27:Well, where shall I start with...
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1月4日金曜日、午後13時。
タタンタタン、タタンタタン…。
規則的な音を立て、安定に揺れながら、夜戸、姉川、落合の3人を乗せた電車は着々と夜戸達が目指す目的地へと向かっている。
朝早くから出立していた3人は、時に持ち込んだスナック菓子を食べながら雑談し、時にババ抜きやウノなどのカードゲームに夢中になり、時にうたた寝をして、しかし乗り過ごすことなく、乗り継いだ電車に身を任せていた。
青いシートの席に座り、夜戸は向かい側のシートに座る姉川と落合に目をやる。
落合は姉川の肩に頭をもたせかけて眠っていた。
姉川は小さく笑い、窓から流れる風景を眺める。
夜戸も窓に目を向け、短い感想を口にした。
「のどか…」
白に近い灰色の曇り空の下、建ち並ぶ高いビルは見かけなくなり、山々と、田んぼや畑が視界に映る。
民家などもちらちらとあった。
「たまには都会の喧騒から離れてみるものね」
姉川も風景を眺めながら穏やかに言い、夜戸は頷いた。
今は慣れたものだが、人がうじゃうじゃいるほど、陰鬱な心の声が耳の中に入り込んできた。
どこへ行っても同じだと思っていたが、静かな田舎で暮らしてみる、という選択肢は考えもしなかった。
これだけ緑に囲まれているというのに。
それから30分が経過した頃、町と呼べる景色の中に入った。
田舎から抜け出せない町並み、特に際立つものがなく、大型チェーン店のジュネスが妙に異彩を放っていた。
まもなく、終点、八十稲羽。
車掌アナウンスが高めの声でそう告げると、落合が声に引き寄せられて目を覚ました。
「あ、ごめん華姉さん…。おもかったでしょ…」
はっとしたものの、眠気の残った声で落合が姉川から離れる。
姉川は「いいよいいよ」と笑った。
こうして見ると姉と弟…と言いたいところだが、落合の女装のせいで妹に見えてしまう。
2人は膝の上にのせていたコートを着始めた。
夜戸もロングコートと白のマフラーをつかみ、下りる支度をする。
電車がようやく停車した。
最初に乗った電車で見かけた乗客は、今はもう両手で数えられるほど減っている。
大きなキャリーバッグや土産の入った袋を見るに、正月休みを利用しての帰省、がほとんどの理由だろう。
「明菜姉さん、本当にスーツでよかったの?」
いつもの格好の夜戸に、落合は「おしゃれすればいいのに」ともったいなさそうに言った。
「堂島さんって人と仕事の話もしたいし…。母さんと会うなら、きちんとした格好がいいかなって…」
これが今の自分の姿だと教えたかった。
母の事を思い出すだけで、夜戸の表情が緊張でわずかに強張る。
心情を察した落合は「そっか」と言ってそれ以上は言わなかった。
電車を降り、改札へと向かう。
八十稲羽駅にはエレベーターもエスカレーターもなく、乗車の為に向かいから来る人間もいないので、一番最後に降りた夜戸達はうっかりトコヨに紛れんでしまったのではないかと錯覚するほど、駅は閑散としていた。
「最近は活気が戻ってるらしいけどね」
下調べしていた姉川はそう言いながら、自動改札機に切符を通す。
夜戸と落合も一度顔を見合わせ、あとを追いかけた。
(ここが…、八十稲羽…)
改札を出た夜戸は、町を見渡す。
信号機が見当たらない。
ロータリーには当たり前にあるものだと思っていた。
(足立さんが住んでた町…。そして……)
彼が事件を起こし、逮捕された町だ。
裁判の為に資料や情報、人の言葉だけに頼らず、いずれ訪れるつもりだった町だ。
「じゃあ、明菜!」
「わっ」
突然姉川に両肩を叩かれ、思わず体が跳ねる。
「集合時間よりだいぶ早く着いちゃったし」
「ボクらもうおなかが限界~」
空腹の落合が弱々しい力で背中を押してきた。
菓子では健全な男子の腹は満たされないらしい。
「確かに…、おなかへったね」
腕時計で時間を確認する。
張り切って予定より早く出立したため、まだまだ余裕があった。
ランチを食べ損ねていたので提案する。
「とりあえず、腹ごしらえしよっか」
2人は「賛成」と手を挙げた。
歩きながら、夜戸は、母親が住んでいるかもしれない町をじっくりと、目に焼き付けるように見回し、すう、と空気を吸い込んだ。
澄んだ空気だ。
(初めて町を訪れた時、足立さんはどういう気持ちだったのかな…)
堂島の話は楽しげにしてても、町を褒めることはなかった。
『調査もいいけど、平穏な田舎町を満喫してきなよ』
そう言って足立は手をひらひらとさせて独居房に戻った。
耳を澄ませる。
ホーホーホッホー、とどこかでキジバトの声が聞こえた。
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