28:Let me sleep
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「土地勘あるんだったら、お前も案内役で稲羽ってとこに行けばよかったんじゃねーの? ここは俺に任せてよぉ」
「……ジョーダンで言ってるんだよね?」
さすがの足立も森尾の発言を笑い飛ばせなかった。
半目で隣の森尾の横顔を眺める。
「まぁ…、半分は冗談だけどな」
森尾は欠伸混じりにそう言って、座ったまま両腕を上げて伸びをした。
(それでも半分なのか…)
1月4日金曜日、午後13時。
灰色の曇り空の下、足立と森尾は運動場の端で座り込んでいた。
灰色ばかりの天気のせいで、すぐに体を動かす気分にもなれなかった。
最近はそのせいか、運動の時間に参加する収容者の数も減った。
指で数えられるくらいの人数しかいない。
稲羽は晴天だろうか、と足立は稲羽市の風景を思い出し、空を仰いで雲の隙間を探す。
「空達、もう稲羽に着いた頃か?」
「どうだろうねぇ。この町から電車で行くとなると乗り換えも何回かするし、車でも行くのが億劫になるほどの距離だから。…心配?」
首を傾げた足立に、森尾は「心配だって?」と笑う。
「まさか。頼もしい奴らばっかりだぜ? 心配する方が失礼ってもんだろ。電車に乗ってるなら、修学旅行みたいって浮かれてんじゃねーのか?」
「同感」
小さく笑い、たまにはまともなこと言うよね、という言葉は引っ込めた。
「でも、夜戸さんには色々押しつけちゃったなァ…」
『出すもの出してください』
口からこぼした覚えもないのに、被害者への手紙があることに勘付かれてしまい、前日の接見室で夜戸に強引に奪われるようなかたちで持って行かれてしまった。
『弁護士としての務めですから』
凛々しい顔つきと、頼もしい一言だった。
「弁護士なんてよくやるよ。僕にはムリ」
「足立だって、ついこの間まで警察官だったじゃねーか。俺にはそっちの方が無理だ」
「えー。森尾君は警察官向いてると思うよ。体力底なしじゃないか」
「お前に言われてもなぁ…」
どうしてだか嬉しくなかった。
「失礼だねぇ。まあでも、僕の頭脳と君の体力が合わさったらちょうどいいってカンジじゃない?」
「お前も大概ド失礼だからなっ。どうせ頭悪りーよ、俺は」
「フン」と口を尖らせて拗ねてしまった。
足立は、子どもか、とため息をつく。
「…仕事熱心で、頭も良くて運動もできる夜戸さんは、俺達よりスゲーよな」
「はは。確かに」
兄の影を追いかけていてもいなくても、あの真面目さは性分なのだろう。
真面目ぶった挙句にひねくれた自分とは違うのだ。
「小栗原の弁護も請け負うことになったみたいだし」
「例の、元・カバネの子? 中学生だっけ?」
「ああ」
数日前、トコヨの探索を始める前に夜戸が森尾に言った。
『そうだ…。森尾君、小栗原君から伝言があるよ』
『俺に?』
現実世界へ帰った小栗原が、警察に自首する前に、友人の入院先を訪れたそうだ。
友人は頭や手足に包帯が巻かれていたが、意識ははっきりとしていて、突然訪問してきた小栗原に大層びっくりしていた。
小栗原は追い出される前に、と勇気を振り絞り、いじめに加担したことを頭を深く下げて謝罪した。
すると、友人は「おせーよ」と目に涙を浮かべ、「見舞いにくるのが」と続けて笑ったらしい。
『彼…、森尾君に「ありがとう」って』
夜戸が、その時の小栗原の表情を写してきたかのような微笑みを浮かべてそう伝えると、森尾は『そっか…』と頷き、じわじわと熱が上がる目元を手で覆った。
「夜戸さんでよかった…」
思い返した森尾は宙にこぼす。
「……そうだね…」
(僕も…、本人を目の前にそんなこと言えるかな…)
夜戸以外の弁護なんて、足立は想像もできなかった。
「よし。気分が乗ってきたところで走るぞ!」
勢いよく立ち上がる森尾。
「えぇ~。今日はもう休もうよ~。あともう3分くらいしか時間がなくない?」
「やかましい! たるむなっ。立てよ、ほら」
ぐいぐいと腕を引っ張られ、足立は渋々重い腰を上げた。
「引っ張らないでよぉ。森尾君、あれだね、コーチとか体育の先生の方が向いてるかも」
呟いた時には森尾はもう走り出していた。
「足立ィー」
「わかったってば」
上空は曇り空なのに、森尾の表情は晴れやかだ。
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