27:Well, where shall I start with...
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「はい、はい…。すみません…。え。あ、わかりました。では、このまま…」
通話を切った夜戸は、ふう、と安堵の一息をつき、落合と姉川のもとへ戻る。
ここはジュネス八十稲羽店。
駅周辺の商店街でランチを済ませるはずが、ほとんどが正月休みだった。
「堂島さんがこっちに来てくれるって。ちょうど、ここに用があったみたいだし」
「ここまで来ちゃうとは思わなかった」と姉川。
「無難っちゃ無難だけどね」と落合。
一度商店街を出て、通りかかったタクシーをつかまえて乗り込み、運転手に『近くでランチができる店』と言ったら、ここに連れて来られた。
途中で下車すればよかったと夜戸は後悔する。
「駅からだいぶ離れちゃったから焦ったけど…」
連絡を入れる前に堂島から着信がきて、集合場所の変更のタイミングがよかったのが幸いだ。
どうやら、冬休みで都心から遊びに来た甥っ子をジュネスまで送りたいらしい。
「とりあえず、ごはん食べるところは…」
1階で案内板を捜していると、
「フードコートがあるクマよー」
「「「!?」」」
ひょっこりと現れたのは、青と赤のカラーリングの着ぐるみだ。
耳や体型は動物のクマに似ている。
(マスコット…)
(ジュネスにこんなキャラクターいたっけ?)
(かわいい…)
夜戸、姉川、落合は、ぴこぴことスキップする着ぐるみから目が離せない。
「クマも今からそこに行くクマ。キレーでキュートなおじょうさんたちをエスコートするクマ~」
人懐っこい声を出しながら、夜戸達をエレベーターへ案内し、「上にまいりま~す」と3階へのボタンを押した。
夜戸達4人をのせたエレベーターはゆっくりと上昇する。
(このクマさん…)
夜戸は着ぐるみの背中を見つめた。
不思議な感覚だ。愛嬌のせいか、誰が入っているかわからないのに、落ち着いてしまう。
「到着クマ~」
フードコートは屋上にあった。
ちびっこ広場もある。
「あれー? みんなどこ行ったクマか?」
着ぐるみは誰かを捜しているのか、きょろきょろとした。
それから夜戸達に振り返り、少し残念そうにうつむく。
着ぐるみなのに、表情があるようだった。
ツクモと似ている。
「おじょうさん達ともっといたかったけど、クマのご案内はここまでクマ…。ジュネスを楽しんでいってほしいクマ~」
最後は愛らしく手を振り、ぴこぴこと走って行く。
夜戸達も思わず手を振り返した。
「ありがとねー」
落合はお礼の声をかける。
「やっとごはんが食べられる~」
姉川は空腹のおなかを撫で、フードコートへ足を向ける。
ランチタイムがもうすぐ終わりそうなので、白い丸テーブルはいくつか空いていた。
フードコートの店は、焼きそば、たこやき、ラーメン、ソフトクリームなどがある。
「ビフテキ…」と夜戸は聞き慣れないメニューに関心を示す。
夜戸達はようやく遅めのランチにありついた。
屋台のように、好きな物を購入してテーブルに並べて食べ分ける。
「あ、ボク、ちょっとお手洗い」
席を立った落合は、荷物と上着を置きっぱなしにして階段を下り、2階の男子トイレへと駆けこんだ。
普段なら使う個室トイレは他の客が使用していた。
仕方なく、立って用を足すことにする。
ハンカチがちゃんとポケットに入っていたか思い出そうとした時だ。
「え!!?」
「あ」
ヘッドフォンを首から下げた同じ年頃の男子が仰天していた。
一度出て、慌てて戻ってくる。
しっかりと落合の容姿も確認した。
「ここ、男子トイレ…」
指を差して教えようとしていたが、落合の立ち姿を視界に入れ、再び雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
「!!!」
落合は「あ…はは…」と頬を引きつらせながら笑い、水と石鹸でさっと手を洗ってクリーム色のハンカチで拭きながら、ヘッドフォンの男子の横を走り抜く。
「お先でーす」
ヘッドフォンの男子は真っ白に固まっていた。
「わっ!」
トイレから出た矢先、背の高い男にぶつかりかける。
「っと、悪ぃ」
目付きの悪い男子だ。
飛び出してきた落合に目を丸くしていた。
「こちらこそ…」
ガラの悪い言い方だったが、落合からしてみれば印象は悪くない。
兄と似たような雰囲気を感じた。
「ん? ここ、男子トイレ…あ!」
面倒な事に気付かれる前にそそくさと逃げた。
目付きの悪い男子は落合を追いかけず、男子トイレの中で未だに立ち尽くしているヘッドフォンの男子を発見する。
「花村先輩? …もしもーし」
こんこん、とノックみたいに叩けば、はっと我に返ってフリーズ状態が解除された。
「完二…、俺はもう何を信じていいのか…」
膝から崩れそうになったが、場所が場所なので耐える。
「便秘っスか? ひょっとしてやっちまった?」
おかしな様子の友人に、的外れなことを聞き返した。
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