26:I'm envious of him
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
初詣も済ませ、トコヨの捜査本部に戻って着替えたあと、メンバーのほとんどが解散し、足立は、テレビの中にあるカクリヨに入ろうとした夜戸を呼び止め、席に座ってもらった。
ツクモはソファーでスヤスヤと眠っている。
隣の席に腰掛けた足立の発言に、夜戸はメガネ越しの瞳を大きく見開いた。
「……母さんが…?」
「うん。稲羽市にいるってさ…。夜戸さん、居場所も割れた事だし、会ってきなよ」
「で…、でも…、そんな…突然…」
困惑するのも無理はない。
居場所も把握できず、10年も音沙汰がなかった母親だ。
あっさりと居場所が発覚して「会え」と言われても、素直に受け入れるわけもなかった。
「おかーさんは、稲羽市の病院で今も勤務中らしいよ」
「そんなことまで…。…教えたのは、父さんですか?」
「まあ、黙秘されそうだったけど、稲羽市に住む僕の上司から話は聞いてたから、そのことを伝えたらあっさり白状してくれたよ」
そもそも、母親の事を知っているのか質問をぶつけてきたのは、久遠に囚われていた時の影久だ。
朝霧陽苗。
夜戸の母親であり、堂島から聞いたのは、同姓同名の女性が、入院していた病院先に勤めていることだ。
「どうするかは君が決めなよ」
「…………あたしは…」
会いたい、という言葉は躊躇うが、会いたくない、とも言いきれなかった。
迷いがあるのは自覚している。
「あたしに会ったら…母さんは…」
ぎゅう、と胸元のシャツを握りしめた。
実の娘の胸を貫いて神剣を埋め込んだのは、二又に唆された母親自身だ。
拭いきれない痛みが、記憶と胸にこびりついている。
目が合い、声を聞けば、お互いにどんな反応をとるのか予測がつかない。
「まず、君は、自分自身の傷と向き合いな」
「傷……」
「母親に否定されることが怖かったし、そんな時に刃物でいきなり刺されてショックだったんだろ? それに、どちらにしても稲羽市…あの町とは因縁があるみたいだからね。調査も兼ねて行ってきてほしい」
足立の手のひらが背中に触れる。
「誤解しないでほしいけど、おかーさんと会うことは強制じゃない事だけはわかって。稲羽市には、姉川さんと落合君だけに行ってもらってもいいんだ。おかーさんのことも、君の中で引っかかってることかな、と思って僕が勝手に言ってるだけだから。余計なお世話だったら、ごめんね」
「……………」
無言だが、そんなことない、と首を横に振った。
足立は言葉を続ける。
「意を決して行って、どんな結果になっても、夜戸さんが帰ってくるのを…みんなとここで待ってるから…」
手のひらから伝わる熱が、心地よかった。
一人分の熱なのに、姉川達も一緒にいる気がして。
足立が、答えは今じゃなくていい、と言おうとしたところで、夜戸は言葉にする。
「目を逸らしてばかりじゃ…いけませんね」
自然と口元が緩み、「会ってみます」と言い切った。
前の夜戸なら、すぐに立ち止まっていただろう。
足立は少し間を置き、「わかった」と笑みを浮かべる。
「僕の上司…ああ、前に話した堂島さんって人ね。実は手紙はすでに出してあるから。あとは連絡取り合って。稲羽市、初めてでしょ? 世話焼きな上司だから、こっちが頼まなくても引き受けてくれると思うよ」
そう言って足立は立ち上がり、夜戸もつられて席を立つ。
「あ…、ありがとうございます…」
「これ、連絡先ね」
ウォーハンガーにジャケットをかけるついでに、ポケットから取り出した四つ折りの小さな紙には、すでに電話番号が記入されてあり、夜戸に手渡した。
「目付きとか鋭くて強面だけど、お人好しで娘想いのパパさんだから」
「へぇ…」
たまに雑談で堂島遼太郎の話題が出るが、話している時の足立は無自覚なのか楽しそうに見える。
どうもその様子が夜戸の心をチクチクとつついた。
「もしかしたらおスシとか奢ってもらえるかもねー」
思い出しながら話しているからか、ネクタイを外し忘れている。
堂島から貰った大事なネクタイ…。
(羨ましいな…)
自分の場合、こんな楽しそうに話題にしてくれるだろうか、と胸がざわついた。
「こっちがやらかしちゃったら、よくゲンコツされたもんだよー。こっちは親にも殴られたことないのにさぁ~」
足立が手前の扉に近づいた時だ。
夜戸は自身のメガネを外す。
「足立さん」
「何? うわっ!? んッ」
振り向かせた際にネクタイをつかんで引っ張り、前のめりにさせて唇を押しつけた。
突然の強引なキスに足立は目を丸くする。
慣れないのか、歯が軽くぶつかり、舌先が少し入った。
息苦しさを覚えたところで唇が離される。
夜戸は平然としていた。
「ちょっとムカつきました」
素直な気持ちを真顔で言われ、思わず、「え」と漏らす。
「おやすみなさい」
「外し忘れてますよ」とネクタイを外され、ぐい、と背中を押されて手前の扉の前に戻された。
「あ…、うん。おやすみぃ」
目をぱちぱちとさせていた足立も、平然と返してドアノブを開けて独居房へと戻る。
そして、扉を閉めて初めて気付いた。
戻り先への集中力が乱れたせいか、ここは、森尾の独居房だ。
今からウツシヨに戻ろうと布団の上に胡坐を掻いた状態でケータイを握りしめていた森尾が、目を点にし、足立を凝視している。
「え、え、え…、何でこっち来た?」
足立はストンとその場に座り、手の甲を唇に当てた。
「びっくりした」
「お前が言うの!?」
状況が呑み込めずツッコむ森尾。
その頃、夜戸は、
(あたし!! 何してんの――――っ!!?)
「何さ!? 何さ!? どうしたさ!?」
衝動のままに自身から仕掛けたつたないキスに、眠っていたツクモを全力で抱きしめ、恥ずかしさのあまりソファーで悶えていた。
.To be continued