
「ツクモ…、ごめんね…。おねーちゃんたちを守ってあげて…」
耳元で囁き、一気にテレビ目掛けて突進した。
「月子ちゃん!?」
「おい! テレビを…」
「うるさい! わかってるわよ!」
二又に促されて怒声を上げ、久遠のシギヤマツミの銃口がテレビを狙い、引き金がひかれた。
同時に、月子は胸の中に抱いたツクモをテレビ画面の中に突っ込む。
次の瞬間、銃弾がテレビ画面を破壊した。
「きゃ!」
テレビが吹き飛び、衝撃で月子は床に背中を打ちつける。
「チッ…」
ツクモがいない。
二又は舌を打った。
月子はツクモを逃がすことに成功し、ホッと息をつく。
捜査本部の出入口であるテレビは壊されたため、二又達もあとを追えないはずだ。
不意に髪をつかまれ、乱暴に引き上げられる。
「痛…ッ!」
痛みに歯を食いしばり、目の前の二又をキッと睨みつけた。
「行かせないから…」
「はっ。どうせお前を助けに来る」
「それでも、あなたの思い通りにはならない。おねーちゃんたちは、あなたのオモチャじゃない…」
目先に小型ナイフの刃を突きつけられ、血の気が引くのを感じる。
「クソ人形。生意気にベラベラ喋れるようになったじゃねーか。誰にそんな目ぇ向けてんだ」
低い声を出す二又は、イラついて殺気立っていた。
怖くない、怖くない、と月子は自分に言い聞かせる。
「てめぇを手に入れたらこっちのもんだぁ。恨むなよ。心を持っちまったお前が悪い」
(おねーちゃん…)
目を閉じた月子の脳裏には、捜査本部で過ごした、短い日々の楽しい思い出がよぎった。
(今日の日記…、まだ描けてなかったのに…)
.To be continued