26:I'm envious of him
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12月28日金曜日、午後13時。
拘置所は運動の時間を迎え、足立、森尾、鹿田の3人は運動場の金網に背をもたせ掛けて座っていた。
見上げた空は、灰色のままだ。
「面会?」
「夜戸さんが?」
足立と森尾は鹿田の話に聞き入る。
「ああ。弁護をさせてくれってよ。なははっ。俺に殺されかけたこと、全然気にしてないってふうだった。微塵も怯えてなかったな。こっちも妙に安心しちまったぜ」
夜戸が赤い傷痕をつけた犯人ということは、足立と森尾から聞いていた。
敵対している二又の事も。
「あと、赤い傷痕のことも自分だって打ち明けて、頭下げて謝られた」
「あー…、夜戸さん、責任を感じてるみたいで…」
森尾は焦ってフォローを入れようとするが、「わかってるって」と鹿田は手をひらひらさせる。
「その点については俺も責めなかった。傷痕のおかげで気付けたこともあったしな。俺はきっと、傷痕がなくても、いずれやらかしていただろうって…。前に服役していた時も思ってたことだ」
傷痕があった額を、指でなぞった。
欲望に従って行動しても、胸の中が満たされることはなかった。
追い詰められたはずの夜戸の目を思い出す。
怯えや軽蔑の眼差しではなく、今の自分に満足しているのか、これが望んだことなのか、と問いかける瞳に激昂し、あの時は思わず手が出てしまった。
夜戸と足立に敗北してから、今は、何をしても消えなかった憎悪の炎は、すっかり鎮火している。
「俺は任せることにした。前と違って刑期は長くなるかもしれないけど、力になってくれそうだ」
どんな結果になっても快く受け入れるだろう。
世間から白い目で見られても、奮闘し、支えてくれる人間がいるのだから。
今度はちゃんと自身の罪と向き合うつもりだ。
「夜戸明菜は、俺以外にも、傷痕を持ってた奴らに会うって言ってたな…。なはははっ。責任感じ過ぎだし、どんだけお人好しなんだよ」
おかしくて笑ってしまう。
足立と森尾にとっては初耳だ。
森尾は「じゃあ…」と呟き、小栗原零太の事をよぎらせた。
警察に名乗り出たことは聞いている。
友達には会えたのか、謝れたのか、と気にかけて聞きたいことは山ほどあった。
「あーあ」と鹿田は残念そうな声を出す。
「俺も好きになっちまいそー。よりにもよって、なんでお前なんだよ」
「俺も同じ事思った」
「2人ともこっち見るのやめて」
胡坐をかいた膝に頬杖をつき、苦い顔で2人から目を逸らした。
同日、午後17時。
夜戸は、とある拘置所に来ていた。
面会室の、アクリル板に隔たれた向かい側に座っているのは、トコヨの世界を利用して連続宝石窃盗事件を起こしていた、都口ジュリだ。
出会った時の濃かった化粧も今はすっぴんだが、肌はシミひとつなく潤いがある。
化粧をしている時よりも若く見えた。
宝石が散りばめられていたワンピースはここでは着ることは許されないので、地味な黒い服と、歩きやすそうなズボンを穿いていた。
スタイルがいいので見栄えは悪くない印象である。
「…アンタから手紙を貰った時は驚いたよ」
「会っていただいてありがとうございます」
頭を下げる夜戸に、頬杖をついた都口は、ふっ、と笑った。
「ひやかしじゃなさそうだ…。私の弁護をしたいって? 痛い目に遭わせたってのに…、物好きだね」
お互い、武器を手に、ペルソナを使って戦った記憶がよみがえる。
「物好きも何も…」
「ぜーんぶ自分のせいだって言うんだろ? 思い上がるんじゃないよ。私の罪は私だけのもんさ」
赤い傷痕の犯人が自分自身であることはすでに手紙で伝えてある。
面会室で顔を合わせるなり、そのことについて謝罪もしたところだ。
鹿田同様、頭ごなしに責められることはなかった。
「…その後は、いかがですか」
ツクモに赤い傷痕を塞がれ、現実に戻った都口は警察に自首した。
都口はうんざりした顔つきになる。
逮捕後は振り返りたくないものばかりだ。
「私の犯行にしては派手すぎたから、仲間がいたんじゃないかって、しばらくは留置場生活さ。取り調べって陰湿で嫌になったよ。ペルソナ…なんて、誰が信じるんだい」
「…それでも、あなたの真実を尊重したい」
「ふん…」
ぶっきらぼうに鼻を鳴らすが、夜戸の瞳から目が逸らせない。
綺麗事とは思えなかった。
「……元・旦那がね…、会いに来てくれたよ」
「!」
「これっぽっちも悪くないのに、自分を責めてた。私が犯行に及んだのは、自分のせいだって…。バカなのは、宝石なんて物にこだわってた私なのにねぇ。私が謝って、礼を言ったら、泣かれたよ…」
そう言っている都口は切なげな笑みを浮かべ、眉は微かに寄せられている。
「……………」
「気付くのが遅すぎた。でも、また…やり直せるんじゃないかって思ってるよ…。だから、早く裁判を終えて、ひと段落させて、あの人を落ち着かせてやりたいのさ…。お願いしていいかい? 弁護士さん」
塀の中だというのに、ようやく陽だまりの下に出られたような穏やかな表情だ。
「…はい」
笑みを返すと、フッと笑った都口に指先を向けられる。
「裁判で初めて見た時は、感情のない人形みたいで気味が悪いと思ってたけど、随分変わったねぇ。『愛』でも見つけたかい?」
ダイレクトなワードで指摘されてカッと顔が熱くなった。女の勘とは恐ろしい。
夜戸の表情を見て、都口は「ははは」とおかしそうに笑った。
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