28:Let me sleep
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同日、午後22時。
捜査本部は、足立、森尾、ツクモ、月子の4人だけだ。
「少し寂しいさ」
ツクモは自分の席に着きながら、夜戸にトイショップで買ってもらった小さなラッパを、プ~、と力なく鳴らした。
隣の自分の席に座る森尾は「こっちまで力抜けそうだな」と肩をがくりと落とす。
ソファーに腰掛けている足立は、ピンクの紙コップを3つ用意し、飲み口部分を下にしてテーブルに並べ、両手を広げて月子に見せつけた。
「さぁて、どれかな?」
先程、紙コップのどれかに袋に包まれたアメ玉を入れ、シャッフルしたところだ。
シャッフルを目で追っていた月子は、自信たっぷりに「これ!」と中央の紙コップを指さした。
「ブッブー」
中央の紙コップを持ち上げると、何もなかった。
「正解は…」と月子から見て右側の紙コップを持ち上げると、そこにアメ玉がある。
「ええー。絶対真ん中だと思ったのに」
前のめりになった月子は、アメ玉を睨みつけて悔しげに頬を膨らませた。
そして「もう1回!」と人差し指を立てる。
同じやり取りをかれこれ30分以上続けていた。
足立はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら「いいよぉ」とアメ玉に紙コップを被せ、再びシャッフルを始める。
ゆっくりした動きなので、目で追いかけやすい。
「これ!」
月子は、左側を指さした。
「ブッブー」
あるはずの左側はカラだ。
「…じゃなくてこれ!」
撤回を入れて右側を指さす。
「ブッブー」
アメ玉は中央の紙コップにあった。
「どうして~~~」
月子は頭を抱える。
「1回は当てさせてやれよ…」
森尾は、リアクションを面白がっている足立に呆れながら言った。
「世の中ってのは思い通りにはいかないんだよ」
「やかましい。小細工しやがって…。それってどうやっても当てられないやつだろ。俺にも出来るわ」
「へぇ? じゃあやってみなよ。僕が当ててあげるから」
テーブルに頬杖をついた足立は挑発してみる。
席を立った森尾は、簡単に乗ってきた。
こめかみに小さな青筋を立てている。
「言いやがったなこのヤロウ。どけ。アメとコップよこせ」
森尾は足立と、足立は月子と位置を入れ替えた。
どっかりとソファーに腰掛けた森尾は、中央の紙コップをアメ玉に被せる。
次にシャッフルをするのだが、相手が足立なので物凄いスピードでシャッフルした。
子ども相手なら実に大人げない。
眺めている月子とツクモにも、どれが当たりなのかまったくわからなかった。
足立は表情を変えず、ひとつひとつの紙コップに目をやり、視線を上げると、森尾は不敵な笑みを浮かべている。
「さぁ、どーれだ」
挑発混じりに、両手を広げて雰囲気を出した。
「……これって、絶対どれか1つに入ってるの?」
森尾の表情を観察しながら、ひとつひとつに指を差す。
「ああ」
「絶対?」
「くどいな。ケチくさい出店じゃあるまいし。絶対入ってるから早く選べよ」
森尾は強く言い切った。
早く足立に向かって「ブッブー」と言ってやりたいのだ。
「じゃあ…」
足立は右側の紙コップに右手を置いた。
森尾の口が嬉しそうに「ブ」と作った時、もう片方の手が左側に置かれる。
「この2つがハズレ」
森尾、月子、ツクモが「え」と声を揃えた。
目を点にしている。
「はい、どーん」
「ちょ」
森尾が手を伸ばして止める前に、左右の紙コップが持ちあげられる。
カラだ。
「…ってことは、中央が正解だよね」
「……………」
足立のやり方に、森尾はぐうの音も出ない。
「この中のどれかに絶対入ってる、って言ったのは君だよ。ほら、開けてみなよ。まさかカラってことはないよね?」
「絶対」の部分が強調された言い方だ。
「俺はお前のそーゆーとこが嫌いだ」
絞り出される声に足立は「ははは」と腹黒く笑った。
森尾が開けるか戸惑っていると、足立は右手で開けてみせる。
「でも本当になかったりして」
「あれ!?」
何も入ってない紙コップに月子が目を見開く。
森尾は「あ、俺が開ける前にっ」と足立の行動にびっくりした。
「あれ~? どこ行ったのかな~? ツクモちゃん、ラッパで呼んでくれない?」
「ラッパを鳴らしてもアメは返事なんかしないさ」
そう言って、ツクモはラッパを、プップーッ、と鳴らした。
車のクラクションの音に似ている。
その時、ラッパの口から、プッ、と何かが飛び出した。
足立は手を伸ばしてキャッチする。
「あ、ほらあった」
開かれた手のひらには、アメ玉があった。
「え!?」
「は!? いつの間に!?」
隠し持っていたはずの森尾が一番驚いている。
しっかりと手の中に握りしめていたアメ玉がなくなったからだ。
「すごーい!!」
月子は目を輝かせて拍手を送った。
「お前、出所したら手品師になっちまえ」
投げやりのように呟いた森尾はソファーにふて寝してしまう。
ツクモはまくらとなって心のケアに入った。
「子守歌奏でるさ? プップー」
「耳元でラッパはやめてくれ…」
月子は寝転んだ森尾の背中を見て、小さな欠伸を漏らした。
「眠い?」
「んーん」
足立に聞かれて首を横に振るが、表情は明らかにうとうとしている。
(子どもはとっくに寝る時間だもんなぁ…)
時刻は23時前だ。
「ねむくないよ…」
「寝ないと大きくなれないよ」
「月子、もう大きくなれないし…」
そうだった、と思いつつフォローを入れる。
「見た目はそうでも、心は成長するよ」
足立は月子を抱っこしてテレビの中からカクリヨへと入り、リビングに足を踏み入れた。
そのまま月子の部屋に移動し、ベッドに寝かせる。
移動中の間に、体温と揺れ心地がよかったのか、すやすやと眠っていた。
「精神年齢は見た目のまんま。…今なら菜々子ちゃんの方がお姉さんかもしれない…」
逮捕されたことで稲羽市と別れて1年経過したが、子どもの成長は早く、面会で堂島から聞いたが、背も髪も少し伸びたらしい。
嬉しくもあり、寂しくもある様子だった。
子煩悩ぶりが見て取れる。
目の前で眠る少女が大人になることは、本当に2度とないのだろうか。
それは夜戸も同じだ。
成長が止まらなければ、どんな姿になっていたのか。
気にしていた身長も少し伸びて、目線も近くなっていたかもしれない。
そんなことを考えながら、月子に首元まで毛布を掛け、部屋を出て捜査本部に戻ってきた。
床に足をつけた直後だ。
ウォーハンガーにかけていたジャケットのポケットから、着信音が鳴り響いた。
「!」
眠ってしまった森尾とツクモは気付かない。
足立はポケットに入れていたケータイを取り出し、画面を見る。
“夜戸明菜”と表示されていた。
「……………」
思わず周りを見回す。
ここはトコヨのはずだ。
普段は圏外で、現実世界からの着信は受け付けないはずなのだが。
怪訝な顔をしながら、通話ボタンを押して電話に出る。
「もしもし」
電話の向こうから、ガコン、と何かが落ちた音が聞こえた。
「夜戸さん?」
「あ、あ、あだちさん…っ!」
夜戸の慌てた声が返ってくる。
足立が着信に出ると思わなかったのだろう。
足立はおかしくてふっと笑い、夜戸が落ち着くようにいつも通りの調子で返した。
「はーい、こちら足立です」
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