30:When You die, I'm by your side
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1月15日火曜日、午後22時。
捜査本部を訪れた夜戸と落合は、テーブル席の光景に立ち止まる。
「で、合わせて引いていくつ?」
「14!」
「正解っ」
足立が、月子と一緒にソファーに腰掛け、勉強を見ていた。
プリントに赤ペンで花丸をつける。
「やったー」
問題が解けた感動に、月子は鉛筆を握りしめたままバンザイをする。
森尾と姉川とツクモは、カウンターからスナック菓子を食べながら見守っていた。
「おねーちゃん、花丸もらった!」
嬉しそうにプリントを見せてくる。
小学3年生の算数問題だ。
夜戸は「すごいね」と頭を撫で、得意げにペンを回している足立に声をかけた。
「みてあげたんですか?」
「うん。月子ちゃん、国語は得意みたいだし、文章問題とかなら、ゆっくり考えながらやったら解けるみたいだよ」
「…なんとなく、負けた気がします」
教えた事はあるが、わかりやすく教える、ということが今まで出来なかった。
「出所したら家庭教師とかやってみたら?」
姉川にすすめられるが、足立は「前科者は雇ってくれないんじゃない?」と興味なさげに返す。
「似合うとは思いますよ」
夜戸は、勉強を教えてもらった学生時代を思い出しながら言った。
月子はプリントを持ったまま夜戸の腰にしがみつく。
やりきって疲れがどっと出たのか、目がとろんとしていた。
「寝よっか…」
「うん…。透おにーちゃん、明日も教えて…」
「いーよ。おやすみ」
「おやすみぃ…」
夜戸と手を繋ぎ、2階に上がる。
よほど花丸が嬉しかったのだろう。
その時もプリントは少し皺がつくくらい大事に抱えられていた。
1月18日水曜日、午後18時。
夜戸はひとりで捜査本部を訪れた。
落合と姉川はコンビニでお菓子を買ってから来るらしい。
「あ、おかえりっさ~」
「ただいま」
ツクモが出迎えてくれた。
捜査本部のテーブルに、月子が黄色のクレヨンを握りしめたまま突っ伏して眠っていた。
「……これは…」
「絵日記だって言ってたさ」
テーブルにはクレヨンとA3スケッチブックの画用紙が散らばっている。
夜戸はひとつひとつに目を向けた。
最近、珍しく「欲しいのがある」と言ってきたので、百貨店の文房具売り場で見つけて買ってあげたものだ。
「日記帳とかあったのに…」
普通の日記帳では小さかったのか、画用紙の上部には体験を絵に描き、下部には黒のクレヨンで文字を書いていた。
“1月15日 トオルおにーちゃんに、花丸をもらった。おねーちゃんに「すごいね」とほめられた”
顔は丸く大きく、体は細く、手足は針金みたいに細い、デフォルメな絵だ。
赤いネクタイの人間と、メガネをかけた人間と、リボンをしたポニーテールの小人は、足立、夜戸、月子だろう。
特徴をとらえているのでわかりやすい。
「ふふっ」と夜戸は笑みをこぼす。
“1月15日 ねつがでた。ツクモとソラおにーちゃんがやさしくしてくれた”
同じ日付でも内容が違う。
これは熱を出した昼時の間の出来事だ。
“1月16日 アラシおにーちゃんからオカシをもらった。名前はぽっぷこーん。はじめて食べた。かむとふしぎな感じ。でもおいしかった”
“1月17日 ハナおねーちゃんとコスプレ。かわいい服をいっぱい着た。ピンクのワンピースがかわいかった。写真をとってる時のハナおねーちゃんは、ちょっとこわい”
今度は苦笑してしまう。
想像は容易だった。
(撮り過ぎ。怖がらせてどうするの)
内心でツッコみながら、絵に注目する。
クレヨンで描かれた姉川は、カメラを構えていたせいか、頭の部分がカメラに描かれていた。
(えいがのどろぼうみたい…)
この前、昼間のお出かけで姉川に連れていかれた映画館を思い出す。
上映が開始されたばかりのアクション映画で、その本編が始まる前に似たようなものを見た。
せめてソファーに横にさせてあげよう、と月子に近づく。
描き終わったばかりと思われる画用紙に目を留めた。
「…!」
画用紙には、8人の人物がにっこりと笑った顔で、ヒマワリ畑の中にいた。
メガネをかけた、もうひとりの人物から目が離せない。
黄色の花は隙間がないほどたくさん描かれてある。
1月18日 みんなでヒマワリ畑のゆめを見た。ひびきもいた。みんなわらってた。たのしいゆめだった”
左から、落合、森尾、ツクモ、月子、日々樹、夜戸、足立、姉川の順に立っていた。
「……月子…」
頭を撫でると、月子が手に持っていた黄色のクレヨンが画用紙を転がった。
夜戸は額を月子の後頭部に寄せる。
ツクモは切なげな面持ちで、姉妹を眺めていた。
「明菜ちゃん…」
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