26:I'm envious of him
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12月27日木曜日、午後23時。
夜戸達は調査の為にトコヨの町に赴いていた。
「クラオカミ」
姉川はひとり歩道橋からクラオカミを召喚し、水のイルカを飛ばしてそれぞれに指示を送る。
「ツクモはそのまま待機を続けて」
「了解さ!」
ツクモはとある場所で待機し、夜戸・落合班、足立・森尾班はシャドウを引きつけていた。
「空君、明菜、無茶しないでね」
「うん!」
「華ちゃんも気を付けて」
「森尾君、足立さん、気張って走りなさい」
「俺らも労われよ!」
「厳しいねぇ」
状況確認もシャドウの分析も完了していた。
姉川はすうっと息を吸い込み、全員に呼びかける。
「とにかく! 走れ―――っ!!」
夜戸達の後ろを追っているのは、車のタイヤの形をした大型のシャドウだ。
鋭いスパイク付きの、全長4mの胴体を持ち、ホイール部分は両目のない真っ白の顔に黒い唇だけがついている。
本物の車ほど速度は速くないが、夜戸達を轢き殺そうとしつこく追い続けていた。
「明菜と空君は右に曲がって! 森尾君と足立さんは真っ直ぐを維持!」
「疲れてきた…」
「へばんな! ぺしゃんこの穴まみれになるぞ!」
猫背気味に走る足立を一喝する森尾は、しっかりと両腕を左右に振って走っている。
西側の車道を走る足立と森尾に対し、東側の車道を走る夜戸と落合も徐々に距離を縮めてきた。
「森尾・足立班! かわして!」
森尾と足立は目を合わせ、同時にお互い別方向に飛んだ。
追いかけていたシャドウは突然の事にブレーキがかからない。
「夜戸・落合班!」
シャドウとギリギリの距離を保っていた夜戸と落合。
姉川の声に、「空君!」と夜戸は落合の手首をつかんでナイフで目の前の空間を切り裂き、カクリヨへ繋がる空間の裂け目の中に飛び込んだ。
2人の姿は忽然と消え、夜戸達を追いかけていたシャドウもブレーキがかからず、目の前の交差点の角から出現した足立達を追っていたシャドウと衝突する。
ツクモはその光景を近くで目にしていた。
「ツクモ!」
「やっと出番さ!」
姉川の掛け声に、車道の街灯の上に待機していたツクモが、2体のシャドウがぶつかって動きを止めた隙を突いてペルソナを召喚する。
「ヒハヤビ!」
ヒハヤビが飛ばした6枚の円盤は、2体のシャドウが離れないよう押しつける。
身動きが取れなくなったシャドウ達の前に、夜戸、足立、森尾、落合が並び立った。
夜戸はナイフを、足立はリボルバーを、森尾はバールを、落合はオノを向けてペルソナを召喚する。
「イツ!」
「マガツイザナギ!」
「イワツヅノオ!」
「ネサク!」
イツとマガツイザナギの刃がシャドウに突き刺さり、イワツヅノオは戦槌を打ち込み、ネサクは大鎌で切り裂いた。トドメに、それぞれの属性魔法を叩きこむ。
ドォン!!
2体のシャドウは爆散し、いくつもの破片を落として消滅した。
「イツの姿、変わらないね」
足立はイツを見上げて口にする。
カクリヨで戦った時と同じ姿だ。
「どちらかというと、こっちの方が本当のペルソナだと思います。前のイツは、隠し事をしていたあたし自身ですから…」
隠し事から自身も目を逸らしていたから、初期のイツの目が穴のない鉄の仮面で覆われていたのだろう。
正直、好戦的な容姿をしたペルソナを、あまりまじまじと見られてほしくない。
「前のイツも、夜戸さんの本当のペルソナだよ。ペルソナは、心の化身らしいから…。いいんじゃない? 強そうだし」
「気にしない気にしなーい」とへらへらと笑う足立に、小さな笑みをこぼした。
イツとマガツイザナギは互いにしばし見つめ合い、還っていった。
(な…、なぜだろう…)
(あの2人…というか、明菜を見てるとこっちまで照れるわ)
眺めていた森尾と姉川は、普段と変わらない2人の光景のはずなのに、事情を知ってしまったせいで両手で思わず顔を覆った。
森尾の隣にいる落合は、「兄さん、どうしたの?」と覗き込む。
(まあ…、微妙な空気だったりお互い避け合うよりかは全然平和でいいけど…。いいんだけどよぉ~)
モヤモヤして髪をぐしゃぐしゃと掻く森尾。
そっとしておこうと判断した落合は、「おつかれさ~ん」と走ってきたツクモに声をかけた。
「ツクモ姉さん…、トコヨのシャドウが強くなってると思わない?」
姉川の調査では、ここのところ、大型のシャドウが増えた。
昨日は住宅街にあるマンションにぶつかっているシャドウを見かけて戦闘になり、撃破した。
「シャドウだけじゃなくて、トコヨの範囲がまた広くなってるの。夜戸先生には、もう少し離れてもらった方がいいかも」
水のイルカを通して姉川が言った。
歩道橋から移動し、あと1・2分で夜戸達と合流できそうだ。
「でもでも、敵も強くなったけど、ツクモ達はもっと強くなってるさ!」
シャドウ達が落とした欠片を食べながらツクモは自信を持って言い放った。
夜戸は、月子の分を拾い集めながら「確かに」と優しく笑う。
その裏では、別の事を考えていた。
(トコヨは異常事態が起きてるのは確か…。カクリヨに紛れ込んだシャドウって、触れたら簡単に割れるシャボン玉程度のものが多かったのに…)
カクリヨの町で遭遇するシャドウは、月子でも容易に倒せて欠片を手に入れやすい存在だったはずだ。
それはペルソナを持ってなかった頃のツクモも同じだろう。
ある時を境に、欲望を暴走させた人間が出現し、シャドウも強くなったから足立に助けを求めたのだ。
この頃はトコヨの影響なのか、シャドウはカクリヨにまったく姿を見せず、トコヨで欠片を仕入れて月子に渡す日々ばかり続いている。
「…っ」
ズキッ、と胸に一瞬の痛みが走った。
後ろを振り返る。
ちょうど姉川が合流したため、そちらに気を取られて誰も夜戸の異変に気づいている様子はない。
ふう、と胸を撫で下ろし、メガネのフレームに触れた。
(この現実を…終わらせたくない)
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