28:Let me sleep
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懐かしい夢を見た。
堂島家に夕飯に誘われて、4人でテーブルを囲んで賑やかな食事をしている。
二又が見せたものとは違う、馴染みのある光景。
今度はあの男も一緒にいたが、悪い気はしなかった。
畳の座り心地もいい。
匂いも嫌いではない。
1月6日日曜日、午前1時。
ふと目を開けると、穏やかな表情で見下ろしている夜戸と顔を見合わせた。
後頭部は柔らかな太ももの感触だ。
夢見心地のまま、首を傾げる。
月子を寝かしつけたあと、捜査本部のソファーで横になって寝たのは記憶している。
寝ぼけ眼で眺めていると、夜戸が口を開いた。
「ただいま」
「……おかえり」
少し遅れて返す。
言い訳にツクモは使わない。
心地のいい夢を見たおかげか、起きる気になれない。
むしろこのままでいたい気分だ。
夜戸も気にしている様子はない。
「いつ帰ってきたの?」
「えー…。5分ほど前…くらいですね。首を痛めそうだったので、勝手にまくらになりました」
言いながら、目を逸らした。
帰ってきてこの状態だったのは、5分以上前かもしれない。
「堂島さんちの匂いがする」
足立は寝返り、夜戸のジャケットの腹部に鼻を近づけ、すん、と鳴らした。
「スーツ、預けてたので」
夜戸もクリーニングに出されたのかと思ったが、堂島の甥が上手く乾かしてくれたと話した。
堂島の車に乗っていたのか、微かにタバコの匂いもする。
遠慮なくすんすんと嗅ぐと、夜戸は恥ずかしくて顔を紅潮させた。
「おかーさんには会えた?」
その質問に、ドキッとする。
それからゆっくりと頷いた。
「はい…」
夜戸は、今朝のことを思い出す。
夜勤が終わった時間を見計らい、病院を訪れた。
出入口で待っていると、母の陽苗にはすぐに会えた。
『母さん』
陽苗の姿が見えるなり、正面から堂々と声をかけた。
立ち止まった陽苗は目を大きく見開き、幻でも見ているかのような反応をした。
『……明菜…?』
娘の存在は理解していたつもりだった。
だが、面と向かって再会したことで、陽苗の中で封じ込められていた過ちの記憶が蘇った。
娘の胸に刃を食い込ませた感触、飛び散った血、押し潰されそうな罪悪感…。
手に持っていた小さな手提げかばんを落とし、頭を抱える。
『あ…、ああ…!』
夜戸は走り出した。
『母さん!』
そして震える母の体を力強く抱きしめた。
『会いたかった…!』
声を張り上げた。
陽苗に纏う影を払うように。
『明菜…、私…、あなたを…ッ』
抱きしめる資格はないとでも言いたげに、両腕は脱力したままだ。
それでも夜戸は離さない。
足下から崩れそうになっている母の身体を支える。
『大丈夫…。あたしは大丈夫だから…。あの時…、母さんが一番苦しんでたじゃない…』
大丈夫、大丈夫、と言葉と抱擁で示す。
『母さんと離れてる間も、あたしは母さんを恨んだことなんてない…。むしろ怖かった。捨てられたんじゃないかって。『あたし』なんていらないって思ってた。…でも、こんなあたしを、大切にしてくれる人たちを見つけたよ…。この町にも、一緒に来てくれた…』
離れたところでは、姉川と落合が見守ってくれている。
『母さん…、ごめん…。もう兄さんのマネはしない。できなくなった。それでもいいなら、あたしを見てほしい。そしてちゃんと母さんと話し合いたい…』
『明菜…ッ、明菜…! ごめんねぇ…!』
陽苗は泣きながら、娘を抱きしめ返した。
夜戸の目に涙が浮かぶ。
ずっと心に絡みついて締め続けていたギザギザの鉄線が、解けていく気がした。
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