27:Well, where shall I start with...
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グレーのシャツと赤いネクタイ。
足立が言った特徴通り、ヒゲがあって、パーツがはっきりしているせいか強面だ。
頑固そうで、どちらかといえば足立が苦手なタイプではないかとさえ思う。
「今日は、よろしくお願いします」
「そう…かしこまらないでください」
一礼する夜戸に、堂島は苦笑した。
夜戸と堂島は、ジュネスを出て駐車場に行き、堂島の車に乗り込んだ。
荷物と花束は後部座席に置かせてもらう。
助手席に座った夜戸は、シートベルトを締める。
車内はタバコの匂いがした。
ユリの香りと混ざり合う。
タバコの匂いは平気な方だが、ブレンドされた嗅ぎ慣れない匂いに噎せそうになるが堪えた。
「ご家族と来られたのでは?」
「あー。あそこは甥とその友人たちのたまり場みたいで…。今回は菜々子…、娘も一緒です」
運転席に座る堂島は、車にエンジンをかけて発進させた。
ジュネスの駐車場を出る。
(ななこ…。ああ…、じゃあ、「お兄ちゃん」って…)
一目顔を見ておきたかった、とサイドミラー越しに、遠くなるジュネスを眺めた。
堂島は咳払いして切り出す。
「……足立は…元気ですか?」
飛び出した名前に、一瞬心臓が跳ねた。
「はい…。運動時間を活用して、秋ごろから軽い筋トレもしてるみたいで。特に体調を崩すこともありません」
「猫背は相変わらずだが、身体つきがしっかりしてきたのはいいことだ。他の収容者ともそれなりに交流しているみたいだからな。サボったら叱ってやってください」
「叱るのはあなたの役目では?」
「あいつ、俺の事どこまで話したんだ…」
呆れを含んだ小さなため息をつき、堂島は宙を睨んだ。
「よく怒られたって言ってましたよ。親にも殴られた事ないのにって」
「あいつが怒らせることばかりするからですよ」
足立の言い分が不服そうだ。
「でも、足立さんはあなたに心を許してます。おそらく、誰よりも慕っていますよ。話している時の彼は、本当に楽しそうで…」
思い出したら、嫉妬でまた胸がチクチクとした。
「あいつも、俺との面会中…、よく夜戸さんの事を話します。高校時代の後輩だということも。当時の夜戸さんと昼休みに図書室で勉強していたことも…。心を許しているのは、夜戸さんも同じですよ」
チクチクを跳ねのけて心臓が大きくバウンドした。
「そう…ですか…」
うわ言みたいな呟きだ。
「そうなんですね…」
今度は堂島の耳にも届くように言った。サイドミラーに目をやる。
口元が微かににやついていた。
手のひらで隠す。
「現在の話も聞きますが、10年ぶりとはいえ、時間も限られた接見室であそこまで親密になれるとは…。まるで毎日会ってるみたいな話し方で」
「親密って…。アハハ。ソンナコトナイデスヨ」
思わず片言になってしまう。
深夜に抜け出して捜査本部に集まってるなんて口が裂けても言えない。
ましてや現役刑事の目の前で。
車内が足立の話題で盛り上がり、落ち着いてから堂島は本題に移る。
ちょうど車も交差点の赤信号で止まった。
「どうします? 病院に行きますか?」
長らく音信不通だった母親が稲羽市の病院にいることは、夜戸から改めて電話で伝えていた。
夜戸は静かに首を横に振る。
「いえ…。先に、寄っていただきたい場所がいくつか…」
「足立にあなたの事を任されたんだ。遠慮なく言ってください」
「…事件現場と、ご遺族の家に……」
後ろからクラクションが聞こえた。
信号はいつの間にか青になっていたようだ。
発進しても黙っていた堂島は、「わかりました」と車を右折させた。
一方、落合と姉川は、タクシーで稲羽市中央通り商店街北側にある神社を訪れていた。
境内の左側にある小さな社には、ご利益がありそうな金色の鳥居が目立ち、2人は参拝してから奥の社殿へ向かう。
他に参拝者がいないか確認してから、裏手にまわった。
落合は見張りに立ち、姉川はカバンからビニール袋に入れた小さなスコップを取り出して地面に目を配りながら歩く。
「石…、石…」
呟きながら社殿の後ろをぐるぐると歩き回っていると、雑木林の近くの地面から突起した丸みのある石が3つあるのを見つけた。
点で三角形を描くようにそこにある。
「あった」
膝をつき、ビニールからスコップを出してそこを掘り始めた。
落合はハラハラしながら、時折姉川の様子を確認して誰か来ないか警戒する。
「!?」
急に現れるものだから、ドキッとした。
「キツネ…」
赤の前掛けをしたキツネが飛び出し、落合を窺っている。
何をしている、と目を細めた気がした。
「罰当たりなことしてるのは自覚してるし、掘ったらすぐに元に戻すから」
両手を合わせて言うと、キツネは「あ、そう」とでも言うようにそっぽを向き、どこかへ行ってしまった。
「とったど~!」
今度は声を上げた姉川に驚いた。
静かに、と注意しようとしたところで、土まみれの手に持たれた正方形の小さな鉄製の箱を差し出される。
「さっき中身確認したら、USBメモリが入ってた」
壊れていなければ、これから先の必要な情報が手に入る。
頬に土がこびりついたまま、姉川はニヤリと笑った。
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