29:Will you stay with me tonight?
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1月13日日曜日、午前0時。
捜査会議が始まる。
姉川は稲羽市で回収したデータにあったフォルダから欲望教に関する資料を印刷してきた。
数十枚のA4の紙が読みやすいように内容の種類ごとに分けられ、クリップで留められてある。
「遅くなってごめんね。長い事埋められてたせいか、痛んだフォルダもあって、復元が得意な人間を当たって直してもらうのに時間がかかっちゃった」
夜戸達は目を通す。
欲望教の活動記録や昌輝の研究内容が記載されてある。
「ほとんどが2人がここで話してた内容と同じだね。詳細バージョンがこれか…」と足立。
「人間相手の実験記録とかもある…。異常だよ」と落合。
「難しい文字ばっか使いやがって」と森尾。
夜戸は黙って資料に記載された文字を追っていた。
昌輝が話さなかった内容まで書いてある。
「…祭司の子どもって、二又だけじゃなかったんだ?」
足立が目を留めたのは、神剣の持ち主の対象になった子どもの名前だ。
全部で11人。
上から数えて11番目に、『二又楽士』の名前があった。
写真はなく、神剣を宿してからの実験記録が記されていた。
手頃のいい信徒の脳をいじくりまわしての記憶操作、その対象に年齢が関係あるのか、非道な実験ばかりで、読んでいた落合は気分を悪くしてカウンターに突っ伏した。
「みんな、苗字が違うさ」
ツクモは足立の頭の上にのって覗き込んだ。
「全員、異母兄弟。朝霧の血筋の女を集めたみたい。姓は母親のものね。二又が産まれた時、祭司は齢50を超えてた」
「元気だねぇ」
元々体が弱かった二又の母親は、二又を出産して数年後に死亡している。
「…他の子ども達は全員、自殺か精神崩壊。……精神崩壊が多いみたい」
「あたしの神剣は、自殺者が多かった」
胸の傷痕に手を当てた夜戸は静かに言った。
「二又のは他人の頭の中をのぞき込むこともできるんでしょ。無理やりさせられてたから、子どもの身じゃ耐え切れなかったんじゃない?」
足立は憶測を口にするが、納得はできる。
現に、最初はほとんど10歳ちょうどの実験体が多かったが、後半はできるだけといったふうに10代後半を選んでいる。
「自分の子どもが死んでるってのに、相当イカれてるぞ」
森尾は唾を吐き捨てそうになった。
「祭司にも何人か兄弟がいたみたいだけど、ほとんどが神剣の宿主で、祭司は種を残すためにわざと省かれていたらしい。祭司の親も、祖父も、まるで家訓のように繰り返してきた」
「子どものうちに死ぬ確率が高い。でも跡取りは残したいから、子作り役を残しておくと…」
ゾッとする話だ。
家系図をなぞれば子孫のほとんどが宿主となって死んだということになる。
我が子への愛など必要としていない。
「現在二又が持ってる、人間を操りやすい神剣を重宝してきた。信徒を増やすっていう目的もある。月子ちゃんは欠片を蓄える役だから、教育は一切受けさせず、幼い姿のままの方が都合がいい」
欠片を食べるだけの役割ならば赤子にも可能だったからだろう。
夜戸と姉川は眠っている月子に視線を向けた。
「明菜が持ってる神剣は、明菜のお兄さんが受け継ぐまで、女性の宿主が多かった。この場合、祭司の直系じゃなくてよかったみたい」
「女の人の方が適正があったから?」
ツクモは何気なく口にする。
姉川は顔をしかめながら答えた。
「単に、支配しやすかったから。男尊女卑が根付いてるとこあるわね」
跡取りの中にも女性はいなかった。
「うわぁ。ボクそういうのホント嫌い。男だけど」
嫌悪感を隠さず舌を出す落合。
「祭司がどこに行ったのか、結局わからずじまいか」
足立は資料をもう一度読み直してみるが、行方不明ということしか判明していない。
「自分の身が危うくなったら全部捨てて逃走。大層な極悪人だな」
裁かれなかった悪人の事を考えると、森尾は胃がきりきりとするのを感じた。
「二又はどんな気持ちで、実験に付き合ってたのかな…」
呟いたのは夜戸だ。
「そもそも、君の叔父さんが駆けつけた時にはボロボロの状態で檻の中に入ってたわけでしょ? 祭司を怒らせるようなことでもして痛い目に遭ったとか…、何か聞いてない?」
昌輝と二又の会話を思い出しながら足立は夜戸に尋ねるが、「わかりません」と首を振られた。
姉川にも視線で問いかけるが、こちらも首を横に振った。
「大方、嫌気がさして反抗でもしたんじゃない?」
「おいおい、あいつ、おっさん裏切って離れて単独行動してた時、他人で実験しまくってただろ」
嫌気がさした、なんて良心を持っていたのか怪しいものだ。
「でもほら、その時その時の気持ちなんて…。……そっか。あいつ…、ボクと同じ年頃で止まったままなんだ…」
言い出した落合がその事実に気付いた。
母親を亡くしているのに父親の言いなりで命に関わる勝手な重荷を背負わされたのだ。
恨みはしなかったのだろうか。
自分なら、と考えてみるが、闇が深すぎて想像図は真っ暗だ。
もう一度二又の実験記録に目を通す。
二又にまつわる最後のページに、記憶を奪えるか、改竄できるか、自身の記憶を植え付けられるか、同じ年頃の人間にそんな実験を繰り返してきた記録が残され、そこで途切れていた。
とん、とん、と足立は指先でカウンターを軽く叩いた。
「欲望教の蛮行が晒されたわけだけど、神剣に関するデータはこれ以上なかった?」
痛い所を突かれた、という姉川の一瞬の表情を、足立と夜戸は見逃さない。
「…まだフォルダに資料が残ってるから、今度はそれを持ってくる」
夜戸は促すことなく、「わかった」と頷いただけだった。
そこで、ふと、今日はコーヒーを飲んでない事を思い出した。
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