30:When You die, I'm by your side
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1月19日木曜日、午前2時。
トコヨの探索を切り上げたあと、カクリヨにある夜戸の自室で、足立と夜戸は、ベッドに腰掛けながら月子について話し合っていた。
「月子を、学校に行かせてあげたいとは思ってるんです。あの子だって行きたいはず…」
「カクリヨでも、夜戸さんが出かけている間は、誰もいない小学校に通ってたって話してくれた」
「そうでしたか…」
そんな話ができるくらいに、足立達に心を許している様子だ。
姉としては嬉しいけれど少し寂しい。
「…現実に興味がないなら、そもそもテレビなんて見ないよね…」
「……新しくオープンしたお店とか、流行りのスイーツとか、かわいい動物とか、イベントとか…。勉強中、時折手を止めて食い入るように見てますから…」
けれど、現実世界に連れて行くことができないのが今の現状だ。
『二又が追いついてこないような……遠くの地に行くのは?』
提案したのは落合だ。
声は小さく、あくまで思いついた提案で、本気で実行されたら自分達が夜戸達と会えなくなる。
夜戸は首を横に振った。
『地球にいる限り、どこまでも追いかけてくる…。安寧の地なんてない』
過去に、逃げ切った者はいない。
月子と離れ離れに暮らすという選択肢も浮かんだが、身体が小さな月子をひとりにはできなかった。
見捨てるのと同じだ。
物騒な案も浮かんだ。
二又を殺して、二又が宿した神剣だけでも封印する。
追われる心配もなくなる。
思わず自嘲した。
(…バカね。そんな事実を抱えて生きていけるほど、あたしは死にたがりだったくせに、肝が据わってない)
血を流さない方法はないものか。
考えながら、胸の傷痕を撫でる。
黒く変色しても、ナイフとペルソナの能力に変化はない。
今はまだ、というだけかもしれない。
知らないことが怖い。
次はどんな変化が訪れるのだろうか。
月子はどうなるのだろうか。
守る為に自分が誰かを傷付けないだろうか。
「痛む?」
足立が横から顔を覗き込んでくる。
「い、いえ…、平気…」
「嘘。顔色悪い」
部屋は薄暗く、顔色なんてわかるはずがない。
でも実際、血の気がいいとは言えなかった。
「……少し…怖くなって…」
「うん」
「誰かを犠牲にしないといけない…とか…」
「うん」
「そうなったらあたしが…とか…」
嫌になる。
そういう考えが浮かぶのを、姉川は気にしていてくれたのに。
「うん」
「……………」
「深く考えることはないよ。犠牲も出さなくていい。そんなことしないと救えない世界なんて終わっちまえばいいんだ」
「でも…」
「死んだって、姉川さん達は君達姉妹を恨みはしないよ。現実世界の人間だって、君を知らずに誰を恨んでいいのかわからない」
「あたしは…恨まれることは怖くない…。むしろ恨んでほしいくらいなのに…。今までずっと切ってきた…。自分勝手に、見たくないものを切りまくって…。世界なんていらないと思ってたのに…」
これも自分勝手な話だ。
いらないと思っていた世界を、今では失いたくないと思っている。
現実世界は1度終わる。
消滅するわけじゃない。
しかし新しい世界にはもう自分の知っている秩序はすべて失われ、知った人間も欲の変化で別人になる。
足立達も例外ではない。
「あたしはまた…、自分自身の欲に呑まれそうです…」
制御がきかず、何をしでかすかわからない。
人を殺める可能性だってある。
「自分」を取り戻した今、耐え切れずに自ら命を断つのではないだろうか。
「気にする事はないよ。人間なんて欲まみれなんだから。月子ちゃんを護るために呑まれかけたら止めてあげる。耐え切れなくて夜戸さんが死んじゃったら、僕だって困るし。まあ…、ヒーローみたいに「必ず」って約束はできないけどね」
「……ええ…。でも、その時はせめて…」
わがままを言おうとすると、肩を抱き寄せられた。
「世界が終わっても、誰かを殺めてしまっても、君が死ぬ時は、一緒にいてあげる」
「………はい」
欲しい言葉も、足立は見透かして差し出してくれる。
貰ってばかりでは不公平で、足立がしてほしいことを探りながら行動に移す。
口付けをして、肩を押し、ベッドに押し付けた。
2人分の重さに、ベッドが、キシ…、と音を立てる。
足立は大人しく面白げに夜戸を見上げていた。
「あ」
「イタッ!」
足立の顔にメガネが落ちた。
眉間に食らい、足立は手のひらで顔を覆う。
「すみません」
「もう…。君にはまだ早かったんじゃないの?」
「押し倒すのに早いも遅いもないです。…襲いますけど」
「……笑わないからね?」
そう言いながら笑っている。
くだらないこと言うんじゃなかったと少しムカついて唇を甘噛みした。
それが欲しいものかは判然としないが、にやついた目を見る限り、足立の機嫌は良さそうだ。
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