30:When You die, I'm by your side
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
同日、午後22時。
捜査本部で全員が集まり、月子が2階の寝室のベッドで眠ったのを見計らい、それぞれの席に着いたところで姉川は本題に入った。
内容は、森尾にだけ打ち明けていた、神剣と生贄、世界の終わりについてだ。
生贄には、月子、夜戸、そして終焉を目論んでいる二又の3人が必要だ。
神剣を取り出すことが死を意味することは、すでに二又が口にしていた。
生贄の事についても、張り詰めた空気の中、夜戸は眉ひとつ動かさず聞いていた。
足立はトコヨの世界に踏み入れた日の事を思い出す。
稲羽市で起きたペルソナとマヨナカテレビについて話していた時も、夜戸は同じ姿勢だった。
ありえない、バカげている、と最初から否定しない。
「華ちゃん…」
夜戸の右隣に座る姉川は、次の言葉を待った。
嫌な汗が頬を伝う。
「調べてくれて、ありがとう」
夜戸は、震える両手をつかみ、礼を言った。
顔を上げた姉川は、小さな笑みを浮かべた夜戸の顔を見て、深く息を吐きだす。
「……遅くなって、ごめん」
「あたしこそ、気を遣わせちゃったね」
寄り掛かってきた姉川を受け入れ、夜戸は優しく背中を擦った。
「ツクモ姉さん、月子ちゃんの具合はどう?」
落合に聞かれ、ずっと捜査本部で月子と一緒にいたツクモは報告する。
「体調にはバラつきがあるさ。元気かと思ったら、苦しそうにしたり…、今日も昼時だけ熱が少しあったみたいで…、あ、今はよくなってるさ」
あとから落合が来てくれて、冷えたタオルで額を拭ったり、溶き卵と刻みネギを混ぜたお粥を食べさせたり、リンゴジュースを飲ませたりした。
月子自身は、「だいじょうぶ」と微笑み、健気な様子にツクモと落合は心を打たれた。
「二又には会わせない方がよさそうだな」
森尾の意見に全員が頷く。
「もうあいつにどんな事言われても連れてくるなよ、ツクモ」
「当然さ! 出禁出禁!」
ふんすっ、と鼻を鳴らすツクモ。
間違っても二又の侵入は許さない。
現状が一気に悪くなるのは目に見えていた。
「ちゃんと理由は話してくれないけど、月子がテレビから出なかったのはそのこともあるかもしれない…。二又の事も、全然話さなかったし…」
「夜戸さんも月子ちゃんばかり心配してられないよ。二又は君の事も狙ってるはずだから、現実で仕事があるかもしれないけど、できるだけ単独は控えて」
「……わかりました」
足立の言葉に、少し悩んだ表情を見せて、夜戸は頷いた。
「午後はボクが一緒にいるから」
「午前中はウチ」
落合と姉川が護衛を名乗り出る。
頼もしい2人だ。
「かわいそうだけど、月子ちゃんの場合、今は現実世界どころかトコヨに出すこともできない」
足立は腕を組みながら、2階を見上げた。
身体は子どもで、ペルソナを持ってないし、神剣の能力も対人戦には向かない。
「捜査本部なら安全っ。ツクモもいるさ」
ツクモは、ポコッ、と前足で胸を鳴らす。
体がソフトなので頼もしい音が出ない。
「いざとなったら、あたしがカクリヨに逃がします」
ナイフで宙を切り裂けば、ウツシヨからでもトコヨからでもカクリヨは出入り自由だ。
足立は元々持っていた能力でテレビから入ることができたが、本来ならば侵入者は許さない空間なのだ。
協力者である昌輝でさえ入ったことがなかった。
「二又は見つかった? カバネのメンバーとか」
足立が尋ねると、姉川は悔しげに顔をしかめて頭を垂れる。
「姿は何度も確認してるんだけど、追ってもすぐに撒かれるの。腹立たしいったら…」
「深追いはしないで。また…」
夜戸の脳裏に、二又にナイフで刺されて病院に運び込まれ、ベッドでしばらく意識不明で寝たきりとなった姉川の姿がよぎる。
姉川は安心させるように笑った。
「心配しないで。単独行動も避けてるから」
クラオカミなら捜査本部からでもトコヨの異変に気付き、行動することができる。
「明菜は何か…異変とかあった?」
夜戸は戸惑いがちに口を開き、白状する。
「胸の赤い傷痕が黒く変色して…」
「黒く!?」
ツクモは驚いて夜戸の胸に釘付けになるが、シャツのボタンは一番上まで留められたままだ。
「だから今日、ボタン留めてるのね…。見せてもらっていい?」
「うん…」
姉川に促され、傷痕が見えるまでボタンを外す。
途中、足立と夜戸は、同時に「ん?」と引っかかった。
(何か忘れてる気が…)
思い出せないままシャツのボタンを外し、傷痕を見せると初見の姉川達はぎょっとした。
黒い傷痕の周りに、花びらみたいな赤い痕がいくつも散らばっていたからだ。
「あ」
「あ゛」
((忘れてた…))
夜戸と足立は、しまった、と同時に顔に出す。
黒い傷痕と同じく突然現れたものだと誤魔化す余裕など生まれず、慌ててボタンを留めた夜戸だったが、もう遅い。
「キャ~~~ベ~~~ツ~~~?」
「ついに僕も野菜扱いだ」
ゆらりと席から立ち上がった姉川は、クロスボウを構えた。
可愛らしい声が、地の底から響き渡るような凄みを纏っている。
殺意を察して手前の扉に逃げようとした足立だったが、
バスッ!
「うわ!!」
矢が、手を伸ばしたドアノブのすぐ横に突き刺さり、ぴたりと動きを止める。
動けば、扉の飾りになるだろう。
「華ちゃん! 合意だから! 合意! 足立さんも! 後ろめたくないなら逃げないでください!」
本当に穴まみれにされそうだったので、夜戸は姉川を後ろから羽交い締めにして阻止して誤解を解く。
「~~~~っ大変な時にアンタら何しとんやー!!」
「姉川は何怒ってんだ?」
「明菜ちゃんに赤い傷痕が増えたさ!」
「まあまあ気にしなくていいと思うよ、兄さん。ツクモ姉さんも、赤いのはしばらくしたら消える痕だからねー」
あはは、とはぐらかす落合。
(娘に手を出されて怒り狂うお母…、いや、お父さんかな? 明菜姉さんのお父さんなら本気で殺しにかかりそうだけど)
六法全書で撲殺されそうだ。
「ああでも、なんだかいつも通りでホッとする…」
姉川に説教されている2人を見て、安堵の息をつく。
「ホンマにもう…。……えーと…、とりあえず赤飯でも炊く?」
「華ちゃん!?」
呆れられたかと思えば、小声で変な気の使われ方をされた。
「君さぁ…、実はそんなに怒ってないでしょ…」
「いや…、あの…、ツッコんだけど、よく思い返したらウチも人の事言えないし…」
姉川の視線がチラッと恥ずかしげに森尾に送られる。
頬杖をついていた森尾は思わず目が合い、ドキッと大袈裟に体が跳ねた。
見逃す落合ではなく、にやりと口角を上げる。
(これは色々聞かなくちゃ…)
神剣に関しての明確な解決方法はないが、重苦しい空気は顔見せ程度で、どこかへ行ってしまっていた。
.