24:Let's go back
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足立は、唐突にテレビを破壊した夜戸の行動に目を見開く。
「ごめんなさい…。あの姿だけは…見られたくなかった…」
子どもみたいに駄々をこねた挙句、みっともなく泣きわめくことは、夜戸自身が許さない。
「……みんなを巻き込んだから…、資格がないって思ってる…?」
「……………」
無言を肯定と受け取った足立は、軽く咳き込んで小さく笑った。
「はは…。変なとこ…頑固だよねぇ…。最期くらい…見せてくれたっていいじゃない…、君の…みっともないとこ…」
「足立さん…」
弱まってきた声に、夜戸は、触れることも躊躇った。
「ねぇ…、僕と面会室で初めて会った時…、君の目に…僕はどう映った?」
「……今まで出会ってきた依頼人たちよりも、姿がはっきりと映りました」
黒い影が、見当たらなかった。
保身に走らず、自身が犯した過ちを受け入れている。
どんな甘い言葉をかけても揺るがないルールが、彼の中に見えた。
「頑固は…どっちですか」と思わず言葉を漏らした。
現実の終焉への誘いに応じないとわかっていたからこそ、夜戸の最期の舞台に引き上げたくなった。
討ってほしいと願った。
足立なら、夜戸より現実を選ぶだろうと。
「どこかで…、現実なんて一度消えてしまえばいいなんて思ってたのかもしれない…。あなたにただ殺されたいのなら、全力なんて出さないはずだから…」
いつかの夜戸自身の黒い影達の囁き声が、耳にこびりついたまま離れなかった。
そして、ぐちゃぐちゃに渦巻く欲望が作り出したのが、今のイツの姿だった。
「僕が、君を殺せると思った?」
「……あの時…、お互いの過去を見えたはずですよ」
夜戸の行いを暴き、互いのペルソナがぶつかり合った瞬間、足立は夜戸の過去の一部を見た。
それは、夜戸も同じだった。
「……あなたから、稲羽市の思い出が流れ込んできました」
そこで足立がどんな1年を過ごしてきたのか。
上司やその娘と甥っ子と一緒に、4人で食事をしていた風景が鮮明に見えた。
過ちも、嫉妬も、悲哀も、小さな絆も。
足立の中では特別なものだ。
「少し…ショックだったのが…、それ以前の思い出が…なかったこと…」
学生時代の思い出は、捨てられたままだと確信した。
今思えば、あの町に対して嫉妬したかもしれない。
過去の自分も含めて執着されていないと知り、存在価値を改めて認識させられた。
足立は小さなため息をつく。
「もう一度…、見てみなよ」
伸ばされた手が、夜戸の手首をつかむ。
「え…?」
「見えなかったんじゃなくて…、君が見ようとしなかっただけだろ…。見えないのが怖くて…見なかった…。過去を捨てるなんて…口で言えて、形でどうにもできても、結局は内側にべったりと残るんだよ…」
「でも……」
「見ろって」
引かれた手は、足立の赤いネクタイの上から胸に置かれた。
逃げないように、夜戸の手の甲に足立の手のひらが重ねられる。
「…………!!」
意識を集中させると、当時の記憶と、夜戸が知らない一面が垣間見えた。
「教えてよ…。あの時君は、図書室で僕を待って、何が言いたかったの?」
足立が質問した時、巻き戻しの流れる風景に、最後に足立の目となって夜戸が見たものは、窓際の少女の姿だ。
「…っ、あなたは……」
痛みとは違う熱さが、胸の中に充満する。
内側から湧き上がるものを、ぐっと堪えた。
足立の手が、夜戸の手の甲から滑り落ちる。
「……足立さん?」
足立は目を閉じたまま、応えなくなった。
「……嫌…」
首を横に振り、温かさが残る右手を両手で強く握りしめた。
「行かないで…。あたしはまだ…、あなたに言ってない…! 結局…、言えてない…」
雪の中に消えゆく背中を追いかけ、つかまえて言えばよかった言葉だ。
「誰かの代わりなんて思ってない…って…。先輩だったから…、あたしは…好きになった…って…。あたしが、あたしのままでいていい場所をつくってくれた、あなたを…好きになった…」
やっと解けた、答えだった。
「……………今は?」
右目を開けた足立が、こちらの表情を窺っていた。
夜戸は、ハトが豆鉄砲を食ったような顔になる。
「……………はい?」
足立は「よいしょ」と半身を起こし、自身のジャケットに手を突っ込んであるものを取り出した。
メガネケースだ。
中央は、ナイフが刺さった穴が見当たる。
「ははっ。名演だったでしょ? お芝居で死体役でもやろうかなぁ。実はこれに刺さってましたー」
夜戸のメガネを預かっていた姉川から受け取り、内側のポケットに忍ばせていたものだ。
夜戸のナイフがそちらに刺さるために体勢をずらし、刺さりやすいように一歩踏み出して自ら勢いをつけた。
夜戸はきょとんとしたままだ。
対して足立はけろりとしている。
「メガネケースって頑丈だよねぇ。あー、でも、せっかく修理したのに…」
そう言いながら、中を開けて確認すると、メガネケースを貫通しきっていない上に、メガネ本体も無事だった。
「よかった、大丈夫みたい」
足立自ら掛けて確かめてみる。
掛け心地も申し分ない。
「それで…、夜戸さん、今も、僕のこと…」
バチンッ!
「イ゛ッ!!」
突然の夜戸からのビンタに目の前がチカチカと光った。
姉川より強烈だ。
「すっごく痛い…」
打たれた頬は熱を帯び、脳が揺れてくらくらする頭で「何するのさ」と言いかけた時、その表情に声を失った。
「うぅ」と唸り、ぽろぽろとこぼれた大粒の涙が、真っ赤な頬を伝っている。
足立は困った表情を浮かべた。
「ごめんね、僕の方がやりすぎちゃった…」
手を伸ばせば、びくりと夜戸の身体が跳ねる。
「触らせてくれる?」
その声に、本人が触るよりも先に夜戸が抱きついてきた。
それから、わあわあと声を上げて泣き出す。
足立は静かに頭に手を添え、柔らかい髪を撫でた。
「みっともなくても、いっぱい泣けばいいよ。今まで、ゆっくり泣くこともできなかったんだろ? 待っててあげるから…」
遠くで、森尾達の声が聞こえた。
もうすぐここに駆けつけてくるだろう。
「君の事、最後に世界がどうなっても、みんな見捨てず考えてくれると思うよ。傷痕から出来た縁も、あったっていいじゃない…。僕も、最後まで付き合うからさ…」
そして、「帰ろっか」と苦笑まじりに言った。
.To be continued